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「新しい実在論」を分かり易く学ぶ➋

《これまでの記事》                        「新しい実在論」を分かり易く学ぶ❶(2020.6.5)

◇第2回「これはそもそも何なのか、この世界とは①」2020.6.17 ZOOMにより実施

 BPIA (ビジネスプラットフォーム革新協議会)の会員向けに行っている研究会「Think!」。2020年度の研究会は、『Think! 新しい実在論研究会 〜新実在論で世界、社会を捉え直す〜』というテーマで、オンライン講座という形態で進めています。https://b-p-i-a.com/?page_id=8119                      「本質主義vs.相対主義」という対立から抜け出す第三の道を開く、マルクス・ガブリエルらが提唱する「新実在論(新・ドイツ観念論)」などの最新哲学を探究します。

 2020.6.17に、研究会第2回がオンライン開催されましたので、以下要旨を報告いたします

 本研究会では、マルクス・ガブリエルの著作『なぜ世界は存在しないのか』(講談社選書メチエ刊)を基本書としています。

図1

 今回第2回は、本書の第1章「これはそもそも何なのか、この世界」(P30~P74)約半分(P46まで)を共有します。

★Think!「新実在論」第2回2020.6.17

 この第1章では、マルクス・ガブリエルは次のことを我々に問います。

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その問いは、                            ○この世界全体とは何か?                       ○そもそもすべてはどこで起こっているのか?              ○我々はどこに存在しているのか? です。

 私たちが日常的には考えない問いですよね。

 また、マルクス・ガブリエルは、この問いを考える姿勢、つまり、哲学的態度を掲げています。

 ひとつは、ソクラテスの有名な弁明である「私が知っているのは自分が無知だということだけだ」です。

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 もうひとつは、次のような姿勢です。

私たちに対して現れている世界と、本当に存在している世界とは全く違っていることがありうる。哲学はすべてを疑う。究極的には、哲学自身も疑う。

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 なかなか厳しい姿勢ですよね。ここまで疑うところこそ、この世界全体とはそもそも何なのかを理解するチャンスがある、と彼は語っています。

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 今回は、特に「問い」のうち、

そもそもすべてはどこで起こっているのか? 

を検討します。

 この「そもそもすべてはどこで起こっているのか?」という問いに答えるためには、ある二つの概念を検討する必要があります。それは、日常生活、哲学を含む学問において、混乱して用いられている二つの概念です。

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  二つの概念とは何でしょうか?

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二つの概念とは、「宇宙」と「世界」です

 私たちも日常的には、混在して使っていますよね。

 ところで、「宇宙」とは何でしょうか? マルクス・ガブリエルは次のように説明します。

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 私たちは、「現実とは何か?」と自問する時、ほとんど漠然とではあれ、この最大級の全体が何であるかを問いています。

 私たちは、

4000億ほどの他の星々とともに銀河系の一部をなす太陽系の第三惑星に我々はいる

といえます。

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 一方、

僕は横浜市にある事務所の机で、BPIAの会員向けにオンライン講座をしています。

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 我々の在り処このように示すことは一見同じように想えます。

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 しかし、マルクス・ガブリエルは以下のように言います。

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 そう、僕の事務所の話をするのと、惑星の話をするのとでは、根本的な違いがあるのです。

その根本的な違いとは何か?

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図1

 僕の事務所は、仕事をしたり、オンライン会議をしたり、オンライン講座をしたり、そこで食事をしたり、休憩をしたり、音楽を聴いたりするところです。

 一方、惑星は、観察したり、化学的組成を推定したり、他の惑星との距離を測定したり、多くの研究の対象となるものです。

 つまり、

”惑星”は物理学・天文学の対象であり、物理学・天文学は決して横浜の僕の"事務所"を対象にしない…

のです。

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 ここで、マルクス・ガブリエルは言います。

事務所と惑星は決して同じ[    ?    ]に属していない。

 [?]に何が入るでしょうか?

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 事務所と惑星は決して同じ[対象領域]に属していない。

 出ました! 第1章のキーワードの一つ「対象領域」

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 書籍『なぜ世界は存在しないのか』の巻末には「用語集」が付録でついていて、僕はこれをコピーし、参照しながら彼の本を読みました。

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  「対象領域」とは、

特定の種類の諸対象を包摂する領域。その際には、それら対象を関係づける規則が定まっていなければならない。

 ここで、オンライン講座の参加者に、僕は問いをしました。

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 ここでは割愛しますが、仕事、組織、家族、趣味のサークル、子供野球チームの監督、ポランティアなど、多くの「対象領域」に属していました。

 また、マルクス・ガブリエルは、「対象領域」の特徴を次のように説明しています。

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 ひとつの特徴は、

どんな対象も何らかの「対象領域」に現れる。

 もう一つの特徴は、

「対象領域」は数多く存在する。

 さて、次の問いを考えてみてください。

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マルクス・ガブリエルは、こう言います☟。

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 「宇宙」は、自然科学の、特に天文学、物理学の「対象領域」に過ぎないのです。「宇宙」は、天文学、物理学の「対象領域」に他ならない以上、決して全てではない。

 僕の事務所は、僕にとっては、                   仕事をしたり
オンライン会議をしたり
オンライン講座をしたり
そこで食事をしたり
休憩をしたり
音楽を聴いたりするところ であり、その意味では、天文学、物理学の「対象領域」ではないのです。                      ※オンライン講座での「VPN障害」などは、サーバやネットワークは電子的で、かつ物理的なことかもしれませんが…

 つまり、「僕の事務所」と「宇宙」では、その意味する「対象領域」が違うのです。

 結論としては、

僕の事務所は「宇宙」に存在していないのです。

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 さらに、マルクス・ガブリエルは、こう言います。

「宇宙」は、天文学、物理学の「対象領域」であるので、「宇宙」は「世界全体」よりも小さい。

 では「世界全体」とは何か? と疑問を持つ方がいらっしゃるかと思いますが、これは次回に共有したいと思います。

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 あらゆる生命と(その)意味を「宇宙」の中に何らかの地点に位置づけることにすると、人生の意味は、すっかり縮減されて…「自惚れた蟻の幻想」になってしまう…

とマルクス・ガブリエルは言います。なんか凄い表現ですね。

 失恋した人に「失恋なんて宇宙全体からすれば些細なことだよ」という慰めをすることは、「自惚れた蟻の幻想」となりますね...

図

 人生の意味を「宇宙」に見出すことはできず、私たちの人生が些末で無意味なもののように思えることの本当の原因は、全く異なる「対象領域」を私たちが混在していることにあるのです。                

 「宇宙」の中に事務所の在り処を位置づける時、私たちは、全く気づかぬままに、ある「対象領域」から別の領域へ移行しているのです。「宇宙」の中には存在しない「対象」が数多くあるのです。つまり、「宇宙」は思われているよりも小さいのです

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 マルクス・ガブリエルは、こう言います。

 「宇宙」は、世界全体「存在論的な限定領域」のひとつに過ぎない

 さあ、ここでも出ました第1章前半のキーワードの一つである、

存在論的な限定領域

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 「宇宙」は、「世界全体」「存在論的な限定領域」のひとつに過ぎないのです。

 ここで、皆さんはこう☟思っておられると思います。

すべては、ある「対象領域」で起こっている              すべては、ある「対象領域」に存在している

 これは、まあまあ理解できたよ。

では、「世界全体」とは何か

と。

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 これについては、次回共有したいと思います。

 次回は、

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 この世界全体とは何か? について考えます。

 次回の考察には、下記の哲学者、社会学者、科学者も登場します。

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(記載日.2020.6.20)

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