メモが脳を担う

1ヶ月間の急性期の入院で1番嫌な気持ちになったのは、誰も私の事を信じないという事だった。
例えば、私が耳が聞こえにくいと言っても、聴力を司る脳は壊れてないから勘違いだ。
例えば、めまいじゃなくて頭が飛んでいきそうだと言っても知らんぷり。
何度も訴えると、耳鼻科でめまいの検査をした。めまいは起きてないと検査結果を言う耳鼻科医に言った。
「だってめまいじゃないから当たり前。めまいじゃないって言ってるのに、あのERの医者が聞かないから受けただけ」
耳鼻科の先生は笑っていた。
この耳鼻科医は、私の話をよく聞いてくれて、その後も彼女の世話になった。

最も嫌な気持ちになったのは、ERの主治医が、私の言う事には信ぴょう性がないと言った事だった。
君さんは、僕が言った事を覚えてないでしょう?
君さんは、この前こう言った事を忘れているてしょう?
そうじゃない!そんなわけないでしょ!
あんたあの時言っただろ!
そうは思っても、自分を信じるには、その時の私には自信がなかった。
事故に遭う前の私は、記憶力にだけは自信があり、どちらかというと、できる人間だった。
でも、今の自分には自信がない。

そこから私は、恐ろしい量のメモをとるようになった。
メモには、リハビリで使った紙の裏や、なんか紙ちょうだいと看護師に強請った。
医師がやって来た時には、ちょっと待ってくださいと、目の前でメモをした。それを読み返して、これで合ってるかを聞いた。

まずは、看護師の態度が変わった。
主担当だった渡辺さんは、私の態度を観察して、これも書いとけば?と言ってくれたり、私にバインダーを貸してくれた。

退院の時に私は、これをちょうだいと、バインダーを強請った。
私にとってこの子は特別な存在で、一緒に戦った子なんだ。だからどうしても離れるのか嫌だから、転院先に持って行くからちょうだいと。
渡辺さんは、確認してから許可が出たと言ってくれた。
そのバインダーは今でも大切に持っている。

さて、
しばらくしたら、主治医の態度が変わった。
君さん、メモ見せてくれますか?
君さんのメモが1番正しいから。
そう言われて、これからはメモが、なくなった私の脳みその半分を担う事がわかった。


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