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「リフレッシュ」でリフレッシュ

離婚後、しばらく実家で、母と2人の息子と4人で暮らしていた。

経済的には実家にいれば楽だった。

でも、母が自閉症の息子たちの世話を焼きすぎることが気になった。

なんでも先回りしてしまう。

息子たちができるはずのことも、できなくなってしまうのでは…

そんな危機感を感じて、私は息子を連れて実家を出た。


家から車で15分くらいの町にアパートを借りた。

台所と6畳の部屋が2つの2DK。

一部屋は畳、もう一部屋はフローリング。

畳の部屋を居間、フローリングの部屋を寝室にした。

長男は2段ベッドの上、次男は下、私はベッドの横に布団を敷いて寝ていた。


養育費があっても、楽に生活していけるわけもない。

2人の息子たちは学校に行けず引きこもっている。

知らない土地に来て、2人だけで留守番させる。

長時間、家を空けることはできず、私は午後から夕方まで介護のパートに出ていた。


将来のことを考えても自分で料理できるほうがいい。

インスタントラーメンや目玉焼き、簡単なものは自分で作れるよう、ガスコンロや包丁をできるだけ使わせるようにした。

私が仕事中に、もし何かあったら…

そんな不安はあったが、慎重な息子たちはコンロも包丁も上手に使うようになってくれた。


午後からの仕事だったので、午前中は次男と一緒にテレビを見ていた。

印象に残っているのが、石川テレビの「リフレッシュ」というローカル番組。

県内のことを紹介する情報番組。

なにか特別面白い企画があったわけでもないと思う。

でも、見ていると落ち着いた。

あったかい気持ちになった。

今思えば、出演者の仲の良さや、身近な情報、なんでもない普通のコメントにホッとしていたのかもしれない。

離婚した私、障害のある息子たち、これから3人で暮らす普通ではない家庭の状況…

普通のやりとりを見ている時間は、私も普通の主婦や普通のお母さんの感覚でいられたのかもしれない。

冬は、こたつから顔を出して一緒に見ていた次男の顔をよく覚えている。

まだあどけなさの残る顔で次男も微笑んで見ていた。


長男は昼夜逆転気味になり、私と次男が眠る頃に起き出して、居間でテレビを見ていることが多かった。

次男より2つ年上の長男は、中学に1度も行けないまま卒業を迎える年だった。

1人の時間にいろんなことを考えていただろう。

将来への不安をいっぱい抱えていただろう。

それでも、私が仕事に行ける程度に落ち着いてくれてることがありがたかった。


朝起きて、家のことをして、リフレッシュを見て、仕事に行って、買い物をして帰り、夜ご飯を作る。

毎日その繰り返しだったが、その時期、私は楽しかった。

親や元旦那とのゴタゴタから解放され、少なくとも夜はよく眠れるようになった。


アパートの1階に安くておいしいピザ屋さんと、たこ焼き屋さんがあった。

たまに3人で食べるピザとたこ焼きはおいしかった。

隣の部屋に何人かで住んでいたブラジルの人たちは、いつも陽気で気さくに挨拶してくれた。

一般的な境遇から外れてしまった私は、異国で働くその人たちにシンパシーを感じて、なんとなく嬉しかった。

他の国で仕事するってすごいな…

私も、なんとかなるのかわからなくても、なんとかするんだ!と思っていた。

この先何年たっても、

あの時の静かな3人での暮らしと、自分の気持ちの穏やかさと、次男とリフレッシュを見ていた時間は忘れないと思う。


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