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ショートショート『宿題代行』

──夏を制するものは何とやら。

あと1ヶ月もしたら、およそ全国に1000万人弱いる18歳未満の就学児及び学生たちが夏休みを迎える。

つまり我々、宿題代行人にとっては一番の稼ぎ時。

とりわけ、夏休みといえば『自由研究』についての案件が増える。

数多の代行サービス企業が熾烈な顧客獲得競争を行う一方、我々のグループは少しだけその分野においてのアドバンテージを得ていた。

取り扱える自由研究のクオリティやバリエーションが他社のそれよりも優れている。
否、代行屋に限らずどの企業のどんな技術よりも優れている。

これが我が社最大の売り、と云っても過言では無かった。

「シロナガスオオクジラの標本を作りたい」
「月まで到達するペットボトルロケットを作りたい」
「戦場の外壁に虹の絵を描きたい」
「円周率を20京先まで計算したい」
「理科に興味があるので中性子爆弾をつくりたい」
「イタリアのマフィアが使っている資金洗浄用の口座を凍結できるプログラミングを組みたい」
「死んだ愛犬のクローンを生み出してほしい」
「財務省の地下に繋がる流しそうめん用のトンネルを掘って欲しい」
「台風の軌道を変えてみたい」

など諸々。
すべてお安い御用です。

おっと、講釈を垂れている間に新着依頼。

なになに、
「鋼鉄や防弾ガラスを貫く威力を持つ水でっぽうを作りたい。出来れば金属探知機に反応しない素材で…」

はははは。お安い御用です。

もっぱら、最近じゃお子様よりもその親御さんや、"教育"に興味のある海外のお客さまからの依頼が多いようですが。

"おもしろきなき世をおもしろく。"

これが我が社のモットー。

世界には共感していただける方が多くいらっしゃる。

嬉しい限りでございます。

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