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少年の国

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太平洋戦争が終わり、祖国である朝鮮半島へむかった少年、金海守(きむへす)の自伝的小説パンチョッパリ完全版。
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2015年12月の記事一覧

少年の国 第17話 心のふくろ

 内乱状況が進むなかで、日本からの連絡も少なくなり、僕たちの暮らしはさらに苦しくなっていった。  そんな生活にさらに追い打ちをかけるように、祖母の白内障は進行していった。祖母は家のなかではよく手探りで物を探していた。お金さえあれば、眼科医に診てもらうこともできるのだが、それも叶わない。  それにもかかわらず、僕はときにお小遣いをねだってしまう。以前、まだ少しだけ余裕のあった頃は、かわいい孫の頼みに無理をしても応えてくれたものだが、この時期になると本当にお金がないのだ。

少年の国 第16話 忍びよる戦争の足音

●忍び寄る戦争の足音  僕が自分の国に慣れるように必死になっている間、祖国も建国と分裂の道を歩み続けていた。北緯38度線の北には一九四六年に北朝鮮人民委員会が設立され、南には翌四七年にアメリカに亡命していた李承晩を中心にした南朝鮮過渡政府が設立された。  一九四八年になると、八月には大韓民国、九月には朝鮮民主主義人民共和国がそれぞれ樹立を宣言した。朝鮮半島に二つの「国家」が出現したことになる。それまでは米英軍とソ連軍との占領上の都合による境界線だった北緯38度線は、事実上