マガジンのカバー画像

少年の国

31
太平洋戦争が終わり、祖国である朝鮮半島へむかった少年、金海守(きむへす)の自伝的小説パンチョッパリ完全版。
運営しているクリエイター

2015年9月の記事一覧

少年の国 第7話 アボジとハンメ

 父の買った田圃はすでに収穫が終わっていたが、かなりの広さだった。 「海守、来年になったらお前もこの田圃を手伝うんだぞ」  父は何だか妙に張り切っていた。以前、水害で家の田圃を失い、それから十五年ぶりくらいで、自前の田圃を取り戻した、しかも自分の力でそれを成し遂げたのだから、感慨深いものがあったのだろう。  同時に高揚感もあったろうし、毎晩嬉しそうに酒を飲んでいた。日本にいれば、母が文句を言ったのかもしれないが、ここには誰も止める人もいない。ついつい、飲み過ぎては大きな

少年の国 第6話 祖国での洗礼

 第二章 祖国での暮らし ●いきなりの「洗礼」  こうしてたどり着いた釜山港で、僕たちは「祖国」に痛烈な洗礼を浴びせられた。  荷物を岸壁に下ろすと、父は一人でその場を離れた。「トラックを手配してくる」と言い残していた。僕は残された祖母や叔父と一緒に岸壁で待つことにした。まず、大事なお金の入った布団を中心にし、僕はその上に乗った。それを祖母や叔父が取り囲むように座り込み、小さめの荷物を各自の前に置いた。 改めて布団の上から眺めてみると、よくぞこんなに運んで来たものだと思