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【即席物語】黒白の島国

 黒い天鵞絨のうねる空は、金剛石や碧玉、蒼玉の雪を羽毛のようにゆらゆらと落とし、その艶やかな光沢は降る雪を銀河のように煌めかせました。地面には宝石がジャクジャクと積もっていって、すっかり見えなくなりました。積もる煌めきの底には空と同じ深い闇がくすんでいて、彼はなんだか不安になりました。

 そのとき空に一筋の白い糸が空を一周するように縫われました。すると、こちらの黒い天鵞絨は静かな夜の海原のように穏やかにそよいで、向こうの黒い天鵞絨はこちらと反対向きに波を立てていました。

 透明な氷の傘の上を、こちらの波と同じ向きへ毛糸のツグミがキュキュキュイと飛んでゆきました。そのツグミは琥珀の幹と翡翠の葉のイチイの枝に止まって、またキュキュキュイと鳴きました。

 彼はザクザクと宝石を踏みしめ近づいていきました。お辞儀をし「今日は素敵な天気ですね。」と挨拶をしました。ツグミは「ええ、はい。今日は素敵な天気なので喉の調子が良くてつい歌ってしまいます。」と答えました。それから

ジャラジャリジャラン 
玉の煌めき 銀河の如く
七宝色の大地 さざめきひかり
夜風なびけば ひかりはかえる
ジャラジャリジャラン ジャララリラン

と歌いました。すると、他の毛糸の鳥たちが一羽二羽と集まってきました。キュキュキュ、ツィツィツィと鳴いて宴のようでした。歌声はまばらで乱雑に折り重なって聞こえましたが、なんだか胸が踊るような気持ちでした。その歌声は彩やかな宝石に響いて、ツンツンと震わしておりました。彼もうずうずと肩を揺らしました。

 突然、ひんやりと寂しい黒い風が吹いて、その風に声をさらわれたようにツグミたちはしんとなりました。一羽のツグミが「そろそろ、おかえりになられたほうがよいと思います。風が冷たくなってまいりましたし、あなたはお家へお戻りになられたほうが輝けます。」と言いました。「そうですね、風が冷たくなってきたのでかえろうと思います。」ぺこりとお辞儀をして、またザクザクと歩き始めました。

 風がさらに冷たくなってきました。彼は玻璃のハットを右手で押さえ歩を速めました。宝玉の雪は天の川のように風に流されていたので、氷の傘を川の流れを受け止めるように傾けました。地面の煌めきが増すのと同じくらい、底の闇は深くなっていきました。その闇からは、時折唸るような振動がありました。

 ひかりの丘の向こうに黄金の小屋が見えてきました。彼は安堵して肩の震えが治まったようでした。扉の前で傘を閉じ、瑠璃の外套に付いた雪を払ってから扉を開きました。コッコッと小屋へ入り扉を閉めると、外は蝋燭の灯りをフッと消したように黒く染まりました。

 氷の窓の外は、ぽつぽつと小さな光が灯って星空のようでした。小屋の中の白銀の行灯を灯すと、びかびかと光が金の壁に反射しあって一等星の如く輝きました。彼は琥珀の靴を脱ぎ絹の手巾でキュリキュリと磨いて、この深い夜を静かにことにしました。

 星々は光が再び満ちるまで輝き続けました。

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