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【懐かし洋画劇場】 『最後の脱出』 (70年)隠れたデストピア映画が伝える現代人への警鐘

ザ・シネマで放送の「町山智浩のVÍDEO SHOP UFO」で観た『最後の脱出』”No Blade of Grass”(‘70) は、『ゾンビ』、『マッドマックス』に多大な影響を与えた一作。見終わった後、腹に重たいモノが残る映画だ。

1980年の恐怖は1970年に始まった!!
緑色の地球が褐色に変わった!人類の絶滅を前に愛も美も正義も、もはや醜悪な怪物にすぎない! (映画ポスターより)

近未来、環境汚染と農薬が原因の病害をウィルスが媒介し、全ての小麦、米、大豆等が大被害を受けた。その餌を食べた家畜も死に絶え、アジア、アフリカから始まった食糧危機が世界中に広がっていた。
元軍人で建築家のジョン・カスタンス(ナイジェル・ダヴェンポート)は、娘の恋人でウィルス研究者のロジャー(ジョン・ハミル)から、ロンドンが近々封鎖されるという情報を聞き、家族で北部に暮らす兄ディビッド(パトリック・ホルト)の農場を目指す事を決意する。
妻のアン(ジーン・ウォーレス)、16歳の娘メアリー(リン・フレデリック)と出発するが、すでにロンドン市内は略奪や暴動が始まっていた。
銃器店で出会った粗野なピリー(アンソニー・メイ)と妻クララ(ウェンデイ・リチャード)も同行することになり、途中寄宿舎にいる息子とその友達も連れて一行は北を目指すのだった。

『最後の脱出』予告編 Reference: YouTube

製作・脚本・監督のコーネル・ワイルドは、冒頭から、工場の大量の煙、川に流れる汚水、死んで浮かんでる魚、油にまみれた鳥などを次々に映し、環境破壊が進んでいることを観客に見せる。この映画が作られた1970年頃は、公害が社会問題となっていたのだ。

はっきり言ってチープな作りで、カメラワークも良いとは言えない。キャストも二流のB級映画といってもいいかもしれないが、観終わった後に、腹に重たいものが残る。それは何かと考えてみた。答えは「恐怖」だ。

ちょうど現在進行中の新型コロナウィルスが猛威をふるっている今見たので余計に恐怖を感じた。

人類が絶滅するかもしれないというデストピアな世界になったら、人間はどういう行動をとるだろうか?モラル、道徳、正義、金、モノ、教養、愛なんてものは必要なくなってしまい、本能だけで生きる人間になるのではないか?この作品は、そんな恐怖心が理性を凌駕する様を、冷淡な目線で描いていく。

ぼくが一番怖かったのは、処女だった16歳の娘メアリーが、(可哀想に)暴漢にレイプされてしまい、その後だんだんインテリの彼氏から距離を置き、親から叱られても最後は粗野なピリーに寄り添う。弱肉強食の世界では女性は本能的に自分を守ってくれる強い男を選ぶということ。そこに“愛”などないのだ。

ラジオからは、英国政府は機能しなくなったことや、被害の大きい国ではハンニバル(人が人を食う)が始まったという報道が流れる。

映画冒頭では、飢饉が始まったアフリカやアジアの、その被害状況(飢えた子供たち)を映し出すTVを眺めながら、英国人たちは、ビュッフェで肉を、野菜をパクついている。たった一年前は他人事だったのだ。

2020年の今も食糧危機の可能性はある。アフリカやインド、パキスタンでは異常発生したバッタが農作物を食い荒らしている。この映画の始まりとよく似ている。一年後我々は深刻な事態になっているかもしれない。その時では遅いのだ。
(2020年3月5日の日経記事↓)

この『最後の脱出』は1970年の映画だが、すでに地球温暖化の事にも触れている。50年後の我々は何をしてきたのか?何もしていないじゃないか。(2020年3月6日のロイター記事↓)

このB級映画から教わったことは多い。若い時に観ていたら確実にトラウマになっていただろう。そんな映画だった。

解説の町山智浩さんの話は、以下をご覧ください。
町山智浩のVÍDEO SHOP UFO 『最後の脱出』前解説
町山智浩のVÍDEO SHOP UFO 『最後の脱出』後解説(注:ネタバレ有り)
映画前半は、『ゾンビ』そのものなこと、ヒャッハーな暴走族はこの映画が最初で『マッドマックス』に影響を与えたことなど、相変わらず面白いです。
ぼくは、西部劇の影響もよくわかるけど、主人公ジョンのアイパッチと茶色の衣装は『勇気ある追跡』のジョン・ウェインからと思ったのだが、どうだろう。

てなことで。


最後までお読みいただきまして誠にありがとうございました!