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一年延期のこの時期に1964年の記録映画『東京オリンピック』が放送された意義

本来ならば、2020年7月24日(金)20:00より開会式が行われるはずだった東京オリンピックだが、コロナ禍のため、一年延期になった。

NHK BSプレミアムでは、7月18日(土)に1964年に行われた『東京オリンピック』の記録映画を放送した。
予定通りならば、日本が一番盛り上がっている時だっただろう。NHKとして、最高のタイミングでの放送だったはずだ。だが、何かひっそりと放送された感じがしている。

本当に何もなければ、昨年の大河ドラマ、宮藤官九郎の名作「いだてん」のBSP・BS4K再放送も、7月17日(金)に終了し、このタイミングでの『東京オリンピック』放送は最高だったろうなと思う。三谷幸喜扮する市川崑が、黒澤明に代わり監督し撮影する場面もあったしな。

(【関連】「いだてん」とメディアの視聴率報道の無意味さ)

だが、現在進行中の新型コロナ肺炎は早期に収束する可能性が低いと言われ、ワクチン開発も早くて2021年初頭では?との報道もある。
乱暴な言い方だが、ひょっとしたら、巷間言われているように本当に「中止」になってしまう可能性もある。
だからNHKは、今放送しちゃえ!と思ったんじゃないかと邪推している自分もいる😅

そんな事を考えつつ、小学校の頃学校から見に行き、今回数十年ぶりに、この記録映画を見直してみて、(自分でも驚いたのだが)正直に思ったことは、

見たかったなぁ、東京オリンピック2020…

だった。

開会式。高らかに鳴るオリンピック・マーチ。色とりどりの服を着た各国選手団の入場行進が続く。僕はここでもう涙が出た。

1964年当時は、米国とソビエトの冷戦が続いていた。英語表記では、USAのすぐ後ろをUSSR(ソビエト)の選手団が歩く。その隊列を正面から撮影し、両国選手団を同じ画面に収める。「平和の祭典」の象徴のような場面だ。

総監督・市川崑による『東京オリンピック』”TOKYO OLYMPIAD”(65年)

この作品が世界で高評価を受けた理由。それはスポーツ・ドキュメンタリーの歴史を変えた画期的な作品だったからである(カンヌ映画祭国際批評家賞、英国アカデミー賞ドキュメンタリー賞を受賞)。

Reference YouTube

これは記録ではなく、芸術なのだ。だから競技結果の全てはここに記録されていない。市川崑は、100台以上のカメラを使い、超望遠レンズでの撮影、スローモーションを駆使し、生身のアスリートたちを映し出す。
マラソンのアベベ選手が疾走する、横顔のアップの場面は「神々しい」。

名カメラマン宮川一夫はじめ、日本の映像作家総動員の撮影で製作された素晴らしい170分の映像も、時のオリンピック担当大臣 河野一郎(河野太郎の祖父)はお気に召さなかったようで、大論争となる。野暮な話である。結果的に政治家が折れ、この映画の世界的な評価に繋がる。

女子バレー決勝をご覧になる美智子皇太子妃(当時) のお美しいこと。スタジアムで一緒に座る王と長嶋。金メダルを取ったジョー・フレイジャーの後ろ姿…。歴史の保存である。
その映像の数々は、タイトルバックに映ってた女の子をはじめ「いだてん」でも多く使われていた事もわかった。

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ここに映し出されているのは、オリンピックそのもの。オリンピックの精神は、「参加することに意義がある」である。
世界中から集まった選手たち。勝った選手も、負けた選手も、担架に乗せられた選手も、一人しか参加してない国の選手も、コーチも、大会実行委員も、競技委員も、メダルを運ぶ人も、選手村のシェフも、ブルーインパルスも、スタジアムの数万人の観客も、沿道で手を振る子供も、女学生も、おばあちゃんも、そしてTVで見ていた人々も、みんなオリンピックに参加していたのだ。

それがわかったので、僕は感動したし、だから「見たかったなぁ、東京オリンピック2020」と思ったのである。

来年みんなの記憶に残るオリンピック・パラリンピックが開催されるかどうかは誰にもわからない。
56年前の映像が、今生きてる人々の心に響き、オリンピックを「見たい」「参加したい」と思わせる。この映画はそんな力を持っている。
このタイミングでの放送は、そういう意味で、「意義があった」と思う。

てなことで。

Image Credit
https://www.ndc.co.jp/works/tokyoolympic-poster-1962/

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