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キングの名称にふさわしい重厚な風格を持つ「神奈川県庁本庁舎」(その2)

こんにちは、Akiです。
建築好き通訳ガイドの視点から、建物の魅力について紹介します。

今回は、キングの名称にふさわしい重厚な風格を持つ「神奈川県庁本庁舎」(その2)です。

神奈川県庁本庁舎の見どころ(内部)

「神奈川県庁本庁舎」の内部は、アール・デコ調のシンプルさに、和風をかなり意識したデザインが多く見られます。

多く用いられているのは「宝相華(ほうそうげ)」紋様です。「宝相華」は極楽に咲くといわれる想像上の花で、牡丹や蓮華を組み合わせたようなものと考えられています。正面階段の装飾灯や天井のシャンデリア、階段手摺のグリル(飾り格子)など、いたるところに使用されています。

内装は全体的には、少し後に建てられた東京国立博物館本館(旧帝室博物館 1937年竣工)を、かなり小さくしたような雰囲気を持っています。

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天井の梁には、コンクリート建築ながらも木造建築で見られる持送り(もちおくり)が見られます。
装飾には渦が連続するような、川の流れをベースにした紋様、ギリシア雷紋(らいもん)/メアンダーが使われており、和洋折衷のデザインとなっています。

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壁や床には当時流行した、木綿豆腐の表面のような布目(ぬのめ)タイルが使われ、一枚一枚色合いが異なる、焼き物の表情を見せています。

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また、シャンデリアには神奈川県の木であるイチョウの葉の模様があしらわれています。

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塔屋には上れませんが、屋上は一般に開放されていて、塔を間近に見ることができます。

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塔屋の基部(6階)には、神奈川県庁本庁舎の歴史や建築、内装に関する展示室があり、貴重な資料や図面が公開されています。この展示室の見学もおすすめです。(現在閉鎖中)

また、屋上からは横浜港(象の鼻)やジャック(横浜市開港記念会館)、クイーン(横浜税関本関庁舎)、赤レンガ倉庫など、周辺の景色を楽しむことができます。

神奈川県庁本庁舎にまつわるエピソード

大正15(1926)年に行われた「神奈川県庁本庁舎」の設計競技(コンペ)には、多くの建築家から約400件の応募がありました。その中で、三等一席に土浦亀城(つちうらかめき)の案が当選していることが目を引きます。
土浦亀城はフランク・ロイド・ライトのもとで学び、のちにモダニズム建築家として名を馳せます。

そのコンペ案は日本的伝統を感じさせない、モダンでかなり前衛的なイメージですが、佐野利器をはじめとする審査員に高く評価されたようです。
これが採用されていたら現在とはかなり違ったイメージの建物になっていたかもしれません。

おわりに

港町・横浜の中心地にある「神奈川県庁本庁舎」は、キングの名にふさわしく、重厚な佇まいで横浜のランドマークの一つになっています。
竣工当時は横浜最大の建物で、日本の玄関口であった横浜に入港する外国人船客に、日本の第一印象を与えたことでしょう。
その格調高い内装は、国内外の賓客を迎えるためにデザインされたもので、当時の県庁舎、そして横浜の重要性を推し量ることができます。

そのようなことを考えながら建物の内外を鑑賞すると、現在の様子とは違う、当時の港町・横浜の風景が心に思い描かれるのではないでしょうか。
そういったことも、横浜を訪れる外国人のお客様には興味をそそられる話かもしれません。

神奈川県庁本庁舎 データ

所在地:横浜市中区日本大通1
構造:SRC造5階地下1階・塔屋付
設計者:小尾嘉郎
建設:大林組
竣工:昭和3(1928)年
国指定重要文化財

参考文献

・「神奈川県庁本庁舎のデザインに関する一考察 -フランク・ロイド・ライトへのオマージュ-」佐藤 嘉明
「日本のアール・デコ建築入門」(王国社)吉田鋼市
・「横浜近代建築-関内・関外の歴史的建造物」
 公益社団法人日本建築家協会関東甲信越支部神奈川地域会、まちづくり保存研究会

最後まで読んでいただき、ありがとうございました! これからもご愛読いただけると嬉しいです!