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ビタミンB1は重症患者で欠乏している?

急性期にビタミンB1の栄養投与を考えるうえで、そもそも重症患者でビタミンB1は欠乏しているのでしょうか?

昔々、1988年にCruickshankさんはICUに入室する患者の20%がビタミンB1が欠乏しており、このビタミンB1の欠乏が死亡率増加と関係していることを明らかにしました[1]。しかし、この当時はビタミンB1を直接測定できず、ビタミンB1に関係する酵素の活性を間接的に調べました。

そして、2010年にDonninoさんは敗血症の患者でビタミンB1欠乏の頻度を調べました。この時、ビタミンB1欠乏は9 nmol/Lで判断されたようです。30人中3人 (10%)にICU入室時にビタミンB1欠乏を認め、30人中6人(20%)にICU入室72時間以内にビタミンB1欠乏を認めたようです[2]。

さらにこのDonninoさんは2016年にビタミンB1投与の無作為化比較試験も実施しました。この無作為化比較試験では敗血症性ショックの患者を対象としてビタミンB1投与の効果を調べましたが、全患者を対象とするとその有効性は認められませんでした[3]。しかし、そのサブ解析でビタミンB1欠乏の患者を対象とするとその有効性を認めたようです。この時に敗血症性ショックの患者でビタミンB1が欠乏していた患者の割合はICU入室時で35%であったようです。ちなみにビタミンB1欠乏は≤ 7 nmol/Lで判断したようです。

別の研究では、2014年にCostaさんは敗血症性ショックの患者108人を対象にビタミンB1欠乏の頻度を調べたようです[4]。比較対象となった8人の健常者では血液中のビタミンB1の値は23.0 (17.5-39.8) ng/mLでした。そのためビタミンB1欠乏の定義は≤ 16 ng/mLとしたようです。その結果71.3%の患者にビタミンB1欠乏を認めたようです。

そもそも報告によりそもそもビタミンB1欠乏の定義も異なるんですね。何をもってビタミンB1欠乏というかによって異なりますが、少なくとも敗血症のような炎症性疾患の状態では多くの患者でビタミンB1が欠乏しているということが分かります。

小児ではどうでしょうか。昔々、1992年にSeearさんはICUに入室する小児の患者でビタミンB1の欠乏を調べたようです[5]。この研究もビタミンB1自体ではなくビタミンB1に関わる酵素の欠乏を調べて間接的にビタミンB1の欠乏を調べたようです。その結果80人中10人(12.5%)の小児患者、また抗がん剤治療を受けている患者では6人中4人(66.7%)にビタミンB1欠乏を認めたようです。その後、2011年にLimaさんはICUに入室する小児の患者でビタミンB1低下を57人 (28.2%)に認めました[6]。ビタミンB1の基準値は16–48 ng/mLであるため<16 ng/mLをビタミンB1欠乏の定義としたようです。

まとめると成人でも小児でもICUに入室するような重症患者では10-30%程度のビタミンB1低下を認めるようです。一方で敗血症、敗血症性ショックのような状態では30-70%もビタミンB1低下を認めるようです。

これらの結果からビタミンB1投与が必要そうな患者層がみえてきますね!

参考文献
[1] Cruickshank AM, Telfer AB, Shenkin A. Thiamine deficiency in the critically ill. Intensive Care Med. 1988;14:384-7.
[2] Donnino MW, Carney E, Cocchi MN, Barbash I, Chase M, Joyce N, et al. Thiamine deficiency in critically ill patients with sepsis. J Crit Care. 2010;25:576-81.
[3] Donnino MW, Andersen LW, Chase M, Berg KM, Tidswell M, Giberson T, et al. Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Trial of Thiamine as a Metabolic Resuscitator in Septic Shock: A Pilot Study. Crit Care Med. 2016;44:360-7.
[4] Costa NA, Gut AL, de Souza Dorna M, Pimentel JA, Cozzolino SM, Azevedo PS, et al. Serum thiamine concentration and oxidative stress as predictors of mortality in patients with septic shock. J Crit Care. 2014;29:249-52.
[5] Seear M, Lockitch G, Jacobson B, Quigley G, MacNab A. Thiamine, riboflavin, and pyridoxine deficiencies in a population of critically ill children. J Pediatr. 1992;121:533-8.
[6] Lima LF, Leite HP, Taddei JA. Low blood thiamine concentrations in children upon admission to the intensive care unit: risk factors and prognostic significance. Am J Clin Nutr. 2011;93:57-61.


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