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9月28日 出国 ガーマルチョバ

羽田空港を21時55分発の飛行機、トルコを経由して、ジョージアへ向かう。

第三ターミナルの吉野家で、牛丼のあたまの大盛りに紅ショウガを肉と同じ分だけかけて食べる。つゆだくにし忘れたことを後悔しつつ、混ざり合う牛丼を見ながら耳を開けると、
「すいません忙しいところ。子どもようのカレーの持ち帰りはできますでしょうか?」
「はい。可能でございます。子ども用のカレーの持ち帰り一点でよろしかったでしょうか?」と外国人のお客と外国人の店員が日本人以上に丁寧な日本語で話をしている。

手荷物検査から出国まで、前を見ても横を見ても、壁には化粧品をもった大谷さん、時計をつけている大谷さん、どこかの企業の名前がのった大谷さん。大谷さんばかり。待合所で流れるニュースも大谷さん。もう見飽きて飛行機に乗り込む。

トルコ経由でジョージアへ。空から見たジョージア空港の周辺は、ぽっくり中東のよう。入国審査で、係のおじさんにパスポートを渡す。簡単な質問をされる。おじさんのすぐ横に、えもいわれるほどの美女が座り、無意識にそちらを向いてしまう。係のおじさんが私の顔写真を撮ろうと「カメラ」という。私は1秒もカメラを見ぬうちに美女を見る。おじさんがまた「カメラ」という。1秒もせぬうちに美女を見る。鼻はどんな形か、輪郭はどんな形か、目は何色かと気になってしまう。おじさんはまた「カメラ」という。係のおじさんは雑にスタンプを押して、私を追い出すように促した。美女には磁力があるのだ。

9月29日
空港からバスでトリビシ中心へ向かい。適当にレストランに入る。restaurant pasanauriという店。三階建ての店の外観にはツタがはっている。2階のベランダに席を取りアジャブサンダリという冷たいトマト煮込みの料理と大きな小籠包にしかみえないヒンカリという料理、そしてビールを頼む。フォークで刺してかぶりつくようにむしゃむしゃ食べていると、
「恐れ入りますが、もしご存じだったらもうしわけございませんが・・・」
くらいの丁寧な英語で後ろから話しかけてきた。

白い肌にブロンドヘアー、青いサファイヤの目をした人だった。彼はアレックスといい、ウクライナ人だといった。「このヒンカリはね、皮を結んでいるてっぺんのところを手で持って、汁を吸いながら袋を食べるんだ。手に持っているてっぺんは捨てるんだよ、そこは火が通ってないから」と教えてくれた。確かにてっぺんはやけに小麦粉っぽかった。ワインは飲んだかというから、2時間まえにジョージアに着いたばかりだと答えると乾杯をしようと赤のワインをご馳走してくれた。

kindzmarauliというワイン。甘くてとても美味しい。これまで甘いワインをあまり飲んだことがなかったからか、やけに美味しく感じた。彼も目を細めて味わっていた。

このあたりで面白いところはないかと聞くと、彼はたくさんあるよと言う。そしてまずはCBTを吸いにいこうという。CBTとはなにかと聞くと合法のマリファナみたいなものだという。よしいこうと返事をする。

ジョージアの街は、古い石造りの町並みで、表通りはおしゃれなお店が多く、どこも人で賑わっていた。闊歩している野良犬の耳に黄色いタグがついていて狂犬病のワクチンが打たれているのかもしれない。人間を信じ切ったかわいい犬ばかり。空にはケーブルカーが遠くへ運ばれていく、その先に観覧車と鉄塔が輝いていた。

アレックスの後ろをついていく。大通りから奥に入ったところの地下。CBTバーと看板に書いてある。合法ということは嘘ではないようだ。お互い1本づつ買う。薄い紙に葉っぱが巻かれていて、吸い口だけ濃茶色の紙になっている。1本25GEL 1500円。高い。ライターで火をつける。マリファナのような匂いはあまりしなかった。僕らは少しだけ饒舌になり、両手を広げて降ろす素振りをしながら、リラーックスといい、写真を撮りあった。

彼と2軒バーに入った。彼はこれまでの仕事をひとしきり話し、日本のサムライとマンガのベルセルクガ好きで、ONE PIECEは見たことないとか、なんだかしゃべって、ヒンカリを汁を一滴もたらさず綺麗に食べ、明日は早いんだと言って帰って行った。まだ18時。

一人残された私は、暗くなりあちらこちらから漏れてくる笑い声と低いヒップホップのベース音の中を掻き分け、ウトウトしながら宿を探し歩き、見つけたら宿は6人部屋でベッドにはカーテンもなかった。

部屋はロシア人の男の子と一緒だった。彼の着ている服装、立ち振る舞い、話し方もパリッとしていて、どこか統制されているような、社会主義の雰囲気にも感じた。しかし、彼は笑うと目が垂れ、甘えたような顔になって、サムライが好き。マンガのベルセルクがすき。ONE PIECEは見てないとウクライナのアレックスと全く同じことをいっていた。

ベッドに横たわり天井を見上げ、一日を振り返る。両替もした。SIMカードも買った。ジョージア料理もワインも飲んだ。友達もできた。CBTも吸った。街も歩いた。トビリシでやることを全部やった気になって、ぼーっとしていた。日本の実家の隣のおばあちゃんは、いつも夕方4時には、散歩も済ませ、晩ご飯も食べ、皿も洗って、チャンバラも見終わって、お風呂も入りパジャマ姿になって、玄関先の手すりに寄りかかり、やること全部やったという雰囲気で、外をぼーっと見ているのだが、まさにあんな感じだった。

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