見出し画像

第三回 「婚活市場の現在地点」ねじれ女子の婚活物語 アラフォーOL マリエさんの場合

「こちらこそご無沙汰してます。よしこさん、お元気でした?」

「相変わらず元気よ~。マリエさんも声から元気そうな感じがするわ。
実はマリエさんにお願いしたいことがあって電話したの」

電話の内容は、よしこさんが主宰している舞踊講座主催の発表会のチラシづくりを教えてほしいと言う内容でした。

「全然OKです。久しぶりによしこさんとお茶したいです」

「ほんと?ありがとう! じゃあ、今度の土曜日にカフェでお茶しながら教えてもらってもいい?
ワードで作りたいので、パソコン持ってくるわね」

(今週末の予定が、ひとつできた。久しぶりだから、楽しみだな~)

マリエさんの土日は、だいたいショッピングモールをひとりでうろうろすることだったので、
ちょっと土曜日が楽しみになってきました。

そして土曜日。

13:00にカフェで待ち合わせをしましょうということで、
この周辺では人気のカフェでおちあうことになりました。

おしゃれなよしこさんとのお茶なので、マリエさんもちょっとオシャレしたいなと
2年前に買ったワンピースを着てみたのですが、なんと背中のチャックがウエストあたりから上がらない!
というショッキングなことが起こり、仕方がないのでいつものジーンズに、よく着るVネックのセーターを着ていきました。
クローゼットを見渡しても、他に着たい服はありませんでした。


「ひさしぶり! マリエさん!」
カフェの奥の方へ行くと、すでによしこさんは席に座っていて、コーヒーを飲んでいました

その姿はまるで女優さんのようで、ウエストがほっそりとした赤いワンピースに白いカーディガンを羽織って、
よく手入れされた手先には、きれいなピンクのネイルが施してありました。

「こちらこそ、お久しぶりです。今日は楽しみに来ました。」
「私こそ、楽しみにしていたのよ。さあ座って座って。何食べる? 今日は教えてもらうから、ごちそうするわ」

席に座ったマリエさんに、ニコニコした笑顔を向けるよしこさんは、60歳とは思えないほど、若々しくて、
マリエさんはびっくりしてちょっと恐縮してしまいました。

(私より20歳も上なのに、お洒落に手を抜いてなくて、綺麗だなあ‥)

広げたメニューには、美味しそうなスイーツがずらりと並んでいました。

「私はお昼ご飯をしっかり食べたから、コーヒーのおかわりとクッキーにするわ」

パンケーキが2枚のって、その上にアイスクリームがのっているメニューを頼もうとしていたマリエさんは、ハッとしました。

(努力してるから、きれいなんだ‥)

お昼ご飯は、カップラーメンとおにぎりだったマリエさんでしたが、カロリーはしっかりとっています。

「私も、クッキーとコーヒーのセットにします」
とよしこさんに伝えました。

よしこさんはニコニコしたまま、注文をとりにきたスタッフにメニューを告げ、
バックの中からノートを出してそこにかいてあるラフスケッチのようなものをマリエさんに見せながら
「こんな感じのを作りたいんだけど、私でも簡単に作れるかな?」
とマリエさんに尋ねました。

書いてあるラフスケッチは、発表会の名称と開催日時、出演者の文字だけが書いてあるもので、
マリエさんが作業をすれば30分程度で終わりそうでした。

「よしこさん、パソコン、持ってこられてますか? 私、ここで作っちゃいますよ」
「ええ? ほんとに? ありがとう!」
よしこさんはとても嬉しそうに笑うと、バックの中からパソコンを取り出しました。


マリエさんが作業をしている前で、よしこさんが独り言のように話し出しました。
「うちの由美がね、ようやく結婚するのよ。ほんとに長かったなあって、思ってね。」

「何が長かったんですか?」
作業をしながらマリエさんは尋ねました。

「婚活よー。もう2年もいろいろやってたのよ。由美も30歳に今年の初めなっちゃって。
もう焦ってね~。焦ってもいいことないっていったんだけど、婚活の世界は甘くないとかいうのよ。」

マリエさんはハッとしましたが、とりあえず目元はパソコンに向けたまま、よしこさんに尋ねました。

「相手の方はおんなじ会社の人とかですか?」

「ううん、ちがうの。結婚相談所で知り合った方なのよ。とっても良い方でね。この間うちに挨拶にいらして。
結婚式は11月がいいかなあとか言っててね。今 8月だからあと3ヶ月よ。式場はもう決めてきたんですって。
これから招待状出すし、もぉ お母さんは大忙しよ」
よしこさんはとても嬉しそうに言いました。

結婚相談所?
(由美さん、30歳だし、全然若いのに、なんで結婚相談所にはいらなくちゃいけなかったの?
出会いなんか合コンとか、サークルとか、いろいろありそうなのに。)

「由美さん、ぽちゃっとして可愛くて、彼氏とかすぐできそうだったのに、
なんか不思議です。結婚相談所で出会った、とか。」

「まあ、マリエさん、今はもう、30歳なんか結婚相談所では若い方じゃないのよ。
それに、由美は会社と家の往復しかしてなかったから出会いなんかないし、
合コンとかも誘われていたみたいだったけど、合コンじゃ結婚できないって言ってたのよ。

結婚相談所を利用する人って今すごく多いのよ。
合コンみたいに初めて会う素性がわからない人じゃなくて、初めから家族構成も収入も全部わかるんだって。
顔写真でタイプかどうかの確認もできるし、結婚したい人しかいないから、本気の人しかいないんだって。
20歳から入会する人もいて、若い女の子はいつの間にか結婚が決まって退会してるんだって。」

マリエさんのキーボードを叩く指が止まりました。

(20歳が結婚相談所?? 30歳がおばさんだったら、私は‥??)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?