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経済書(7)データ民主主義

前回投稿から2か月近く空いてしまいましたが、最近読んだ〇と▢の眼鏡を掛けたコメンテータとしても活躍されている成田 悠輔氏の新書が興味深かったので、経済書ずばりではありませんが、この本を読んでみて考えたこと、関連する話題(データに基づく民主主義)についてまとめてみました。

マイケル・サンデルの白熱教室

少し前にサンデル教授と米国・中国・日本のトップ大学の学生たちが民主主義をテーマに議論する番組をNHK BS1でやっていました。

近年の経済成長とともに、コロナ禍の前半で人々の監視を強化し、自由を制限することで一定の成果を得た中国の学生たちの自信に満ちた意見は、米国や日本の学生とは一線を画すものでしたが、いろいろと考えさせられる点がありました。

以前、中国の経済システムは欧米とは異なる資本主義のもう一つの形と言えるのではないか?と論じた書籍「資本主義だけ残った」を紹介しましたが、

この番組のシリーズの中でも「中国は民主主義国?」というストレートで刺激的なテーマについて、3か国の学生たちが白熱した議論を交わしています。

(8)「中国って民主主義国?」 初回放送日: 2022年6月4日
中国やロシアが招かれなかった昨年の民主主義サミット。これに対し中国は「欧米とは違うが、中国も民主主義国だ」と反発。
そもそも民主主義とは何なのか? 大切なのは複数政党制や選挙や言論の自由があることなのか? あるいは問題を解決し、人々が望む結果を出すことなのか?
「君たちが政府に求めるのは、民主主義の原則を守ることか、あるいは結果を出すことか?」
サンデル教授が民主主義をめぐる日米中の若者たちの本音に迫る!

NHK 「マイケル・サンデルの白熱教室 2022」ホームページより

どうやら、欧米や日本など民主国家と言われる国々で育まれ、制度化され信じられてきた民主主義も、資本主義同様に制度疲労を起こし、将来に向けた再考を求められているようです。

22世紀の民主主義 

さて、この本の著者 成田 悠輔氏はイェール大学助教授の経済学者。ご自身で半熟仮想株式会社を経営され、 データとアルゴリズムを用いたビジネスや公共政策のデザインが専門分野とのことです。

この著書の前半では、民主主義、特に欧米日各国で採られている選挙による議会制民主主義の限界・劣化について数字に基づいて辛辣に分析していきます。
今世紀2000年代に入って以降、民主国家ほどGDP成長が低迷していることや若者が選挙に行っても何も変わらないであろうことがデータ分析によって示されます。

そして、新たな民主主義の形・将来構想として「無意識データ民主主義」を提言しています。
これはネットや監視カメラが捉える表情やリアクション、心拍数や安眠度など無数の(無意識な)データ源から、人々の本音や価値観を拾い出し、それらを「民意」とし、成果指標をGDPや失業率、健康寿命などに置いた目的関数を最適化するアルゴリズムで政策立案していくべきだと。

AIに政策決定を委ねると言われると、ちょっとSF的で、空恐ろしい感じもしますが、政治や選挙の制度疲労を冷徹に分析し、限界を見ている著者は大真面目にこの議論を展開しています。
実際に第三章「逃走」では、非効率で不合理を押し付けてくる既存の民主主義の縛りを逃れて(デモクラシー・ヘイブン)、政治制度を一からデザインし直す独立国家・都市群のいくつかの試みが紹介されています。

あとはぜひ、話題の本書をお読みください。

17才の帝国

この本を読んで、すぐに思い起こしたのはこちらも今年話題になったNHKのドラマ「17才の帝国」です。

AIで選ばれた17才の高校生総理を中心とする若きリーダーが、実験地方都市ウーアを再生していくという物語ですが、AIが民意の収集や政策決定に深く関わっているところは、まさに「データ民主主義」と呼べるものでしょう。

現実の世界で:NEOMの挑戦

また、サウジアラビアでは建設が始まっているNEOMというスマートシティ構想(彼らの言葉ではコグニティブシティ)はご存じでしょうか? 

この巨大構想では、全面的なe-ガバナンスの実現、消費電力は太陽光や風力など再生可能エネルギーに依存、ネットゼロカーボン・ハウスを標準とする建築などが謳われ、最近の発表ではタクシーは空を飛び、教師はホログラフィー、そして人工の月を浮かべるなど最先端のテクノロジーによって未来都市の実現を目指すそうです。

そして、この計画の中でも、住民データの収集は重要な要素となっていて、「同意管理プラットフォーム」には住民のスマートフォンや顔認証カメラ、その他多くのセンサーを通じてデータは収集され、都市政策・管理のベースになるとされていますが、すでに個人データ利用・監視社会に懸念を示す声も出ているようです。


監視される社会

さて、データ資本主義と表裏一体、陰と陽で問題となる個人データの収集・監視。

このテーマで書かれ、オバマ元大統領や各誌からベスト経済書に推薦された
ハーバードビジネススクール ショシャナ・ズボフ名誉教授による「監視資本主義」も昨年、話題になりました。
国家・政治体制というよりは、GAFAM・BATを中心としたプラットフォーマーによる個人情報の収集(搾取)が膨大な利益を生んでいることが中心テーマですが、興味のある方はこちらも読まれてみても良いかもしれません。

22世紀の民主主義、資本主義がどういう形になっていくのかわかりませんが、人類の明るい未来に向けて劣化の方向ではなく、より良い方向に進化していって欲しいと切に願っています。


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