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PICSの身体機能障害

ICU退室した患者さんの身体機能はどうなるのでしょうか?

病気は治ったけど、退院はできたけど、家には帰れたけど、

身体機能は問題ないのでしょうか。

日本での調査ではICUに入室して、退院して、6ヵ月後に身体機能の障害を認める患者さんの割合は32.3%のようです(1)。

このような長期的な身体機能障害をPICS(集中治療後症候群)といいます。

なぜ退院後も身体機能障害がおこるのか、どのような対応をしていけば良いのかを説明していきます。

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ICUに入室する重症患者さんはICU入室後に1週間で上肢の筋肉が16.9%、下肢の筋肉が20.7%萎縮します(2)。

これはICU入室中の異化亢進、不動化、栄養不良、薬剤など様々な原因によります。

この筋萎縮は筋力低下(MRCスコア:Medical research councilスコア)と相関しています(r = 0.47-0.46)(3)。

このようにして、ICU入室後に新たに発症した筋力低下をICU-AW(ICU-acquired weakness:ICU獲得筋力低下)といいます。

ICU-AWはICUに入室する重症敗血症患者の約50%に認めます(4)。

そして、ICUーAWは退院5年後の死亡率や、握力・6分間歩行・SF-36などの身体機能などとも関係しています(5)。

そのためICU入室中のICU-AWの予防は非常に重要です。

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どのようにすれば筋萎縮や筋力低下を予防できるでしょうか。

2009年にSchweickertらが早期リハビリテーションの無作為化比較試験を行い、早期リハビリテーションにより病院退院時の自立した身体機能を認める患者さんが多いことを報告しました(59% vs. 35%)(6)。

その後、2017年に本邦でも日本集中治療医学会の早期リハビリテーションガイドラインで人工呼吸管理を要する患者を含む全ての患者さんで48時間以内の早期リハビリテーションが退院時の身体機能改善などのために推奨されています(7)。

しかし、残念ながら、近年の解析(メタアナリシス)では早期リハビリテーションのみではPICS(集中治療後症候群)を予防するためには不十分なことが明らかとなりました(8)。

さらにICU退室後の病棟でのリハビリテーション介入を強化しても退院半年、1年後の身体機能には寄与しなかったようです(9)。

つまりPICSの改善のためには入院中のみでなく、退院後も考慮した長期的な取り組みが必要です。

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では、最新の機器を用いたリハビリについてはどうでしょうか。

シックスパッドのような電気で筋肉を収縮させる機械をEMS(Electrical muscle stimulation:神経筋電気刺激療法)といいます。

またベッド上でサイクリングするエルゴメータというリハビリ機器もあります。

残念ながら現時点ではこれらリハビリ機器の急性期からの使用はICU退院時の身体機能(MRCスコア)や退院半年後の身体機能やQOLを改善しないという結果がでています(10)。

エルゴメータ単独の無作為化比較試験でもエルゴメータを1日30分、10日間使用してもICU退室時のMRCスコア(57 vs. 58, p = n.s.)や退院6カ月後のEQ-5D(75 vs. 73, p = n.s.)を改善させませんでした(11)。

日本集中治療医学会の早期リハビリテーションガイドラインでもEMSの重症疾患への適応は研究が少なく、さらなるエビデンスが必要と結論付けています。

つまり、これらのリハビリテーション補助機器が有効でないとは結論付けられません。PICS予防に有効かはまだまだ研究が必要です。

PICSを予防するために、我々医療従事者に何ができるか、どのようなリハビリをすればよいか、まだまだ分からないことがたくさんあります。


これからも考え続けていきます。

参考文献
1. Kawakami D, Fujitani S, Morimoto T, et al: Prevalence of post-intensive care syndrome among Japanese intensive care unit patients: a prospective, multicenter, observational J-PICS study. Critical Care 2021; 25:69
2. Nakanishi N, Oto J, Tsutsumi R, et al: Upper and lower limb muscle atrophy in critically ill patients: An observational ultrasonography study. Intensive Care Med 2018; 44:263-264
3. Nakanishi N, Oto J, Tsutsumi R, et al: Upper limb muscle atrophy associated with in-hospital mortality and physical function impairments in mechanically ventilated critically ill adults: A two-center prospective observational study. J Intensive Care 2020; 8:87
4. Stevens RD, Dowdy DW, Michaels RK, et al: Neuromuscular dysfunction acquired in critical illness: a systematic review. Intensive Care Med 2007; 33:1876-1891
5. Van Aerde N, Meersseman P, Debaveye Y, et al: Five-year impact of ICU-acquired neuromuscular complications: a prospective, observational study. Intensive Care Medicine 2020; 46:1184-1193
6. Schweickert WD, Pohlman MC, Pohlman AS, et al: Early physical and occupational therapy in mechanically ventilated, critically ill patients: a randomised controlled trial. Lancet 2009; 373:1874-1882
7. 日本集中治療医学会早期リハビリテーション検討委員会: 集中治療における早期リハビリテーション ~根拠に基づくエキスパートコンセンサス~. 日本集中治療医学会雑誌 2017; 24:255-303
8. Fuke R, Hifumi T, Kondo Y, et al: Early rehabilitation to prevent postintensive care syndrome in patients with critical illness: A systematic review and meta-analysis. BMJ Open 2018; 8:e019998
9. Walsh TS, Salisbury LG, Merriweather JL, et al: Increased Hospital-Based Physical Rehabilitation and Information Provision After Intensive Care Unit Discharge: The RECOVER Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med 2015; 175:901-910
10. Fossat G, Baudin F, Courtes L, et al: Effect of In-Bed Leg Cycling and Electrical Stimulation of the Quadriceps on Global Muscle Strength in Critically Ill Adults: A Randomized Clinical Trial. Jama 2018; 320:368-378
11. Nickels MR, Aitken LM, Barnett AG, et al: Effect of in-bed cycling on acute muscle wasting in critically ill adults: A randomised clinical trial. Journal of Critical Care 2020; 59:86-93


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