見出し画像

「CROSS IS HERE」 Interview by FAR RIDE MAGAZINE

韓国初のバイクカルチャーマガジンFAR RIDE MAGAZINEのウェブサイトにて僕のこと、そして僕が継続し続けているシクロクロスの写真集プロジェクト「CROSS IS HERE」についてのインタビュー記事が掲載されました。
彼らのウェブでは全文英語でのものになるのですが、良い内容だと思うし、いろんな人に知ってもらいたいこともあるのでこちらに加筆した日本語版を掲載したいと思います。

オリジナルの記事はこちらよりどうぞ
FAR RIDE MAGAZINE - CROSS IS HERE

田辺信彦ことNBは、私たちFAR RIDE MAGAZINEとは古くからの友人でした。東京を拠点にしたストーリーを作成する時、特に私たちのような外国人がコアな日本のカルチャーの中に入るのは難しい問題となる。そんな時に彼は私たちのリサーチと準備において頼りになる人物の一人でした。

画像1

彼が自身のプロジェクト「CROSS IS HERE」にここ数年取り組んでいることは知っていましたがようやく今年、彼の本を手に入れたのです。
この仕事をしていると時々、美しく編集された素晴らしい写真集に出くわします。それらはいつも、なぜ私たちFAR RIDE MAGAZINEが印刷物という媒体をメディアとして選んだのかを思い出させてくれるのです。
彼の「CROSS IS HERE」は間違いなくそう思わせてくれるものでした。

私たちは2020年のシクロクロス世界選手権取材中のNBにインタビューを依頼しました。彼は忙しい中にも関わらずインタビューに親切に答えてくれました。  私たちはここでNBという人についてと彼の継続し2020年版もすでに進行している「CROSS IS HERE」というプロジェクトについて紹介したいと思います。

・あなたについて教えてください

僕が自転車に乗り始めたのは約15年前のこと。
Fixed Gear Bikeが最初のバイク。
当時はまだまだブーム前夜だったこともありFixed Gearのカルチャーは知る人ぞ知るっていう感じだった。面白くて刺激的だし自転車を通して仲間が増えていくのがとにかく楽しかった。そこで出会う人たちも濃い人ばかりというのも大きかった。
おかげで自転車に見事にハマりました。もちろん乗ることも。
その時の友達にフォトグラファーやデザイナーとか、とにかくかっこよく写真撮る人が多かった。東京だとsexysushiさんとか。
そういった人たちの影響で僕も写真を撮りはじめたのが写真の出会いです。
そこからは自転車に乗りまくって写真を撮りまくった。

シクロクロスの存在を知ったのはMASH SFからだった。
彼らのおかげで自転車(Fixed Gear)に乗ることになったし、シクロクロスを知ったのも彼らから。MASHは常に追っていたのもあってMASHの奴らがなんかダートを走るレースやってるぞ!なんか面白そうだな!シクロクロスっていうらしい?っていう自然な流れで知った。
シクロクロスをやろう!っていうのはまた別のきっかけ。
この時はもうBlue Lugで働いていたのですがその時の先輩のAZEさん(現Volcanic Cycleオーナー)がきっかけをくれた。とにかくAZEさんは誰よりも感覚が鋭くて周りがまだFixed Gear乗ってた中で名古屋のサークルズに直接オーダーしたHunter Cyclesのシクロクロスバイク(画像下)に乗っていた。このバイクが衝撃的にカッコよくて単純に俺もHunter Cyclesのシクロクロスバイク欲しい!ってなったんです。

画像13


ただHunter Cyclesのバイクが欲しくてもハンドメイドなのですぐに手に入るわけもないのでいつになるのやらと思っていたんです。でも違った(笑)
NAHBS(アメリカ最大のハンドメイドバイクショー)にAZEさんが出張に行ってた時に現地からいきなりメールが飛んできた。
「NBのサイズのHunterのCXレーサーが売ってるんだけど買う??」
一瞬迷ったけど憧れのHunterだし当時の円高もあって即決で買ってきてもらうようにお願いしました。
イケてる愛車が組み上がれば乗り始めるのには当たり前だし、ダートを走る楽しさに一気にのめり込んだしレースにもすぐエントリーした。
下の画像のバイクがその時組んだHunter CyclesのCXレーサー。

画像14


初のレースは野辺山シクロクロス(現Rapha Supercross Nobeyama)の第2回目、とにかく初めてのレースは物凄くキツかったんだけど、ブログなどで見ていたアメリカのシクロクロスの世界そのものがそこにあってキツさなんか忘れるくらい楽しかった。それをきっかけにレースにどハマりして一時はC1でも走っていて全日本選手権にも出たりしたくらい。とまあシクロクロスの面白さにどっぷりとやられた訳です。

自転車に乗り始めてどっぷりとカルチャーに魅力を感じてしまったのでこの業界で働いてみたいと思うのは自然な流れでした。
ある時僕の好きな東京のバイクショップのBlue Lugがスタッフを募集していたので速攻でメールして、会いに行った。
そこからはすごく早くてすぐにスタッフとして働くことになりました。面白いことや可能性のあることは何でもやろう!という素晴らしい環境だったのでいつも刺激的だし働くのが本当に楽しかった。
Blue Lugでは約10年働き、フォトグラファーとして発信に関わる撮影、EC管理、イベント企画、ディストリビューター業務や製品開発など色々なことを経験させてもらい2018年にフリーランスフォトグラファーとなりました。
(別の話になりますが2015年にBlue Lugの仕事としてMASH JAPAN PREMIEREを僕がオーガナイズすることができたのは本当に忘れられない出来事。)
現在、フォトグラファーとしてはスポーツを中心とした写真を撮っています。自転車ではRaphaブリヂストンサイクルThe North Face、釣り業界のDaiwa Japanなどの仕事もさせてもらっています。
自転車をきっかけにフォトグラファーとなったのでより多くの人に自転車の魅力を知ってもらえるようにも活動していてその中の一つが僕のシクロクロスのプロジェクト「CROSS IS HERE」です。

画像8

・ヨーロッパのシクロクロスシーン、特に世界選手権にどのように魅了されましたか?

興味を持つと掘り下げたり調べたりするのが好きな性格もあってシクロクロスのレースを熱心にするようになったのと同時に本場ヨーロッパのレースを熱心にチェックするようになりました。
ワールドカップをYoutubeで観たり過去の伝説的なレースを調べたりとレースを観る事自体にもハマっていきました。
それで本場のシクロクロスのことを知った気でいたんですが映像でみる世界と実際の世界は全く違ったんです。

画像8

2017年のルクセンブルクでの世界選手権で初めてヨーロッパのシクロクロスレースを撮影したのですがまずは何より観客の熱狂に衝撃を受けました。
何万人もの観客がシクロクロスに熱狂している。歓声で地面が揺れるような感覚。圧倒されました。
またヨーロッパのコースは映像で観ているものからは想像できないほどハードなものだしレーススピードも全く違うというのにも衝撃を受けました。
それは僕らの知っているシクロクロスとは全く違うものでした。
また世界選手権という特性上、各国がそれぞれの代表選手を集めて世界一を決めるために戦う場であるので他のレースとは意気込みが全く違う。ここでは勝者しか意味がなく、選手は全身全霊をかけて戦うし、自分の国の代表を応援しに観客は集まる。だからこそ他にはないドラマやこの場でしか感じることのできない緊張や闘志など様々な気持ちが混ざり合った空気と熱狂があるのが世界選手権に魅了された理由です。

画像8

選手それぞれが全身全霊で戦う場、様々な気持ち、ハードなコース、泥や雪、異常なまでのレベルの高さ、そしてそれに熱狂する観客、その全てが混ざった世界はどの自転車競技よりも僕には美しく見えました。
まるでアートだと思いました。
また映像ではトップ選手のレースの姿しか映りませんがそれ以外でも多くのドラマがあるし映像で見れない世界が本当に面白かったんです。
僕は写真というフォーマットでこの世界を伝えられると思いました。

画像8

・過去3年間、あなたは毎年世界選手権を撮影し写真集を作りました。 写真を印刷物として公開したきっかけを教えてください。

画像8

はじめは写真集を作るとは全く考えていませんでした。
初めて行った2017年のシクロクロス世界選手権で受けた衝撃と感動がきっかけです。先の質問に答えた内容の通りとにかく物凄い衝撃を受ける体験でした。この体験は僕の中だけにしまっておくべきではないと思いました。
僕が体感したこの衝撃を沢山の人に知ってもらいたい、ヨーロッパのシクロクロスシーンの美しさと過酷さ、映像に映らない世界を知ってほしいと思いました。
衝撃的だった僕の初めてのシクロクロス世界選手権の世界は美しすぎて写真を撮りすぎたほど。
それをどのように公開するのがベストだろうと考えたときに写真集が一番だと思ったんです。
InstagramやWebなどで公開しても良かったのですがそれだとタイムラインに流れていってしまうだけだと思ったしそれは絶対に避けたかった。
そこであえてアナログに本として出版した方が写真をじっくりと感じてもらえるしヨーロッパのシクロクロスシーンの空気が伝わると考えたんです。

画像9

・ほとんどの写真家は壮大な出来事を一度取り上げて別のレースやジャンルに進むかもしれませんが、あなたはを二度戻ってきました。 どうしてですか?

画像10

それは僕がシクロクロスのレースを走るレーサーでもあるしシクロクロスを愛しているからですね。写真集も1冊作ればいいだろうと思っていました。
でもそうじゃなかった。
CROSS IS HERE」を手にとってくれた人たちから大きな反響を得たんです。自費出版だしほとんど売れないと思っていたんですが僕の想像を超えるものだったんです。それは本当に嬉しかった。
Youtubeでヨーロッパのレース映像は観られるとはいえ日本へはほとんどそのカルチャーは伝わっていません。もっともっと映像では観られないシクロクロスのカルチャーを見せてほしいと言われたんです。

画像11


それをきっかけに「CROSS IS HERE」をシリーズの作品にしようと考えました。世界的にもシクロクロスの世界やカルチャーをアーカイヴし続けている人はほとんど居ないし僕がアーカイヴし続けていくことは価値があると思った。それで毎年ヨーロッパへ撮影しに行くことに決めたんです。
CROSS IS HERE」プロジェクトは毎年シクロクロス世界選手権を撮影し、毎年1冊の写真集を作りアーカイヴすること。
だから今年2020年ももちろんスイスのデューベンドルフへいきます。
この継続した活動を通して日本、世界中の人たちにシクロクロスの世界の美しさを知ってもらいたいと思っています。
10冊作ったときにはその10年分をまとめたハードカバーの写真集も作りたいというのも一つの目標です。
最終的にはシクロクロスの写真をアートの域まで高められたらいいなと。

画像8

・写真集のカバー写真を見つけるのは難しい作業ですか? 2019年の表紙にこの写真を選んだ理由を教えてください。

画像8

表紙の写真を選ぶのはとても難しい作業です。
その年で最も印象に残ったシーンなどから選ぶようにしています。
2019年にこの写真を選んだのは4年ぶりにマチュー・ファンデルプールが世界チャンピオンになったのでまず彼の写真にしたいと思っていました。
この年は世界選手権の翌週までヨーロッパに滞在していたので彼が新しいアルカンシェルジャージを着るレースを撮影することができました。
この写真は昨シーズンのスーパープレスティージュHoogstratenでの写真ですがこの日が初めてアルカンシェルジャージが泥だらけになった日なんです。それはとても印象的で今回の表紙にしたいと撮影した時に思いました。

・最大の驚きはなんでしたか?

自分が想像していたよりも大きな良いリアクションをもらうことができました。日本ではシクロクロスレースが人気があり盛り上がっていますがヨーロッパに毎年写真を撮りに行っている人はほとんどいなく、こうしてレースを取りまくカルチャーを伝える人がいなかったのでもっとその世界を見たいというコメントを沢山もらいました。
そのおかげで写真集シリーズのプロジェクトとなりました。
僕としても日本のシクロクロスシーンへ良い影響を与えられたらとも思っていたのでこれは本当に嬉しかった。
これからも継続していく中で自転車競技の美しさと楽しさを伝える活動ができればと思っています。

画像12

写真集プロジェクト「CROSS IS HERE」の販売ページはこちら 
Nobuhiko Tanabe - CROSS IS HERE

ヨーロッパへ毎年足を運び撮影を続けているアーカイヴ写真集プロジェクト「CROSS IS HERE」へのサポートを宜しければお願いします!頂いたサポートはこのプロジェクトの活動費として使わせていただきます。