見出し画像

経営戦略 総論(2)

ある程度、年を重ねて実務経験を積んでくると、話題のビジネス書や新書は手にとっても、骨太で本格的な経営戦略論を書いた書籍にはなかなか手が出ないかもしれない。

ここ1~2年で出版された書籍の中から、これは!というものを2冊紹介したい。前回は入門編だったが、今回は上級者向けなので、分厚くて読む方にも、それなりの前提知識がないと難解なところがあるかもしれないが、ぜひチャレンジして欲しい。

1冊めは現在は一橋大学大学院で客員教授をされている名和高司さんの
「企業変革の教科書」である。

マッキンゼー、BCG、そして現在は一橋大学大学院の教授をされながら、数々の日本企業のコンサルティングや社外役員を歴任中で得られた豊富な経験を活かし、改善は得意だが変革は苦手な日本企業への提言、具体的なアプローチが記載され、変革を実践するリーダーへの想いの集大成とも言えよう。

具体的な中身は本書でぜひ読んで頂きたいが、企業変革のモデルを数々の事例から「V字回復モデル」「自己破壊モデル」「(ポートフォリオ)組合せモデル」「メビウス運動モデル」の4つのフレームワークに落とし込み、成功事例と落とし穴をわかりやすく解説していく手腕はトップコンサルタントならではだ。

現在の不安定な経済状態の中で、これまで声高に騒がれていたデジタルトランスフォーメーション:DXも以前のSISやWeb2.0同様に、一過性のBuzz wordに成り下がる危険性を最近感じているのだが、この書籍の帯に「本気で変えたい覚悟ある経営者に捧ぐ」とあるように、本書は変革(トランスフォーメーション)を苦手とする日本企業へのまさに「教科書」となろう。

***

そして、2冊めは最近よくテレビにもご出演されている早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄さんの「世界標準の経営理論」である。

私も出版された当初は、かなり分量があり、かつ学術的な要素の濃い本なので、購入するのに躊躇していたが、丸善・丸の内本店(オアゾ)で平積みにされた中に教授のサイン本が数冊あったので、思わず買ってしまった。

内容的にはこれまで、そして最先端の経営学の成果を30の経営理論に整理・体系化し、経営のメカニズムを解き明かそうとする野心的な書籍だ。

経営学を学ぶ学生というよりは大学院生、博士課程向けのようにも感じられるが、これまで数々のビジネス書や経営理論に触れてきた実務家から見ても、さまざまな経営理論の発展段階やどのパースペクティブから見た理論なのかが立体的に見えてきて、非常に勉強になった。

個々の理論の解説もコンサルタントや元経営者が書いたものとは少しトーンが異なり、学術的な標準用語、学会で評価がほぼ確立された論文ベースにしているので、少し難解な面もあるのだが、学会中心に活動されていたとは思えない豊富な企業事例やわかりやすい解説により、分厚い割にはすらすらと読み進めることができた。

そして、秀逸なのはこの書籍の最後に入山先生ご自身が書いた小見出しである。

さらなる視点③:経営理論を信じてはいけない

そして、その後の結びのタイトルが
「経営理論こそが、あなたの思考を解放する」だ。

著者はコンサルタントが頻繁に用いる「(戦略)フレームワーク」を完全に否定している訳ではないが、Why:なぜそうなるかには答えていないと。

一方で、経営理論は経済学や社会学、ゲーム理論や心理学から得られた知見を駆使して、そのメカニズム(Why)にどんどん切り込んでいっているが、それでも、いまだ完全ではない。

ただ、現実の大きな意思決定の前で頭を悩める経営者や実務家にとっては、どちらも「新たな思考の軸」を与え、成功体験のバイアスや同調圧力といった感情論といったものから思考を解放して、ゼロベースで考える機会を与えてくれるはずだと。

***

考えてみれば当たり前なのだが、スポーツ(たとえばゴルフ)、芸術(たとえば楽器演奏)の分野でも、良い選手や演奏家のプレイや戦術・奏法をどんどん見て、吸収することは大切だし、スイングの基本やミスショットの原理、演奏する際のフレージングやアーティキュレーションの理論を学ぶのも非常に重要だ。

でも、最後は会社や組織が置かれた状況や自組織の能力により、何ができるか、どう進めるかは経営者やそれを支える戦略スタッフの意思なのだ。

長嶋茂雄(来た球を打て!?)やジミ・ヘンドリックス(楽譜が読めなかった)など天才肌であれば、他者事例や理論は不要、実践あるのみかもしれないが、自分自身を含めて普通の人は、やはり他者から学び、本から学んで、悩みながらもがきながら、一歩ずつ実践から学んでいくしかないだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?