ERP会計:2-5 閑話休題 あえて逆張りの在庫積増戦略

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 このところ、ややライトなトピックが多くなりがちだが、少し前の日経に掲載された「SMC、顧客本位の在庫増 FA機器、米中摩擦の逆風でも 急な受注、3日で納品」という記事(*1)について、解説しよう。
 SMCは、工作機械や半導体製造装置に組み込まれる、空気圧の力で「押す」「つかむ」「持ち上げる」といった基本動作をする機器のメーカーだ。需要減に対して、多くのFA(工場自動化)メーカーが在庫調整(削減)に舵を切る中、対昨年売上が13%落ち込む中、在庫回転日数を31日伸ばし、常に10か月分の在庫(棚卸資産)を持っているというのだ。
 同社は、70万点を超える取扱商品を、世界中の取引先に対して約3日で納入可能、これは競合他社の平均納期1~2週間にくらべて大きな差別化ポイントとなり、結果、空気圧機器では世界で37%のシェアを握る。製造業向け間接材購買サイトであるモノタロウでも「SMC特集」という専用のページが用意される(*2)など、幅広い顧客ベースを有していることがわかる。
 これだけの在庫を保有するということは、既に見てきたとおり、キャッシュが寝るというデメリットがある一方で、QCD(*3)の特に「D」に集中することにより、市場シェアや収益性の観点で、より大きなメリットを享受できるという戦略的意思決定をおこなっているということだ。
 一方で、すべてを完成品にすると売れ残り時の評価損リスクも大きいため、在庫の持ち方を工夫している。具体的には、在庫全体のうち、完成品が45%。残りが原材料や仕掛かり品だ。チューブや、継ぎ手等の汎用的な部材も多いため、短期的には商品が「賞味期限切れ」にならないという特徴に加え、これらを単体の製品として売ることもできるし、組み立ててコンプレッサー等の商品として販売することもできるという、選択肢の多さも裏付けとなるのだろう。
 経営指標は多面的に見なければならず、また、類似の外部環境においても、まったく異なる経営戦略が採用され得ることを示す好例だ。

*1: 2019/11/21付朝刊記事 https://www.nikkei.com/article/DGKKZO52421550Q9A121C1DTA000/
*2: モノタロウ専用ページ https://www.monotaro.com/brand/186/
*3: QCD, Quality(品質), Cost(コスト/価格), Delivery(納期)、製品・サービスの発注先選定において最も重要とされる三要素。これらの要素は互いにトレードオフの関係にある。

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