マガジンのカバー画像

少年の国

31
太平洋戦争が終わり、祖国である朝鮮半島へむかった少年、金海守(きむへす)の自伝的小説パンチョッパリ完全版。
運営しているクリエイター

2016年3月の記事一覧

少年の国 第28話 僕の冒険

 その後も僕たちは、善基兄さんを捜し続けた。しかし、来る日も来る日も、大きな進展はなく、疲れ果てて家路に向かう毎日が続いた。  そんなある夜、みんなと別れ家に着いた僕は、一瞬目を丸くした。そこには今まで見たことのない一家が疲れ果てた顔で寝ているではないか。お客なのかと思ったが、様子をみると明らかに避難民だ。夫婦と幼い子どもが二人もいる。そこへ奥の部屋にいたハンメが姿を現した。 「お帰り、海守。善基さんの手がかりはつかめたかい?」 「ううん……それよりハンメ、あの人たちは

少年の国 第27話 釜山の病院

 翌朝、僕はハンメの手を引いて釜山行きのバスに乗るため町に向かった。途中で龍大の家に立ち寄り、彼に理由を説明して、ハンメと一緒にバス停のある幹線道路へ向かった。  バス停でどれだけ待ったことか。やはり戦争の影響か、なかなかバスは来ない。やっと来たバスは満員だった。ガイドと思われる女性が「満員だから乗れない」とあしらうように僕とハンメを追い払おうとしてきた。僕は必死で叫んだ。 「叔父が釜山の病院にいます! 負傷兵なんです。ハンメの息子が死ぬかもしれないんです。お願いですから

少年の国 第26話 善花と善基兄さん

 翌日、龍大の家に行くと、彼は物置の前に、大きな布を広げて待っていた。布の中央に大きく「朴善基」と書いてあり、その脇には、前の日に僕が話した善基兄さんのことが、あれこれと書かれていた。 「すごい。よくこんな布があったな」 「まあな、こいつをこの竹竿に付けて、高く掲げれば目立つだろう。俺たち二人で持つんだぞ」 「さすが、龍大。これなら捜しやすい」  僕らは意気揚々と町に向かった。駅の近くには善花たちが行っているはずだから、僕らはもっと先の方に行くことにした。 線路の上

少年の国 第25話 善花の兄さん

 しかし、その翌朝、善花もつらい思いを胸に秘めていたことを知る。  僕はハンメが生活のため不自由な目で縫い上げた、数枚の子ども用のパジチョゴリ(韓国の服)を駅前の市場へ納めるため、大きな風呂敷包を抱え、再び避難民の人であふれる町へと向かっていた。そこで善花とその家族の姿を目撃したのだ。 「あれ、善花?」  思わず声を掛けようとしたが、彼女とそのアボジ、オモニの思い詰めたような表情は、何やら人を寄せ付けない雰囲気があった。僕は、彼らに見つからないようそっと後を追った。