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【やまのぼエッセイ No.3】人は勤め先で評価されるって本当です!?

 やっとの思いで大学を卒業して、さて就職となって初めて焦った私。いまから、四十年以上も前の話である。六人兄弟の末っ子として、兄や姉から甘やかされて育った私。自分のことなのに、姉が先々にお膳立てしてくれた。

 十四歳も年上の姉のご主人の計らいで、百人そこそこの中小企業に、何とか滑り込むことができた。当時、インベーダーゲーム全盛期。仕事の帰りに、駅前の喫茶店に屯していたことがとても懐かしい。

 それは、一応、技術研究所勤務であった。そこで、商品開発に携わっていたのだ。開発製品の性能チェックのため、汎用旋盤はんようせんばんを操作する毎日に、「なんだか?違う!」と、目覚めた私。

 技術営業職の中途採用者募集!の新聞広告を見つけてしまった。

 ダメもとで、当時は京都府山科に本社があった一部上場企業に、後先考えず応募した。ところが、何が、どこで、どう間違ったのか、採用の通知をもらったのだ。一番驚いたのは私だ。最終面接会場には、応募者がひしめいていたからだ。

 いまでも、履歴書が前か後ろの人と、間違って採用されたのだと思っている。それほど、一流の名前のその先に、超がつく企業だったのだ。

 娘のお産のため、実家に帰っている妻に、「今度!転職する!東京勤務だ!帰ってくるのは、神戸じゃないぞ!」と、突然電話で報告した。妻にしてみれば、反対するも賛成するもなかったのだ。

 私が独断で、一歩踏み出してしまっていたのだから。

 当時は、東京駅前八重洲に自社ビルがあって、そこに32歳の私は、技術営業勤務に就いた。厳しいノルマの未消化で、胃がキリキリ痛む毎日だった。とはいうもの、給料は倍増し、気持ちが大きくなっていた。

 分譲マンションが欲しくなって、ある○○銀行に融資の相談に行った。対応してくれた窓口の男性は、初めは気持ちよく対応していたのだが、「転職して、まだ1年目なのですが・・・」の私の言葉に、態度が変わった。

「それは・・・難しいですね~ウチでは…最低5年は勤務されていないと・・・」と半身に構え、時計をチラチラみながらソワソワする担当者。

「ところで、どちらにお勤めですか?」と、ユル~く聞かれたので、「○○〇です!」と、言った途端その男性は、姿勢を正して「お隣の〇〇〇さんに、お務めですか?なぜ?それを先に仰いません!」と、いうので、「聞かれていないので・・・」と私。

「でも、転職してまだ1年目なので・・・出直します!」と、席を立とうとする私を強く引き留めて、その担当者は、「いいんです!そんなモノ私が、何とでも作文できますから!・・・そう!ヘッドハンティングされたんでしょ!でしょ!」と、好き勝手にストーリーを創り始める。

「あの○○〇さんにお勤めなら・・・それも正社員さんなら・・・いくらでもお望みの額を、ご融資させていただきます!」との豹変ぶりに、肩書や勤め先で、その人を評価する世間の醜態さに、背筋を寒くしたモノだった。

 結局、そんなチャラチャラした銀行さんには、融資をお願いしなかった。それも、百人そこそこの中小企業で、インベーダーに興じていたら、経験できなかっただろう。

 その後、数字!数字!に血眼になっている毎日に、「なんだか?違う!」となって、脱サラし起業した。それ以来、柄にもなく、三十数年、世界一小さい会社を経営している私である。

 あのとき、一歩踏み出した先に観た諸々の風景は、いまになっても色褪せず、生きる糧になっている。

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