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After Fight~劇しき攻防~

私の席の真横を子どもが走って通り過ぎた。
日曜日の午後、ファーストフードの店内は子どもが多い。
真夏だというのにコートをまとった私は、アイスコーヒーを口元に運ぶと
同時に、サングラス越しにチラっと、足元のコンセントに差し込んでいる
充電器を確認する。
「あと10分・・」

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「朝、起きて充電すればいいか!」
そう思ったのが間違いだった。
今朝早く、特殊公安調査本部から、ミスターフラミンゴが5番街の宝石店を襲うと連絡が入ったが、朝が大変弱い私は、二度の連絡に気づかず、
三度目でようやく起きたため、充電する時間がなく、バッテリーの残量が
30%しかないパワードスーツを慌てて装着、「メタリックマン」となり
現場に駆けつけた。
今日のフラミンゴとの攻防は一進一退、パワードスーツのバッテリーは
かなり消耗した。

最新のパワードスーツは、昨年のモデルと比べ、格段に性能がアップして
いて、一般成人男性のおよそ20倍のパワーを兼ね備え、しかも壊れにくく
1万回もの衝撃試験もクリアしている。

そんな高性能・高品質を誇る最新パワードスーツだが、過去モデルから依然として残っている不便な点がある。
バッテリーが切れると動けなくなってしまう。
そして今、もう一つ不便な点があることに気づいた・・
スーツカラーがショッキングレッド。
かなり目立つ。
フラミンゴとの攻防後、バッテリーランプが点滅し始めたため、
慌てた私は、正体がばれないようにコートをまとい、ここファーストフードの店内に入り、充電をしているというわけだ。

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「あと充電完了まであと10分。」
最新モデルは、不便と言いつつも充電時間も大幅に短縮され、約30分で
充電完了する。
「あと10分、あと10分で満タンになる、もう少しだ。」
その時・・
「あれっ、メタリックマン!!!」
突然、後ろから子どもの声が聞こえてきた。
振り向くと子どもが足元に置いてあるメタリックマスクを見ている。
「しまった!!」
動揺する私。
「みんな、すごいぞ!!メタリックマ・・」
子どもが大声で叫ぼうとする瞬間、
私はあわててその口を塞いだ。
「しっ!しずかに!!いい子だ!!
そして息を殺しながらつぶやく。
「私はメタリックマンじゃない!」
その子どもは私の手を振りほどき、
「だって!それ、メタリックマスクじゃないか!」
足元のマスクを指して言った。
「違う!風邪予防のためのマスクだ!」
そう言ったあと、バイク用のメットとか、もう少しマシなごまかし方を
思いついたが、慌てていたため、そう答えてしまっていた。
「じゃあ、なんでこんな熱いのにコート着ているのさ!正体を隠してる
からだろ!!」
「違う!!」
「じゃあコート脱いでよ!」
「ゴホン、ゴホン、風邪気味なんだ、ゴホンゴホン!!!」
「もうひいてるじゃないかよ!」
先ほどは予防と言っておきながら、今回は風邪をひいていると言った
矛盾点をその子どもは、間髪入れずに指摘する。
「ゴッホン!!ゴッホン!!!」
ごまかすために、さらに大きく咳をする仕草をした、その瞬間、目を覆っていたサングラスが落ちた。
「あれ??アレン先生!?」
「・・・・・・」
私は何も言えず息をのむ。
「えっ?えっ?? え~~~~~~~~~っ!!
メタリックマンの正体は、アレンせん!!!!!!」
私は、慌ててその子の口を先ほど以上に強い力で塞ぎ、
「いや違う!そうではない!私はメタリックマンでもないし、
アレン先生でもない!!いや、アレン先生ではあってもいいか!
とにかくメタリックマンではない!!」
動揺を隠せない私は、言葉が支離滅裂になっている。
その子どもは、さらに追い打ちをかける
「その首の傷、フラミンゴのショットガンが掠めたときの傷だろ!!」
 ニュースで観てたんだよ!!」
「いやこれは、ひっかいたんだ!」
言い訳が雑になる。
さらに子どもの追い打ちは続く!
「そうかわかった!!メタリックマンが登場するのは、おもに土日だ。
 平日は学校の先生をしているからか!」
「素晴らしい推理力だ!君のほうが調査本部に向いてるぞ!!
あ~私は調査本部の人ではない! 」
余計なことを言い墓穴を掘る。
そしてさらに子どもは追撃。
「あっまてよ、そうか!!アレン先生は、たしか学生時代、ロボット工学に
 夢中だったと聞いた、子どものころから機械いじりが好きで、小学校時代
 のあだ名は、たしか天才スパナ!!」
「私の事よく知ってるな!」
「学校中の人に聞き込みをして調べたからね!!」
「なんでだよ!すでに怪しんでたじゃないか!!」
本当に以前から怪しんでいたのか、たまたま知っていたのか、その理由は
明らかではない。
その子どもの追撃は続く。
「さらに!中学に入り、その趣味はエスカレート!
 あだ名は"ネジが一本ぬけ作”!!」
「そうだ!明らかにピークは小学生だ!!」
どうでもいいことだが、その子どもは痛いところを突いてくる。

そしてその子ども、最後の追撃。
「そして決定的な証拠がある!!」
「なんだ!?」
慌てる私。
「アレン先生には妹が一人いる!!」
「・・・いるよ、妹がいるよ。別にいいだろう。」
なぜそれが決定的なのかはわからないが、私は観念した。
「分かった!!白状する!本当のことを言うから静かにしてくれないか。」
「わかった!!」
子どもは、満足そうにうなずいた。
「いいかい今から言うことはだれにも言わないでくれ!
 僕と君、2人だけのやくそ・・」
なんとか彼の口だけに留めておくため約束をしようとしたその時、
その子が思いがけない一言を放った。


「この店ってさ、コンセント使っていいんだっけ!?」
「え・・・・その・・・」
その一言に私は口ごもり、雑な言い訳すら出なくなっていた」
その子どもが大声で叫ぶ!!!
「店員さ~~~ん!!電気どろぼ・・・」
私は、三度その子の口を塞ぐ!!その力はパワードスーツ使用だ。
そしてついに最後の手段に出た。
「何が欲しい!!ほしいものを言ってくれ!!スケートボードか?
ニンテンドースイッチか?なんでも買ってあげるぞ!!」
かなり節操がないが背に腹は代えられない、金で解決できるなら
それがいい。
「え??いいの!!やった~~~~!」
子どもは大喜びで飛び跳ねている。
なんだかんだ言っても子どもだ。


私は一息ついて笑顔で言った。
「いいよ!欲しいものを言ってごらん!」
「僕、友達が欲しいんだ。」
「えっ・・」

「僕、友達が欲しいんだ。」
「僕、友達が欲しいんだ。」
「僕、友達が欲しいんだ。」

この声が私の心をこだまする
私は汚い大人になってしまった。
自分のしたことが、恥ずかしく、そして情けなく、みっともなく感じた。
そしてその子どもはつぶやいた。
「僕と友達になってくれたらこのことは言わないよ。約束だよ!!」
私はかなりバツが悪かったが、その子どもと固い握手をした。
その瞬間!!
ピピッピピッピピッ!!
パワードスーツ充電完了しました。
メタリックマンスタンバイOKです!

パワードスーツ充電完了しました。
メタリックマンスタンバイOKです!

パワードスーツ充電完了しました。
メタリックマンスタンバイOKです!

普段私は、パワードスーツのタイマーを目覚ましとして使っている。
寝起きの悪い私は、タイマーの音声レベルをMAXにしている。
充電の赤いランプが青に変わると同時に充電完了の声が店内に響き渡った。

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