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コロナ禍で映画館は生き残れるのか?長引く米映画業界の苦難

WSJの「映画業界の苦難、想定より長引く可能性」(2020年10月6日)という記事を読んで、映画ファンの一人として寂しい思いになっている。

コロナ禍のため「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」の公開が、2020年11月20日から、2021年4月へと延期となったことから、大手の映画チェーン、シネワールドやリーガルシネマが全米・全英の劇場を一時閉鎖することを発表。

007に限らず、大手の映画会社は軒並み超大作の公開を延期している。
マーベル・シネマティック・ユニバース・シリーズの「ブラック・ウィドウ」は2021年5月に。「エターナルズ」も2021年11月に。
トム・クルーズの「トップガン・マーベリック」→2021年7月。「ワンダー・ウーマン1984」→2021年夏。スティーブン・スピルバーグの「ウエスト・サイド・ストーリー」→2021年12月。
ピクサーの「ソウルフル・ワールド」は劇場公開を諦め、2020年12月25日からDisney +(ディズニー・プラス)での配信となった。

これでは今年のクリスマス・シーズンは、映画館へ足を運ぼうという気がおきないではないか?
夏休みシーズンに続いて、冬休みも大作映画が公開されないとなると、映画館の存続が危ぶまれる。
“このままでは映画館は生き残れない”。全米劇場所有者協会、全米監督組合、アメリカ映画協会及び、ハリウッドの映画監督たちはアメリカ連邦議会に対し、映画館への支援を求める書簡を送付した。

なんでこんなことになったのか?

その理由は、ニューヨーク州のクオモ知事だという。
「米英の大手映画館が無期限再休業、4.5万人に影響 」(THE RIVER 2020年10月6日)によれば 

(シネワールドのCEO) グレイディンジャー氏はニューヨーク州の対応を厳しく批判。「世界中の、そしてアメリカの映画館は、(アンドリュー・)クオモ知事の柔軟性のなさのために休業している」「彼はレストランやボウリング場、カジノなどの再開を認めながら、映画館は認めない」と述べた。ニューヨークはアメリカの映画業界において最大の市場であり、この場所で映画を公開できないことは興行に甚大なダメージをもたらすのだ。スタジオが大作映画の公開を見送る理由も、ニューヨークが再び動き出していないことにあるといわれる。

クオモ知事は、ニューヨーク州の感染症対策で高い評価を受けている。「不要不急」の外出は避けるように訴え、映画館はクラスターになる危険性があると考え、再開にゴーサインを出していない。(ちなみにNYブロードウェーも来年2021年5月末まで公演中止を延長している)

ロサンゼルス、サンフランシスコも映画館が再開されていない。米国で一番映画が観られている都市で映画館が再開されないのでは、どこのスタジオも、大作を公開することに慎重にならざるを得ないだろう。

2020年9月公開の、クリストファー・ノーラン監督「TENET テネット 」も、日本をはじめ諸外国では好調だが、アメリカでは大コケで、赤字確実だという。

これも、ニューヨークはじめ大都市での公開がないためだった。わざわざ開いている隣の州まで映画を観にいくファンは少なかった。2時間半も密室へいるのは怖いという観客の不安もある。

これでは、ハリウッドやアメリカの映画業界が潰れてしまうのではないか?
実際、映画製作にも影響が出ており、来年以降の超大作も遅延が生ずる可能性があるという。「ジュラシック・ワールド」シリーズなど、コロナで撮影がストップしたため、来年の公開に間に合うかどうかといわれている。

映画製作には莫大な予算がかかるので、保険をかけるのが普通だが、保険会社はコロナ関連の補償をしぶっている。保険料の高いアクション大作は追加保険分が製作費の上乗せとなり、利益を圧迫することになりかねない。

「TENET テネット 」全米公開の失敗が、各スタジオのトップを余計神経質にさせたかもしれない。

米国とは対照的に、絶好調の中国映画館事情

だが、明るい兆しがある。それは中国の映画館の好調ぶりだ。10月1日からの国慶節連休期間中に中国本土の映画興業収入は24億元(約370億円)あった。映画館が再開された2020年7月20日からの累計は、100億元(約1570億円)を突破している。

中国本土では、2020年1月下旬から映画館は強制休業となり、約半年の間に約2200館も映画館が閉館したという。
7月20日に再開した当初は、客席は30%、2時間以上の作品は途中で休憩を入れる、という条件だったが、9月20日からは緩和され、客席は75%、2時間以上の映画もOKとなっている。
「TENET テネット」も好調のようだ。 

つまり、映画館が再開されれば、客足は戻るということ。もちろん、感染の危険性がないということが大前提だが。
中国本土の活況ぶりを聞くにつけ、アメリカもコロナが落ち着けば、大丈夫だろうと楽観的な気分にさせられる。アメリカ人は映画が大好きな国民だから。

なんだかんだ言っても、映画館はハリウッドの大作もあり、日本のアニメもあり、ヨーロッパのアート作品もあり、若手監督の小品もあり、というバラエティさがないと楽しくない。そういう意味で、フロント・ランナーのハリウッドが崩壊してしまわないように、映画館が破綻しないように、早く米映画業界が立ち直ってくれるようにと願っている。

てなことで。

12-Oct-20 by nobu

最後までお読みいただきまして誠にありがとうございました!