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横浜三塔の話

こんにちは、Akiです。
建築好き通訳ガイドの視点から、建物の魅力について紹介します。
(建物の概要のみ英文併記します)

今回は、横浜の顔ともいえる「横浜三塔」(キング・クイーン・ジャック)について話をしてみたいと思います。

横浜三塔とは

横浜港の近くにある特徴的な塔を持つ3つの建築物、「神奈川県庁本庁舎」、「横浜税関本関庁舎」、「横浜市開港記念会館」は、それぞれキング、クイーン、ジャックと呼ばれ、総称して「横浜三塔」の愛称で親しまれています。

この愛称は昭和初期、横浜が日本の国際貿易港として華やかだった時代、横浜港に寄港する外国の船員たちが、それぞれの建物をトランプのカードにたとえて、目印のように名付けたものといわれています。

近年は「三塔を同時に見られるスポット3つをすべて巡ると願いがかなう」という都市伝説があり、「横浜三塔物語」と呼ばれています。

3つのスポットの1つ、日本大通りの神奈川県庁本庁舎の道路を挟んだ真向かいには、その場所を示す金属プレートが置かれています。
そのほかの2つのスポットは、大さん橋赤レンガパークにあります。

There are three buildings with distinctive towers near Yokohama Port: Kanagawa Prefectural Government Main Building, Yokohama Customs Headquarters Building, and Yokohama Port Opening Memorial Hall, known as King, Queen, and Jack, respectively, are called "Yokohama Three Towers" and familiar with the people.

The name "Yokohama Three Towers" derives from a tradition of foreign sailors who visited Yokohama in the early Showa Period (the 1930s). They nicknamed the buildings as landmarks comparing each building to a playing card.

There is an urban legend, "If you visit all three spots where you can see the three towers, your wish will come true," called "Yokohama Three Towers Story."

A metal plate indicating the location is placed directly across the Kanagawa Prefectural Office Main Building on Nihon-Odori boulevard, one of the three spots.

The other two spots are in the Osanbashi Pier and Red Brick Warehouse Park.

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赤レンガパークから見た横浜三塔(ジャックは塔がかろうじて見える)
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横浜三塔が見える位置を示すプレート(横浜赤レンガパーク)
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横浜三塔が見える位置を示すペイント(横浜大さん橋)
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横浜三塔が見える位置を示すプレート(日本大通り)

それぞれの建物についてはすでに紹介記事を書いていますので、この記事では「塔」にフォーカスして説明します。

三塔の特徴

三塔を建築年代順に古いものから見ていきましょう。
時代とともに建築の特徴が変化していく様子が見られます。

ジャックの塔

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「横浜市開港記念会館」(ジャックの塔)

「横浜市開港記念会館」(ジャック)は大正6(1917)年に竣工
三塔の中では最も古く、煉瓦造の建物で塔の高さは36m。国の重要文化財に指定されています。

日本における赤煉瓦建築の最高到達点ともいわれる外観は、白い花崗岩のストライプが入った華やかなつくりになっています。

西洋古典主義の様式も随所に見られ、時計や窓を囲むところやバルコニーの軒下に本格的な装飾があります。四方に突き出した棒状の突起物はガーゴイルと呼ばれる、もともとは雨樋の落とし口で、旗竿受けとして使われたものです。

キングの塔

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「神奈川県庁本庁舎」(キングの塔)

「神奈川県庁本庁舎」(キング)は昭和3(1928)年竣工
三塔の中では2番目に古く、鉄筋コンクリート造の建物で、塔の高さは49m。国の重要文化財に指定されています。

塔のデザインは五重塔をモチーフにしたもので、塔頂部には木造建築のような宝形(ほうぎょう)屋根が乗る和の意匠に、当時流行したアールデコを取り入れた和洋折衷スタイルとなっています。

外壁は煉瓦のように見えますが、筋の入った凹凸のある筋面タイルで覆われています。

塔の各面に、縦方向4本ずつある付け柱や軒下などに、フランク・ロイド・ライト風のテラコッタの装飾が施されています。

クイーンの塔

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「横浜税関本関庁舎」(クイーンの塔)

「横浜税関本関庁舎」(クイーン)は昭和9(1934)年に竣工
三塔の中では最も新しい(といっても昭和初期ですが)鉄筋コンクリート造の建物です。塔の高さはキングをわずか2m上回り、三塔の中では最も高い51mです。横浜市認定歴史的建造物に指定されています。

その外観は西洋風のジャック、和風のキングとはまた違った、イスラム風のドームが特徴です。そして、他の二塔と比べると建物の飾りがかなり少なく、表面がとてもシンプルです。

塔の形はジャックに似ていて、四隅を面取りしたような八角形の立方体ですが、赤煉瓦で装飾の多いジャックと、クリーム色のタイルで装飾の少ないクイーンでは、かなり違った印象になっています。

三塔を上から見ると

三塔を上から見ると、おもしろいことに気がつきます。上空からの写真を見てみましょう。
なんとなく、ジャック(Jack)の建物の形が「J」、クイーン(Queen)の形が「Q」に似ていませんか?
キング(King)の形は漢字の「日」の形をしています。少し無理はありますが、四角い形が「K」のようにも見えてきます。

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横浜三塔・航空写真
出典:国土地理院ウェブサイト(https://www.gsi.go.jp/

意図してこの形になっている訳ではないのですが、これも「横浜三塔物語」がもたらす偶然でしょうか。

おわりに

横浜三塔は、それぞれが徒歩5分以内ほどの近い距離に存在しているので、歩いてみて回ることができます。

三塔を眺める場所としては、「神奈川県庁本庁舎」(キング)の屋上がおすすめです。
キングの塔を間近に見られ、そしてジャックやクイーンを上から、あるいは同じ目線で眺めることができ、また別の角度からそれぞれの美しさを鑑賞することができます。

また港側、山下臨港線プロムナードや象の鼻と呼ばれる防波堤からクイーンやキングを眺めるのも、当時の船員の気分を味わうことができるかもしれません。

かつての日本の玄関口・国際港横浜の顔ともいえる建物を巡り、多くの外国航路の船員や船客が行き交う、往時の姿を想像するのも興味深いことと思います。

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「神奈川県庁本庁舎」(キング)の屋上
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「神奈川県庁本庁舎」(キング)の屋上から見た「横浜税関本関庁舎」(クイーン)
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「神奈川県庁本庁舎」(キング)の屋上から見た「横浜市開港記念会館」(ジャック)

こちらの書籍に横浜三塔の建物がそれぞれ紹介されていますので、本を片手に三塔を巡るのも楽しいのではないでしょうか。

参考文献

・「横浜近代建築-関内・関外の歴史的建造物」
 公益社団法人日本建築家協会関東甲信越支部神奈川地域会、まちづくり保存研究会
「『横濱』YOKOHAMA 2014年春号 Vol.44(ハマの建物巡り)」
 横浜市広報課、神奈川新聞社

最後まで読んでいただき、ありがとうございました! これからもご愛読いただけると嬉しいです!