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小説を書いて、朗読をしています。
三分間の物語をお楽しみください。

散々待った挙句、これだ。
昨日一昨日そのまた向こう、
言ったそばから破られる。

あれはまだ堅苦しい敬語で
挨拶を交わし合うほどの、
いわゆる「取引先」という
立場での関係だった。

少し、特に理由もないけれど
気になる相手だった。
何度か食事をして、
互いを認め合い、
そういう仲になった。

年は向こうが少し上。
その割にマメなのは僕なんだけど、
こういうところが鬱陶しいんだろうな、なんて。

全部「性格」で片付けられるじゃないか。
「相性」なんてものアテにならない。
それでいえば僕らのそれは98%、
銀河系で唯一の相手だって、
いつかの露店占い師が鋭く言い放ってた。

そんな寒い冬の日が、今では他に
どうやっても変えられない温かさを纏っている。

駅前の本屋で自慢げに
平置きされた自己啓発本。「鈍感力」か。
こんな気持ちにさえ鈍感になれた時、
そこにあるのは果たして
"幸せ(happy)"なのだろうか。

約束なんて、しなけりゃよかった。

でも、でもね。
一つだけ一度も破られていないことがある。

「ずっとそばにいるよ」
馬鹿じゃないのか、
いないじゃないか、いないじゃないか。

…なんて。
思えば思うほど強く感じる
君の遺した二人の記憶が、
寒さと共に体中を刺す。

君のいない冬が初めて、
僕のもとにやってくる。

会いたいよ。

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