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ここにしかない出会いと原体験〜高校における野外教育の可能性 【週刊新陽 #116】

突然ですが、日本野外教育学会をご存知ですか。野外教育の発展を目的として1997年に設立され、現在は約400名の研究者や実践者の方々が会員として活動されているそうです。

先日、北海道教育大学岩見沢校で開催された『日本野外教育学会 第26回大会』に呼んでいただき、髙橋励起先生や植田先生と一緒に参加してきました。

すると、新陽高校の野外教育(アウトドアプログラム)に予想以上の反響がありました。特に野外教育のプロの方々からたくさんのフィードバックや期待の声をいただき、あらためてその可能性を感じたので、今週はそのことについて書きたいと思います。

新しい科目は『アウトドア探究』

7月1日(土)、岩見沢は曇天で少し寒いくらいでしたが、会場は100名以上の会員の方で埋まり熱気に包まれていました。

会場の北海道教育大学岩見沢校
メイン会場は開会早々からほぼ満席でした

実行委員長の前田和司教授(北海道教育大学岩見沢校)のご挨拶から始まった開会式に続いて、中村誠宏教授(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)による基調講演『気候変動や生物多様性の視点から、北海道の森林の「いま」と「これから」を知る』、そして実行委員会シンポジウム『野外教育のポテンシャルと可能性〜実践での取り組みから』が行われました。

私はこのシンポジウムに、浦河フレンド森のようちえんの伊原鎮さんと、十勝岳温泉・凌雲閣の青野範子さんと一緒に登壇。コーディネーターは濱谷弘志准教授(北海道教育大学岩見沢校)です。

伊原さんからは、「自然体験」と「安心安全」そして「良い教育」という3つの柱をどのように幼児教育で実現しているか、また、6月に開校したばかりのオルタナティブ・スクールの説明もありました。

青野さんは、本州とは違う北海道の特色や十勝岳にしかない自然体験について紹介。ガイドの拠点作りや魅力発信など、これから力を入れたいことについても熱く語ってくださいました。

私は新陽での実践と、We-Steinsの建築STEAMプログラムをプレゼン。2017年に始まった新陽のアウトドアプログラムは、課外活動や宿泊研修でのキャンプ、教科横断的な授業の一部として行う活動などを経て、とうとう今年度、学校設定科目の『アウトドア探究』として開講します。そこで、ここに至った背景や一つの科目として立ち上げたねらいなどをお話しました。

プレゼンで最後に示したキーワード

パネルディスカッションでは、「自身のフィールドで野外教育がどのように機能しているか(どんな効果があるか)?」というお題に、3人がそれぞれの実践と絡めてコメント。

自然が身近にある北海道、という共通点がありながら、ターゲットとする年齢層や活動が異なる伊原さんや青野さんのお話は大変興味深かったです。

もう1つのお題の「研究者に期待することは?」に対しては、実践を後押しするエビデンスや理論を共有いただきたい、実践者の育成に協力して取り組みたい、そして、せっかく素晴らしい研究や実践があるのでもっと発信してください!とお願いしました。

基調講演された中村先生、シンポジウムを担当した
濱谷先生、青野さん、伊原さんと。

特色は魅力になる

今回の大会の事務局長でもある山田亮准教授(北海道教育大学岩見沢校)は、新陽の野外教育の助言者であり協力者です。また、新陽の卒業生が山田先生のもとで現在学んでいたり、山田先生の研究室の卒業生が今年から新陽の教員になったり、人材の面でも繋がっています。

シンポジウムの後のポスターセッションでは、山田先生と一緒に設計し実施したプログラムを中心に、励起先生と植田先生が発表しました。

タイトルは『高等学校における野外教育の可能性とその実践』。

すると、いわゆる普通の高校で一つの科目として野外教育を取り入れ、それが単位になることについてかなり驚かれ、「なんでできるんですか?」と何度も質問されました。

それはきっと裏返せば、全日制普通科高校で、しかも宿泊研修や特別活動ではなく通常の授業として野外教育を行うなんて難しいのではないか、と思っている方が多い、ということなのだと思います。

北海道だからできる。
単位制だからできる。
新陽高校だからできる。

すべてその通りです。でも、それが正解でもない気がします。

学びの設計をするのに、実施できるかできないか(大人の理由)は二の次だと思うのです。生徒にとって必要で有効な学びなのか、それが大事です。生徒がやりたいと思う、そして教員自身やりたいという衝動に駆られる、それさえあれば大抵のことは実現できるのではないかと思っています。

励起先生と植田先生のポスターの前は
掛け値なしに、会場で一番賑わっていました。

ちなみに、『アウトドア探究』は、新陽の単位制カリキュラムにおける学校設定教科『出会いと原体験』の中の1科目です。学校設定教科・科目とは、生徒や学校、地域の実態及び学科の特色等に応じ、特色ある教育課程の編成に資するよう学校が独自に定められるもので、新陽には他に『e-sports研究』『澄川学』『Google演習』などがあります。

このどれもが本校の特色ある科目として設定されていますが、自分達が思っている以上にその特色は、新陽にしかない魅力なのだと、今回気付かせていただきました。

自然の中で自然に生きる経験

学会後に、励起先生が以下の文章を公開していました。ご本人の了承をいただいたので引用して紹介します。

『意志を継ぐもの』

北海道教育大学の山田先生のご縁で入会している、日本野外教育学会。
今回、同僚の植田先生と一緒にポスター発表するため、はじめて学会大会へ参加してきました。全国規模の学会にて発表するのは大学院生以来??

発表内容は、植田先生と昨年行ったキャンププログラムを中心に、これからはじまる学校設定科目「アウトドア探究」と夏季集中講座についての実践報告。

本大会は、教育大岩見沢校での開催に加え、シンポジウムには本校校長の赤司さんもシンポジストとして登壇しました。シンポジウムの中で赤司さんから紹介されたこともあり、ポスターセッションは大盛況。
僕も植田先生も絶えぬ質疑応答に嬉しい悲鳴でした。

個人的には、アウトワード・バウンド・ジャパンの長野校校長から本教育にエールをいただけたことが嬉しかったです。

思い起こせば、2017年に本格的に野外教育を本校で取り入れようと考えたきっかけは、世界的冒険家の植村直己さんが目指した野外教育にあります。
植村さんは、1983年10月、アメリカミネソタ州のアウトワードバウンドスクール(ミネソタ野外学校)に教官として、本場の野外教育を学びにいきました。そして、北海道・日高山麓にある岩内仙峡に野外学校の構想を持っていたのです。

当時、ミネソタから友人の廣江研にあてた手紙には、こう述べられています。

”日本で少しは考えていたが、この学校に来て生徒に接触しアメリカの野外指導法、生徒の姿を見て、素晴らしい学校だと思い、日本でこのような自然を対象にした学校を北海道あたりにつくりたいと、ここの生活がとても有意義なものとなりそうです。若い青少年の机に向かっての勉強ばかりが、勉強ではないと思うようになった。若いときこそ将来のベースをつくる課程で、自然の中でいかに自然に生きるかを一時たりとも経験しておくことは、必要欠かせないことと思います。” (廣江 研著『我が友植村直己』より抜粋)

残念ながら彼は、その夢を実現する前に、アラスカのデナリで消息を絶ってしまいました。

ぼくの故郷、帯広にはそんな植村さんの意志を継いだ「植村直己・帯広野外学校」があります。
ぼくも子どものころに、この野外学校のプログラムに参加したことがあります。

植村さんの言葉、
”自然の中でいかに自然に生きるか”
社会生活は不公平だけど、大自然は違う。
だれにでも公平な大自然の中だからこそ、本当に必要な生きる力が身につくのではないか。
ぼくは、そう受け止めています。

そんな植村さんに憧れ、イメージしながら構築してきた本校の野外教育像。
いよいよ、この夏の集中講座から単位になります。

2023.7.2 髙橋励起先生の Facebookより

励起先生が、好きな自然や野外活動を、学びとして学校の中に取り入れようとした原点を初めて知りました。

まずは夏期集中講座、そしていよいよ10月から後期の科目として展開する新陽の野外教育、ぜひご期待ください!

【編集後記】
私自身は、実はアウトドアにほとんど縁がなく育ってきてしまいましたが、新陽の校長になったおかげで野外教育に触れ、自然の中で様々な活動をする面白さや北海道の恵まれた自然の美しさなどにすっかりハマっています。後期の授業では雪の中での活動もある予定。今年は冬のアウトドアに挑戦したいと思っています。

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