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マネジメントの教科書が【キングダム】で、UXデザインの教科書は【あの名作】だと思う。

「キングダム」が「一番売れているビジネス書」として売り出され大きな反響を呼びました。

たしかに「キングダム」は心を震わせる名シーンが多く、
マネジメント論として、「リーダーシップとはなんぞや?」を吸収できるところが多くあります。

マンガから仕事に繋がるなにかを吸収している人も多いのではないでしょうか。

ビジネス界のマンガ好きの方からは「キングダム」だけでなく、例えば「BLUE GIANT」やクリエイティブ界では「左利きのエレン」もよく名前があげられますね。(他にも名作はもっとあります。)

個人的には「サラリーマン金太郎」も大好きです。

モチベーションが上がる、実用的な内容がある、そもそもストーリーとして面白い。

マンガの楽しみ方はそれぞれありますよね。

ぼくはUXデザインの仕事をしているのですが、
あの名作がUXデザインのまさに教科書になるのでは?と思ったのです。


それは国民的作品である「ドラえもん」。


不二子・F・不二雄さんがビジネスの世界にいれば、とんでもないデザイナーだったのでは?と思ったのです。

ドラえもんの話をする前に、「UXデザインってなんなの?何やってるの?」という話にも触れますので、「もう知ってる!」という方は目次からその部分を読み飛ばしていただけるといいなと思います。

UXデザインってなにをやるの?

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「ドラえもん」がなぜ、UXデザインの教科書になるのか?について話す前に、まずUXデザインとは何か?そして携わるUXデザイナーってなにをやってるの?から軽くお話できればと思います。

「UXデザインってなに?」から始まると思うのですが、

UXデザインとは

そのプロダクトに触れるユーザーが、プロダクトを通して与えられる体験の全てを設計し、ものづくりに反映させること。

を主に考えることです。

UXはUser Experienceという言葉の略ですから、
「ユーザーのことを考えてものづくりをする」という言葉に置き換えられますが、UXデザインという言葉自体は「ものを作る側」に対して「ユーザーのこともちゃんと考えて作ろうぜ!」と向けられている言葉のため、

「プロダクトを作る側の意思が反映されていること」

は前提の条件であると思います。

なので、解釈すると

「プロダクトを作る側とプロダクトを使う側の双方の立場や環境、そして気持ちを解像度を上げて理解し、双方のコミュニケーションが正確に伝わるように設計し、ものづくりに反映させること」

なのではないかと、僕は思っています。

(UXデザインの解釈は広いので、個人的な見解です)

・なぜ必要か?
・これを作るとどうなるか?
・そのためにはどうあるべきか?

ユーザーの環境を理解した上でWhyとHowのつなぎ込みを行い、作り手の想いを正確にユーザーに伝える手段を考える。

作り手側は基本的に、ユーザーに使ってもらえるもの、使ってほしいものを作っている、という前提ですが、「ユーザーは本当にそう思っているか?」を確かめるためには論拠が必要です。

そのためには様々なリサーチ、そしてリサーチした情報をチームで共通認識として持てるように整理、解釈されたアウトプットを出すことがUXデザイナーには求められます。


UXデザイナーってなにしているの?

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「ドラえもん」の本題に入りたいところですが、UXデザイナーの具体的な業務にも触れておかなければなりません。

UXデザイナーの業務は以下のようなものです。

・ビジネスデザイン(戦略立案、バリュープロポジションなど)
・フィールドリサーチ(ユーザーインタビュー、エスノグラフィー調査など)
・分析(市場競合、アナリティクス、ヒューリスティック分析など)
・ユーザーテストの計画
・ペルソナ設計
・ユーザーニーズの定義ストーリーボード
・カスタマージャーニーマップ作成(サービスブループリントなど)
・ビジネスモデル・キャンパス
・ストーリーボード・ユーザビリティテストなど

この内容については弊社のメンバーである坂尾の記事も参考にしてもらえると思います。


先述した通り、

「プロダクトの作り手側とプロダクトのユーザーの双方の立場や環境、そして気持ちの解像度を高く理解し、双方のコミュニケーションが正確に伝わるように設計し、ものづくりに反映させること」

を考えるために、

ユーザーを知るために調査をして、調査結果をものづくりに関わる全ての人たちのために、解像度を高く理解し、より詳細に落とし込んでいく作業をするために整理したり、絵で表現したり、を行うわけです。

上記はフレームワークであり、実際の現場では作り手の意向ともつなぎ込みを行い、最終的なプロダクトの形態を決定していきます。


「ドラえもん」がUXデザインの教科書になる理由


本題に入ります。

デザインの観点から見たときに「ドラえもん」が特に秀でている部分、

それは

ユーザーとプロダクトの関係性を描く解像度が異常であること

です。

ドラえもんには主にのび太君を救うためのプロダクトがひみつ道具という存在で登場します。

このひみつ道具を通して描かれるストーリーこそが「ドラえもん」というマンガの醍醐味です。

そして、そのひみつ道具は現実世界では存在せず、
全て仮想で作られたもので、誰かがあったらいいなと思うものばかりです。

ドラえもんのひみつ道具で一番欲しいものは?という質問は誰しもが一度は答えたことがある質問ではないでしょうか。

一瞬で行きたい場所に行ける「どこでもドア」はもっとも人気のひみつ道具の一種ですね。メジャーではないですが、「ムリヤリトレパン」という走りたくなくても走らざるを得ない状況になる、というニッチなものもあります。

まず脱帽するのは不二子・F・不二雄氏のニーズの汲み上げ力です。

ドラえもんのひみつ道具はこれまで登場した数で2000個前後である。と言われています。

そしてその全てのアイテムは誰かの何かに役立つものとして描かれています。

つまり、不二子・F・不二雄氏は大なり小なり2000個のニーズを発掘し、
その解決方法をアイデアとしてプロダクトに落とした。

ということになります。

この時点で、もう異常です。
とんでもない観察力と共感性を持ち合わせた人物です。

ひみつ道具の中には、どこでもドアのように「誰もが便利だと思うもの」から、誰が使うの?というニッチなひみつ道具まで存在します。

その全てをニーズであること、として受け取ること自体が至難の技です。

UXデザイナーだけではなく、事業家としての才能も持ち合わせた人物です。

次に驚くべきはひみつ道具の体験設計力です。

「ドラえもん」はそのほとんどが、ひみつ道具を通して描かれるストーリーであり、だいたいは解決方法がわからないのび太君のために、ドラえもんが解決手段としてひみつ道具を提案します。

いわば

・ドラえもん:作り手側
・のび太くん:ユーザー

の構図です

2000個のアイデアを開発すること自体すごいのですが、
「こういうものがあったら便利ではないか?」という粒度であれば皆さんも経験があるのではないのでしょうか。

しかし、不二子・F・不二雄氏がすごいのは、このひみつ道具を通して描かれるのは

ユーザーの道具単体の利用体験だけでなく、
周囲の人や環境を含む、全ての生活環境にまで及ぶ

という点です。

ひみつ道具がどういうシーンでどういう心境のときに利用され、
利用した結果どういう効果を発揮し、その効果が周囲にどういう変化をもたらし、ユーザーにどう返ってくるのか、までが描かれています。

しかも、そのストーリーはごく一般的なもので構成されており、
多くの人にとって共感性を感じることができるストーリーに落とし込まれています。

この共感性というのはものづくりに取り組むチームにも大きな影響を与えます。

ものづくりはおおよその場合、一人ではできません。

作っているチームがあり、そのチームに所属するメンバーがいます。メンバーの意思疎通が円滑になり、
「なんのためにつくっているのか、どうあるべきか」というゴールが明確になり、良いものを作るための環境の土台となります。

先述したWhyとHowのつなぎ込み、が最後までブレることなくできるわけです。

ここまでプロダクトの体験設計ができているデザイナーは、多くはないのではと思ってしまいます。


人の課題を発見し、
解決策としてアイデアをプロダクトに落とし
そのプロダクトはどんな機能を持っていて、
どんな人のどんなことを解決することができるのか、
そしてそのプロダクトを使用した結果どういうことが起きて、
その人とその人の周りも含めた生活そのものにどういう変化をもたらすのか

が詳細にストーリーとして描かれているのです。

ちなみに「ドラえもん」については、最終的にそのプロダクトが仇となってしまい、のび太君が痛い目に遭う、というストーリーも多くありますが、
プロダクトを使ったときに起こりうるエラーも想定されている、というオマケ付きです。

あったらいいな、という気持ちを解釈し、
そのプロダクトがどんな形をしていて、どんな挙動で作動するか、
プロダクトのビジュアルデザインまで落とし込まれていて、その利用シーン、心境の解像度が著しく高いUXデザインのアウトプット事例である


長くなりましたが、これが「ドラえもん」がUXデザインの教科書になる、と思った理由です。


「ドラえもん」は、のび太くんという愛する1人の人間の体験を変える体験設計がひみつ道具に施されているストーリーです。

UXリサーチとは少し異なるアプローチ方法かもしれませんが、

1人必要とする人がいるのであれば、世界に同じ想いを持つ人がいるはずである。

という前提に立つとOUX(One User Experience)という概念も考えることができます。マーケットがまだ存在しなかったり、リサーチでは見えづらいプロダクトアウトとしてサービスを設計する際には有用な手段になるかもしれません。

この辺が自分の中で少しモヤモヤしていたので、少しすっきりしました。

「ドラえもん」を通じて描かれる不二子・F・不二雄氏の課題解決能力にはもう脱帽です。

マーケットインにしてもプロダクトアウトにしてもUXデザインに携わるものとして、これほどまでの体験設計を通してプロダクトを作っていきたいですね。

「ドラえもん」を再度読み直して、デザイナーとしての筋力を鍛え直したいと思います。


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