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クリーム色の外観とイスラム風ドームの塔が優美な「横浜税関本関庁舎」

こんにちは、Akiです。
建築好き通訳ガイドの視点から、建物の魅力について紹介します。
(建物の概要のみ英文併記します)

今回は、クリーム色の外観とイスラム風ドームの塔が優美な「横浜税関本関庁舎(よこはまぜいかんほんかんちょうしゃ)」です。

横浜税関本関庁舎とは

「横浜税関本関庁舎」は、そのイスラム風ドームの塔が横浜三塔の一つ「クイーンの塔」の愛称で知られる、昭和初期の関東大震災からの復興期に建てられた横浜の代表的な建物です。

当時、普及し始めた機能性を重視するモダニズム建築の要素をもちながらも、ロマネスク(ローマ風)、ギリシャ古典主義、イスラム風の意匠など、さまざまなデザインが見られる美しい建物です。

太平洋戦争後はGHQに接収され、マッカーサー元帥の執務室として使われたこともある「横浜市認定歴史的建造物」でもあります。

緑青色のドームの塔やさまざまな装飾、そしてクリーム色の外観が醸し出す柔らかな風合いはクイーンの愛称にふさわしく、その優美な姿で横浜港の汀(みぎわ)に佇んでいます。

Yokohama Customs Headquarters Building, known for its tower with the Islamic style dome nicknamed Queen's Tower, is Yokohama's representative building built in the early Showa Period.

Using modernist architectural ideas that value functional designs, the building features various beautiful motifs such as Romanesque, Greek Classicism, and Islamic styles.

It’s a "Yokohama City Certified Historic Building," requisitioned by GHQ after World War II and used as the office for General of the Army Douglas MacArthur.

Deserving the nickname Queen, the graceful building stands on the shores of Yokohama Port, with the pretty blue-green domed tower, various decorations, and the soft texture created by the cream-colored exterior.

横浜税関本関庁舎の歴史

横浜税関は、安政6(1859)年の横浜開港とともに設けられた「神奈川運上所」(税関・外務・行政などを行う総合的な役所)がもとになっています。
明治5(1872)年、名称が「横浜税関」となり、翌明治6(1873)年に初代庁舎が完成します。アメリカ人の建築技師リチャード・ブリジェンス(Richard Perkins Bridgens)の設計による、木骨石造3階建ての本格的洋風建築でした。

初代庁舎は現在の「神奈川県庁本庁舎」の場所にあり、波止場からはやや離れていて通関業務に不便があったため、日本大通の突き当り、波止場の目の前に2代目庁舎が明治18(1885)年に建設されました。
建物は煉瓦造り2階建てで、中央に六角形の塔屋を持ち、両翼を広げたシンメトリー(左右対称)な明治期らしい洋風建築でしたが、大正12(1923)年の関東大震災で倒壊・焼失してしまいます。

震災後は昭和恐慌などによる財政難のため、横浜税関もバラックのような建物を使用していましたが、当時の大蔵大臣・高橋是清の失業者救済対策によって、庁舎の再建が動き出します。
そして3代目庁舎として、昭和9(1934)年に竣工したのが、現在の「横浜税関本関庁舎」です。
場所は2代目庁舎のあった波止場の前から150mほど北東に離れた場所、明治末から大正期にかけて造成された新港埠頭の入り口付近に移され、帝都復興事業の一環として建設されました。

終戦後、「横浜税関本関庁舎」はGHQに接収され、税関長室はマッカーサー元帥の執務室として使われたこともあります。

昭和28(1953)年に返還された後、再び「横浜税関本関庁舎」として使用されます。
そして竣工から約70年が経過し、老朽化や執務室不足の問題を解消するため、平成13(2001)~15(2003)年に大規模な増築と保存改修工事が行われました。
街路に面した外観はそのまま保存されており、平成13(2001)年には「横浜市認定歴史的建造物」に認定されています。

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横浜税関本関庁舎の見どころ

柔らかなクリーム色の外観がまず目を引きます。そして、緑青色のイスラム寺院風のドームをいただく高い塔。
クイーンの名にふさわしい優美な建物です。

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設計は大蔵省営繕管財局で、国会議事堂の実質的な設計をしたとされる吉武東里(よしたけとうり)と、総理大臣公邸を設計した下元連(しももとむらじ)などが携わっています。

その外観はなかなかユニークで、当時普及し始めた「モダニズム建築」といわれる、鉄・ガラス・コンクリートによる機能を重視したシンプルな建物の要素を導入しつつも、ロマネスク(ローマ風)のドーム型の窓や、植物(シュロ:棕櫚)をモチーフにしたパルメットと呼ばれるギリシャ古典主義的な軒飾り、そしてイスラム風の意匠など、さまざまなデザインが見られる建物です。

明治・大正期の煉瓦建築から昭和のモダニズム建築へ移行する中間期に、当時の日本の時代背景などさまざまな要素が反映されたデザインです。

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構造は関東大震災後の建物らしく、耐震・耐火性能に優れたSRC(Steel Reinforced Concrete)造、つまり鉄骨鉄筋コンクリート造(鉄骨(S)と鉄筋コンクリート(RC)を組み合わせたもの)です。

塔の高さは約51mで、神奈川県庁本庁舎「キングの塔」の49m、横浜市開港記念会館「ジャックの塔」の36mをしのぎ、横浜三塔の中で最も高い建物です。

実は設計当初の計画は高さ47mだったのですが、当時の税関長・金子隆三の「日本の表玄関である国際港横浜の税関庁舎とするなら高くすべき」との意見で神奈川県庁よりも高くされ、完成当時は横浜で最も高い建物でした。
当時、港と向き合うように塔を正面に置いた姿は、入港する船からは横浜のシンボルのような建物に見えたことでしょう。

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外壁にはクリーム色の筋面タイルが使われており、スクラッチタイルのような少し陰影のある表情を見せています。
同種のタイルは「神奈川県庁本庁舎」でも使用されていますが、「横浜税関本関庁舎」のタイルはクリーム色で、柔らかな印象を与えています。

正面玄関は港とは反対方向にあり、車寄せのポーチは半円ドーム型開口部を持つロマネスク風で、休日は人気の写真スポットになっています。
ポーチに掲げられた「横濱税関」の標札は、当時の大蔵大臣高橋是清の揮毫と伝えられています。

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正面玄関が面する海岸通りに沿って、横浜税関の前には軒飾りのモチーフにもなっているシュロの木が植えられ、建物のエキゾチックな雰囲気を引き立てています。
正面玄関の近くには日章旗とともに税関旗が掲揚されています。税関旗は明治25年に制定されたもので、青が海と空、白が陸地、その接点に税関があることを意味しているとのことです。

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海岸通りをみなとみらい方面に向かって少し歩くと、平成の改修で中庭に増築された部分を見ることができます。

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おわりに

現在は休館中ですが、庁舎内にある資料展示室「クイーンのひろば」は誰でも見学可能で、神奈川運上所時代の資料、横浜港の輸出入品目の推移、偽ブランド品や輸出入禁止品目の展示があり、とても勉強になります。
知的好奇心の高い外国人のお客様、特に日本の歴史や経済について関心のある方には、なかなか興味深い場所といえます。

横浜税関本関庁舎 データ

所在地:横浜市中区海岸通1-1
構造:SRC造5階(改修後SRC・S造7階)・塔屋付
設計者:大蔵省営繕管財局工務部(改修:香山・アプル設計JV)
建設:戸田組(改修:戸田・錢高工事JV)
竣工:昭和9(1934)年
横浜市認定歴史的建造物

参考文献

・「横浜近代建築-関内・関外の歴史的建造物」
 公益社団法人日本建築家協会関東甲信越支部神奈川地域会、まちづくり保存研究会

最後まで読んでいただき、ありがとうございました! これからもご愛読いただけると嬉しいです!