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おじさんとうさぎ#3「チョコくん登場

連休中土木のおじさんはうさぎ小屋の改修工事をしました。
大工仕事の苦手な、おじさんが作った小屋は欠陥だらけ、その欠陥のひとつは、雨の日対策のために作ったドアが、あまりにも大きく作りすぎベランダにぶつかって半分しか開閉できないことでした。
そのドアのおかげで冬の暖かい太陽が翳ってしまう・・・
おじさんはうさぎ達にあったかい太陽の光を与えてあげたくて、ドアの改修をしました。

改修の翌日おじさんが小屋に着くと、みんなうれしそうに太陽の下ひなたぼっごをしていました。おじさんはそんな子うさぎの姿をみてとてもうれしくなりました。

「おはよー、君達」 
おじさんは、みんなに声をかけて小屋の中を覗き込みそこでボーゼン。
中の汚れ具合といったら、それはそれはすさまじいこと・・・
ララ、チョコだけならトイレとケージ内の掃除だけで、あとはほとんど軽い掃き掃除でおわりなのですが、成長した子うさぎ達は容赦なく小屋のあちこちにおしっこウンチの嵐、おじさんは5分間小屋の前で、土木のおじぞうさんになってしまいました。

土木のおじぞうさん・・・、あいや、土木のおじさんは、しばらくの間ぴょんぴょん飛び跳ねている子うさぎを見つめ
「可愛いから・・・いっか」
そう言うとデッキブラシでゴシゴシ小屋の掃除をはじめました。
おじさんは普段は掃除などだいきらいなのですが、一度火が付くととことんやらないと気がすまない性質で、今日は前々から考えていた巣箱の整理にも、思い切ってかかることにしました。

小さな子供達が無事育った巣箱をおじさんは静かにながめ
「ごくろうさん」と巣箱に声をかけ中の巣材をとりだしはじめましたが、そこで思わず「ぐえ!」おじさんの額には青い線が・・・
子うさぎとはいえ長い間たまったおしっこや糞で巣箱の中もすごいことに、しばらくおじさんは呆然としていましたが、無邪気に遊ぶ子うさぎたちに目をやって
「かわいいから・・・」
また、そう自分に言い聞かせると、せっせと掃除を始めました。

おじさんは巣箱の掃除を終え、それを冬の寒さ対策のために巣材を引いて新しい場所に配置しました。
新しい配置になるとさっそくララと子うさぎ達が得意の偵察活動、
「なんだこれ、なんだこれ」
みんなで散々調べた後、納得がいったのかララはその上に飛び乗り、子うさぎ達は巣箱に入ったり出たりすっかり楽しそうな遊び場にしはじめました。

そんな姿を静かに眺めたあと、おじさんは二階のチョコに声をかけました。「ごめんなーチョコー、下は大変なことになってんだよー」

おじさんが声をかけると、チョコはおじさんが寒さ対策で作った箱の上から飛び降り、おじさんのもとに走ってきました。
チョコは勢いあまってとまれず30センチくらいすべっておじさんの前を通り過ぎ、あわててもどってくる。
おじさんはそんなチョコのスライディングを見るのが大好きでした。
チョコの小屋の中はとても綺麗で、おしっこや糞もケージの中にあるトイレにしてくれる、彼はとても手のかからない子でした。

「君は本当に手がかからないなー」
土木のおじさんはチョコの頭をなでながら、チョコが初めて会社にやってきたときのことを思い出していました。

ララは家族に加わってしばらくの間、おじさんの自宅マンションのエントランスにケージとダイソーでそろえた、おじさん自慢のサークルで過ごしていましたが、隣近所の問題からおじさんの会社に引っ越すことになりました。

おじさんの会社の隣には風とおしのよいタイヤ置き場があり、その一階部分におじさんはケージと手作りの小屋を造り、そこででララは暮らすことになったのですが、会社がおわって誰もいなくなるとララは寂しさからか、何度も脱走を繰り返してしまいました。

おじさんはそのたびに小屋を改造するのでしたが、ダイソーでそろえたフェンスネットの上にすのこを掛けたみすぼらしい小屋などプライドの高いララには耐えられないようで、朝おじさんが出社すると、小屋の入り口や屋根の上など、ララは何食わぬ顔でちょこんと座っているのでした。

そこで土木のおじさんはララの小屋の大改築を決意、ダイソーだけでなく今度は近くのホームセンターも使って見事な小屋を完成させたのでした。
それ以来ララは新しい小屋がきにいったのか深夜の脱走はしなくなりました。
しかしある雨の夜、おじさんは会社で一人ぼっちでいるララのことを思うと不憫でしかたありませんでした。

おじさんは、ララのためにお友達を探して一緒に住ませて上げたい。
それからしばらく、そのことで頭を悩ませていました。
そんなある日、土木のおじさんはララを買ってきたショップに足を運びました。
そこは大きなチェーン店だったのですが、驚いたことにララを買ってから二ヶ月、その当時ララと一緒に売り出されていた、うさぎさんたちはみんなショップの主のように店の小さなケースのなかに閉じ込められ横たわっていたのでした。
おじさんがそのこたちを不憫に思いながら静かにながめていると、セールススマイルのお姉さんが今度は二人コンビで近づいてきて、一羽のネザーランドの子を指差し
「この子もとってもいい子なんですよ~☆、ララちゃんとも、と~ても仲良しだったんですよ~」
そういいながら二人同時にダブルセールスビームを放ってきました。
おじさんは思わず可愛いネザーランドの男の子を買って帰りそうになってしまいましたが、気がつくと御財布を会社に忘れていたことに気が付き、セールススマイル姉さん達の脅威から逃れたのでした。

会社にもどったおじさんは、ネットでホーランドロップと検索、そこで多摩のはずれにある小さなうさぎさん専門店を見つけました。
おじさんの会社からは、かなり遠い店だったのですが、思い立ったら動かなければ息が出来なくなってしまうおじさんの身体は、勝手に勝手に車でその多摩のはずれに向かっており、気が付いたら店の前に立っていたのでした。

おじさんはその店の小ささに来るんじゃなかった(汗。
そう後悔しながら、しぶしぶ中に入っていきました。
「こんにちわー」
おじさんが土ぼこりとよれよれの作業着姿の土木ファッションでお店に入っていくと、中にはきれいな装いの若夫婦が小さな子うさぎを抱きながら、店長らしき人と話をしていました。
そしていっせいにみんなで私の方を見ると、さすがはうさぎさんを心から愛する人らしく、笑顔でおじさんに
「こんにちわー」とあいさつを返してくれたのでした。

店長は長髪をバンダナでおおい、細面な笑顔は何処となくウサギさんを創造させる人でした。
うさぎのブリード販売をするくらいの人は、どことなくウサギさんに似てしまうのかと驚いていましたが、そこでもろもろの事情を店長に話したところ、店長は
「別に一羽で飼ってても良いけど、もともとうさぎは単独で行動する動物だから、寂しいなんて人間の思い込みだよ」
あっけらかんとそう言って別のお客さんと話をしはじめました。

一見つっけんどな店長さんでしたが、おじさんは何としても売りつけてやろうとセールスビームをばしばし飛ばしてくる、大きなチェーン店の御姉さんとはまったく違うことを言っているのにびっくりさせらました。
おじさんは店長に食い下がりあれこれ質問をすると、店長は店の入り口付近で座っていた茶色いホーランドロップを指差して
「この子は本当はブリード用に売るつもりはなかったんだけど」
そう言ってその男の子をおじさんに触らせてくれました。

他の子には値札がついているのにその子だけは値札がなく、おじさんが手をそっと入れて触ってみると、
(もっとさわって、もっとさわって)
と人懐っこく擦り寄ってくる。おじさんはその人なつっこしうさぎに驚かされてしまいました。

人懐っこいといわれていたのに、ララは私達が触ろうとするとすぐに逃げてしまう。それなのにその子は触られている時、幸せそうに目をとじて、おじさんにも分かるよう
「きもちい~」という顔をしていました。

「もしも、お客さんのところのうさぎちゃんの父親にするなら、こういう気性のよい子を選ばなきゃだめだよ」
そういって店のカウンターごしに店長は微笑んでいました。
店長はおじさんに
「その下のパンダみたいな子がいるでしょ、その子なら女の子だけど、里親募集中だからつれていっていいいよ」
そう話しておじさんにさわってごらんと合図しました。
その子はびくびくしており、おじさんは出来る限りゆっくり手を近づけて、頭をなでてみました。子供のころよほど恐い経験があったのか、その子はひどくおびえており、おじさんはとにかく脅かさないように優しく話しかけながら、頭をしずかになでてあげました。
その姿を見ていた店長は
「あんたみたいなお客さんなら、その子も心ひらくんじゃないかな」
そう言ったあと
「ケージごとつれていきいなよ、お金は要らないから」そう言って微笑んでいました。

そう言われても、おじさんは小屋の準備も出来てないし、ララと一緒にしたら、気の強いララとけんかしそう・・・
おじさんは飼うなら、いつかララのだんなさん候補になる子との考えを店長に告げると
「それじゃさっきの茶色い子、売るつもりはなかったけどあなたなら5000円でいいよ」
そういってうれしそうに微笑んでいました。
土木のおじさんはしばらく考えたうえ、環境が整ったら迎えに来るからと店長に話してショップを後にしました。

帰りぎわにおじさんは、また茶色い男の子をなでると、その男の子はうれしそうにじーっとしていました。
そしておじさんが「じゃあね、またね」そう話して手を離すと、とてもさみしそうにおじさんを見つめるのでした。
おじさんは帰りの道中、その子のことが頭から離れませんでした。

もどって数日、おじさんは茶色い男のこのことを忘れることが出来ずいました。そんなある日ララを見に来たおじさんの長女が
「パパ今度は茶色い子がほしいね、ララの名前は私が考えたけど、こんどは弟のこーちゃんがチョコにするっていってるんだよ」
ニコニコしながらおじさんに話しました。
「茶色い子?」
(これは、お告げだ・・・、お告げに違いない)
茶色いホーランドロップが忘れられないおじさんにとって、その言葉はまさに天のお告げに聞こえてしまったのでした。

「茶色い子って、どうして茶色い子なんだ?」
おじさんは長女に尋ねましたが、長女はきょとんとした顔で
「どうしてって、茶色がかわいいから」
そう答えました。
「茶色い可愛い子いるんだよ。よし!お母さんに内緒で買って来ちゃおうか」
おじさんはすぐにショップの店長に電話で
「その茶色い男の子お盆があけたら迎えにいきます」
そう約束したのでした。
数日後、おじさんはその茶色いうさぎのことを奥さんに話すと、奥さんはあきれてはじめは反対していましたが、おじさんが長女から聞いたお告げの話を熱弁すると呆れ顔で了承してくれました。

お盆明があけると土木のおじさんは、茶色いホーランドのいるお店に向かいました。
おじさんが車を止めてショップの入り口に歩いていくと、ガラス越しに茶色い男の子がじっとこっちを見ていました。
「チョコ君」
その姿を見たとき、たまらない感動をおぼえ、足早にチョコに向かって歩いていました。


チョコの頭をなでながら、おじさんはチョコがやって来た時のそんな出来事を思い出していました。
そしておじさんの下で静かにしているチョコにそっと語りかけました。

「最初は反対したおじさんの奥さんも、いまでは君が可愛くてしかたないらしいぞ、ずっと友達でいような、いつまでも長生きするんだぞ」
おじさんはそう語りながらチョコの頭をやさしくなでつづけました。
チョコが静かになでられている間、一階ではチョコの子供達が、元気に遊び回っていたのでした。

チョコ君、いやーんのポーズ^^

つづく
最後まで読んでいただきありがとうございます。このお話は2007年から約9年間、おじさんの会社でみんなから愛されていた可愛いロップイヤーウサギと土木のおじさんの楽しいエピソードです。
今では月に帰ってしまったウサギたちですが、可愛い写真に心和ませていただけたらうれしいです。


爆睡するチョコくん

つづきはこちらです↓

前のお話はこちらです↓

おじさんとうさぎ目次です↓

土木のおじさんのWEBサイトです。
可愛いイラストなど公開しています^^↓


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