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急性期のカロリー投与

急性期のカロリー投与について、代表的な3つの重症患者の栄養療法ガイドラインから紐解いていきます。

①米国を中心としたASPEN(American Society for Parenteral and Enteral Nutrition:米国静脈経腸栄養学会)の2022年のガイドライン

②西欧諸国を中心としたESPEN(European Society for Clinical Nutrition and Metabolism)の2019年のガイドライン

③日本で作成された日本版重症患者の栄養療法ガイドライン総論2016&病態別2017(J-CCNTG: Japanese Critical Care Nutrition Therapy Guidelinesです。

図2


急性期の必要以上の高カロリー投与は有害になる可能性があります!

僕も甘いものが好きで、フレンチクルーラーを食べ過ぎちゃいますが、重症患者さんでは高カロリー投与はどうなるでしょうか?

重症患者さんにおいては高カロリーは酸化ストレスを増加させ、ミトコンドリア機能不全、オートファジーに繋がるため、予後を悪化させる要因となります(1)。


一方で極度の低カロリー投与も予後を悪化させるためカロリーと予後はJ字状のカーブを描きます。


Weijsらは投与カロリーが必要カロリーより10-20%低い患者において生命予後が良かったと報告してます(2)。一方でZusmanらは投与カロリーが必要カロリー量の70-100%が最も生命予後が良かったと報告してます(3)。

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このように必要カロリーよりやや少なめにカロリー投与することをPermissive underfeedingといいます。いずれのガイドラインでも急性期はPermissive underfeedingを概ね推奨しています。

ASPENではICU入室後の7-10日間に12-25kcal/kg

ESPENでは間接熱量計で計測した消費エネルギーと同等または計算式で算出した目標エネルギー量の70%以下

J-CCNTGではカロリメトリーまたは25-30 kcal/kgやHarris-Benedictなどの計算式による必要カロリーよりも少なく投与することを推奨しています。

日本語版の敗血症ガイドラインでも消費エネルギーよりも少なく投与することを推奨しています(4)。

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次にこの必要カロリーつまり消費エネルギーはどのように計算するのが望ましいでしょうか。


最も信頼性が高いのは呼気中の二酸化炭素、酸素濃度から消費エネルギーを計算するカロリメトリーという機器を用いることと言われてます。

ASPENにはカロリメトリーの記載はないものの、ESPENではカロリメトリーを推奨しています。

メタアナリシスでもカロリメトリーを用いた栄養管理が短期生命予後を改善させると報告されています(リスク比 0.77[95% CI: 0.60–0.98, p = 0.03)(5)。


体重から計算した25kcal/kgやHarris-Benedictなどの計算式はカロリメトリーで測定した消費エネルギーと最大60%もの違いがあるとの報告もあり、必ずしも正確なものではありません(6)。特にHarris-Benedictの計算式では日本人の体格では7%ほど過剰栄養になる可能性が示唆されています(7)。


しかし、カロリメトリーでも不正確な消費エネルギーが算出される場合があります。例えば70%以上の酸素濃度を要する患者では不正確な場合があります(8)。またECMO(extracorporeal membrane oxygenation:体外膜型肺)やCHDF(Continuous hemodiafiltration:持続的血液濾過透析)を使用している患者さんでは二酸化炭素が除去されるため測定結果に注意する必要があります(9)。

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まとめます。

急性期のカロリー投与の合言葉は「Permissive Underfeeding」です。

可能であれば間接熱量計を用いて投与エネルギー量を求めるのが望ましいように思います。


過剰なカロリー投与に御注意です!

自分自身もドーナツの食べ過ぎに注意します。

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参考文献

1. McKeever L, Bonini M, Braunschweig C. Feeding during phases of altered mitochondrial activity: A Theory. JPEN J Parenter Enteral Nutr42:855-863,2018
2. Weijs PJ, Looijaard WG, Beishuizen A, et al. Early high protein intake is associated with low mortality and energy overfeeding with high mortality in non-septic mechanically ventilated critically ill patients. Crit Care18:701,2014
3. Zusman O, Theilla M, Cohen J, et al. Resting energy expenditure, calorie and protein consumption in critically ill patients: A retrospective cohort study. Crit Care20:367,2016
4. Egi M, Ogura H, Yatabe T, et al. The Japanese clinical practice guidelines for management of sepsis and septic shock 2020 (J-SSCG 2020). Journal of Intensive Care9:53,2021
5. Duan J-Y, Zheng W-H, Zhou H, et al. Energy delivery guided by indirect calorimetry in critically ill patients: A systematic review and meta-analysis. Crit Care25:88,2021
6. Zusman O, Kagan I, Bendavid I, et al. Predictive equations versus measured energy expenditure by indirect calorimetry: A retrospective validation. Clin Nutr38:1206-1210,2019
7. 佐々木雅也, 丈達知子, 栗原美香, 他. 総論 間接熱量計によるエネルギー消費量と基質代謝の測定. 静脈経腸栄養24:1021-1025,2009
8. Oshima T, Dupertuis YM, Delsoglio M, et al. In vitro validation of indirect calorimetry device developed for the ICALIC project against mass spectrometry. Clin Nutr ESPEN32:50-55,2019
9. De Waele E, van Zwam K, Mattens S, et al. Measuring resting energy expenditure during extracorporeal membrane oxygenation: preliminary clinical experience with a proposed theoretical model. Acta Anaesthesiol Scand59:1296-1302,2015


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