夢、蜘蛛、爪
夢に名前を付けるのはおやめなさい、夢と現実の区別がつかなくなりますよ
そう言われて育った。
蜘蛛を殺すと雨が降りますよ
そう言われて育った。
夜に爪を切ると、ヘビが出ますよ。
そう言われて、育った。
結果として夢に名前を付けたことは今まで一度もない。
名付ける前に内容を忘れてしまうか、
もしくは自分の語彙力を超える夢に圧倒され、言葉を失ってしまうからだ。
蜘蛛を殺したことは、きっとある。
意識して殺したのではないはずだ。
雨が降っているとき、蜘蛛を殺したからだ、と感じたことが今まで一度もないし、
雨が降ってほしいと思った時、近くに蜘蛛は大抵あらわれなかった。
夜にヘビに会ったこともない。
だから夜に爪を切ったことがない、とは、言えない。
だいたい、爪が伸びていることに気が付くのは夜だし、
夜以外、爪を切るようなちょうどいい時間はないのだ。
唯一しっかりと身に染みていることといえば
人の嫌がることはしないように
ということだ。
夢と現実の区別がつかなくなるわけでも
期待していない雨が降るわけでも
夜中にヘビに会ってしまうわけでもなくても
どうしてだか、わかっている。
理由もなくわかっているくらいが、一番幸せだと思う。
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