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地震と建築

こんにちは、Akiです。
建築好き通訳ガイドの視点から、建物の魅力について紹介しています。

9月1日は「防災の日」。関東大震災が1923年9月1日に発生したことに由来します。今回は地震と建築について考えてみたいと思います。

通訳ガイドとして外国人のお客様を案内しているとき、地震の話題になることがよくあります。

欧米の方の多くは地震の経験がほとんどなく、来日中に地震に遭遇すると、たとえ小さなものであっても、とても驚かれることがあります。
(米国西海岸やニュージーランドなどの地震多発地域の方は除く)

そのようなときに、外国人の方には、日本は地震が多い国であるということを説明します。日本には全世界の活火山の約7%が集中し、地震の約10%が発生しているといわれています。

そして、そのような国土の性質から、「日本の建物、特に新しいものは、地震の発生を考慮して耐震性能が高いものが多いので、建物の中ではあまり心配しなくても大丈夫です」という説明をしています。

また、建築を紹介するツアーの際は、日本の建物の特徴の一つとして、地震対策について説明するようにしています。

では、建物の地震対策はどのようになっているのか、見ていきましょう。

建物の地震対策

建物のことを調べていると、さまざまな耐震機構が組み込まれていることに驚きます。そのような仕組みを知っておくと、建物の中で地震に遭遇した際にもいたずらに不安を覚えることなく、落ち着いた行動につながるのではないかと思います。

それぞれの建物、特に公共性が高い建物では、利用者の不安を軽減するためにも、建物の持つ耐震機能や性能について、わかりやすい説明表示が求められるのではないでしょうか。

ひとくちに建物の「耐震」といっても、いろいろな方法があります。大きくは「耐震構造」、「免震構造」、「制振構造」の3種類に分類され、それらをまとめて「耐震」と呼ばれることが多いです。
実際は状況に応じて、複合的に採用されているようです。

耐震構造

建物そのものを頑丈にして、地震による建物の倒壊を防ぐ構造です。建物内部に地震のエネルギーが伝わるため、人・物への影響が大きい構造です。

古い建物では耐震性を高めるため、あとから柱の間にコンクリート壁を設けたり、ブレース(筋交い:すじかい)を取り付けたりして、補強されたものを見かけます。

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旧横浜市庁舎(1959年竣工)の耐震補強ブレース

免震構造

建物を地面から切り離した状態にして、いわゆる免震装置を地面と建物の間に置き、地震時に建物の揺れを軽減する構造です。
建物を損壊させないだけでなく、内部の人や物への影響を軽減できます。

例えば、東京・上野の「国立西洋美術館本館」(1951年竣工)では、既存の建物と地面の間に、免震部材を挿入する「免震レトロフィット」という工法を日本で初めて採用しました。
1995年の阪神・淡路大震災で多くの建物や美術品が被害を受け、国立西洋美術館本館も必要とする耐震性能の半分以下しかない状態であったために行われた改修です。

国立西洋美術館本館は、この免震レトロフィットにより、2011年の東日本大震災の揺れを大幅に軽減でき、建物内部の人や美術品を守ることができました。

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国立西洋美術館本館

国立西洋美術館本館の地下では、免震装置の一部を見ることができます

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国立西洋美術館本館の建物(写真上側)と基礎(写真下側)の間に挿入された免震部材(写真中央に見える黒い円筒状の部分)が建物を支える

また、免震装置の導入により、既存の建物には大きく手を加えることなく、文化的価値の高い建物のオリジナリティを保持することができました。
免震レトロフィットは、国立西洋美術館本館が、2016年に近代建築の巨匠ル・コルビュジエの設計による、世界遺産「ル・コルビュジエの建築作品-近代建築運動への顕著な貢献-」のひとつに認定されたことにも貢献しています。

この構造では、建物は地面から独立して、地震時にはそれぞれ異なる動きをするため、建物周囲にその振れ幅を吸収する空間を確保しています。
普段は安全のために、エキスパンションジョイントと呼ばれるパネルでカバーされていますが、地震時に建物が動くとパネルは跳ね上がって、はずれるようになっています。

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国立西洋美術館本館の周囲を囲むパネル(エキスパンションジョイント)
建物(写真右側の丸い柱が見える部分)は敷地から分離されている

国立西洋美術館本館の免震レトロフィットについては、国土交通省ホームページに詳しく紹介されています。

ちなみに、国立西洋美術館の建物内部、および前庭の彫刻作品の台座ひとつひとつにも免震装置が施されていて、美術品を保護しています。

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国立西洋美術館本館(前庭)彫刻作品の台座には免震装置が取り付けられている

※国立西洋美術館は、館内施設整備のため、2022年春(予定)まで全館休館中です。

制振構造

建物の各階や特定の場所に、地震や風による揺れのエネルギーを吸収する、ダンパーと呼ばれる部材を配置する構造です。免震構造と同様、内部の人や物への影響を軽減できます。

事例として、東京・銀座の「伊東屋ビル」の前面に取り付けられた、油など粘性の高い液体を使って揺れを軽減する部材(オイルダンパー)や、「ニコラス・G・ハイエックセンター」のように、フロアそのものが建物の構造から独立して、ダンパーとして機能するものなどがあります。

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前面に取り付けられたブレース型オイルダンパー
銀座・伊東屋ビル

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上層部の床がダンパーとして機能する
ニコラス・G・ハイエックセンター

ニコラス・G・ハイエック センターの耐震機構については、下記に詳しく紹介されています。

そのほか、有名なものに東京スカイツリーの「心柱制振機構」があります。
タワーの中央を縦に貫く筒形の心柱(しんばしら)は、中層部分ではオイルダンパーによって鉄塔部分と接続され、独立して動く構造となっています。これにより、地震や風による揺れを軽減しています。

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東京スカイツリーの心柱制振機構 については、下記に詳しく紹介されています。

避難場所として

近年、建設された高層ビルや大型の公共施設では、緊急時の避難場所としての備えを有するものがあります。

2011年の東日本大震災時に帰宅困難者が多数発生した教訓から、そのような動きが進んだようです。

例えば、東京・銀座の「歌舞伎座タワー」では、災害時には防災拠点となり、地下の木挽町広場に1000人、劇場内に2000人、計3000人の帰宅困難者を収容でき、飲料水や食糧、毛布、非常用簡易トイレなどが備蓄されています。

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その防災拠点としての名称は「木挽町 御助蔵前広小路」(こびきちょう おたすけくらまえひろこうじ)。江戸時代の地名「木挽町」に、飢饉などに備えて穀物を貯蔵した「御助蔵」、そして火事の延焼を食い止めるために設けられた「広小路」に由来し、江戸時代からの防災意識を伝えています。

身近な建物について、地震などの災害対策や、避難場所として利用できるかなど、日ごろからチェックしておくと、万が一のときに役に立つのではないでしょうか。

参考資料

「木挽町 御助蔵前広小路(おたすけくらまえ ひろこうじ)」 歌舞伎座ホームページ

・「構造デザインマップ 東京」総合資格学院 構造デザインマップ編集委員会

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最後まで読んでいただき、ありがとうございました! これからもご愛読いただけると嬉しいです!