見出し画像

『いだてん』とメディアの視聴率報道の無意味さ

NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺』が終わった。もう来週の日曜日からは『いだてん』が観れないのかと思うと寂しいなぁと思う。自分が気に入ったドラマは、終わると悲しいものだが、いだてんは一年の長丁場だっただけにその気持ちが大きい。

今回はなぜこんなに面白いのに視聴率が悪かったんだろうという点と、メディアはなぜ『いだてん』は“大河史上過去最低の視聴率”ばっか報道したのかということを、ドラマの一ファンとして考えてみる。

NHK大河ドラマは、はっきり言って時代劇だ。しかも、戦国時代である。それが一番視聴率を取るのだ。「○○でござる」「達者でな」「かたじけない」といった台詞が飛び交って、チョンマゲのカツラをかぶった役者が、一世一代の熱演をするのが「大河ドラマ」だと世間的には思われている。

そこにクドカンが、現代劇をやると聞いた時、あーこれは苦戦するかもな?と考えたのはぼくだけではないはず。だが、少し楽観的に思っていたのは、この放送の次の年 2020年に東京で再度オリンピックが行われるので、その盛り上がりに一役買うことで視聴者が増えるのではないかという期待だった。

だが、ふたを開けてみると、その人たちがそんなにいなかった。おそらく2020年のオリンピックがそこまで期待されてない裏返しだったのかも知れない。もしくは、今年行われたラグビー・ワールド・カップ2019日本大会が盛り上がったように、始まってみないと盛り上がらないのがこの国の国民性なのかもしれない。

『いだてん』の主人公は、歴史上のヒーローではない。一人は日本人として初めてオリンピックに参加したマラソンランナー金栗四三(六代目・中村勘九郎)と、もう一人は日本にオリンピックを招致した男、田畑政治(阿部サダヲ)である。狂言回しとして、同時代を生きた落語家の最高峰の一人、五代目古今亭志ん生 (ビートたけし)が落語を語るという構成だ。(だから副題が、“東京オリムピック噺”と「噺」という字が使われている)

最終回を見終わった後、このドラマはここまで「噺」を運ぶという意味で、みんなでタスキをかけあって繋いでいった物語で、本当の主人公は「東京オリンピック’64」そのものだったと感じた。それがこのドラマを面白くした理由だが、一般の「戦国時代の英雄好き」の人たちにはわからない世界観だったのだろう。

クドカン自身、週刊文春の連載で「自分の代表作になるだろう」と自信を持って描いた世界だったが、視聴率では大河史上過去最低を記録してしまった(平均視聴率8.2%)。それは上に書いたわかりにくさもあったと思う。何しろ伏線が多いのだ。伏線は劇の構成上とても重要なファクターであり、それが繋がっていくのを見るのが、観客側の楽しみでもある。だが、それは「映像文化」を見慣れた世代には通用するが、「映像文化」になんの興味もない人たちにとっては、邪魔くさいものに映ったかもしれない。

ぼくを始めとして、一年間きっちり観て、最終回に号泣した人たちは、ある程度映画なりドラマなりを見慣れている文化的に成熟した人たちだったと思う。だから、その想いが爆発して、Twitterで #いだてん最高じゃんねぇ のハッシュタグが世界一のトレンドになったのではないかと思う。

そしてメディアの報道である。我々『いだてん』ファンからすると、なぜ視聴率ばっかり取り上げるのか?いつも不思議に思っていた。面白ければいいじゃないかと思うが、やはり昭和の時代に生きた人間が上層部にいると、そのことしか興味がないのだろうと思う。やれ、大河ドラマの主たる視聴者が、「ポツンと一軒家」に流れただのと分析しているが、誰も日本人の文化レベルの低さを指摘した人はいない。

自分の知ってる歴史上の人物のドラマしか興味を持たない。複雑な構成なら「わかりにくい」と観なくなる。そんなポピュリズムにおもねって、単純なものばかり作っていれば、日本の映像文化はダメになる。こんな面白いものをなぜ観ないんだ!と言った人はいましたか?そのことを世の中にはっきり伝えるのが、“インテリ”と呼ばれている記者の皆さんの仕事ではないかと思うのだが。

だがぼくはTwitterでの『いだてん』最終回の後のもの凄い盛り上がりを見てて、日本人は捨てたもんじゃねえな。この国の文化レベルは高いんだなと痛感した。クドカンというあきらかな”文化系”の男が、”体育会系”のドラマを一年かけて、こんなに面白いものを作った。そのことを観る側はみんなわかっていた。

ぼく自身も、ちょうど二二六事件の前後あたりから、ラストスパートがかかったようで、それまでの伏線が繋がっていくドラマで何度泣いたことか。それは、観続けたものだけが分かち合えるもの。最終回の大爆発は、そんな人たちの「ありがとう」という気持ちだったのだと思う。

(第46回の間違い↑😝)

最終回では、クドカン自身がタクシードライバーで出てきて、後ろの座席には、ビートたけしと小泉今日子が座っている。何度も大河ドラマの脚本を書いた三谷幸喜は、市川崑監督の役を演じる。そんな“楽屋落ち”を最後に見せながらの大団円。

本当にいいものを観せてもらいました。歴史の勉強にもなりました。クドカンさんはじめ、スタッフ・キャストのみなさん、本当に面白かったです!

しかし、最後の最後が、ユートピアの「よろしく、ね」とは思わなんだ(笑)

PS. このネットの盛り上がりについて来れなかった人たちは、年末に総集編があるので、これで”後追い”しなされ。

(総集編放送予定 )
総合テレビ
●12月30日(月)
午後1:05~3:20 〈第1部〉前・後編
午後3:25~5:40 〈第2部〉前・後編

BSプレミアム
●1月2日(木)
午前8:00~10:15 〈第1部〉前・後編
●1月3日(金)
午前8:00~10:15 〈第2部〉前・後編

https://www.nhk.or.jp/idaten/r/topics/news/sosyuhen/

てなことで。

最後までお読みいただきまして誠にありがとうございました!