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生活コストとプライバシー

一人暮らしよりは複数人同居の方が家賃や公共料金が割安になる。
では手取り年収300万円の2人世帯と手取り年収450万円の4人世帯ではどっちが豊かなのか?
こういうややこしい話も比較できるよう「等価可処分所得」という概念がある。可処分所得を生計が一緒の世帯人数の平方根で割る。

手取り年収300万円の2人世帯:300÷√2=212
手取り年収450万円の4人世帯:500÷√4=225
450万円で4人世帯の方が少し豊かです、という結論になる。教育費や生活コストが高すぎて子どもを持てない、あるいは一人しか産まない、というのは早計で、「産めば何とかなる」というのが実態だろう(少子化や教育費が度を越して高いことは社会問題として解決が必要だが)。低年収で結婚できない、ではなく、低年収だからこそ結婚して生活コストを下げて二人で稼ぐ方が良い。

さて、就職したての若い人に限れば、親元で同居しながら働くのが圧倒的に生活コストが低く済む。
という話を経済評論家も書いている。

欧米でも親と同居の未婚成人が増えているというのは驚きだ。でも、親元なら家事に費やす時間も不要だし、食事や衛生で保てる健康まで考慮すると、親元にいるだけで得られるメリットは非常に大きい。昭和の前半までの日本では、それが多数派だったし、それだけの合理性はある。

それでも核家族や単身世帯が急増した理由は複数あるだろうけれど、一番大きいのは「プライバシー確保の欲求」なのではないだろうか? 夫婦でもそれぞれ自室を持つ、という家族も珍しくない。
 プライバシーは欲しい
 でも生活コストは無駄遣いしたくない
〈合理的な住居と大人数のマネジメントの仕組みをセットで提案してくれる「生活の発明家」の登場に大いに期待したい。〉という上記記事の末尾が全てだ。

プライバシーを保ちたい欲求と同列な話だが、人間は社会的な生き物でもある。ただ、大勢で生活することにうまく折り合いを付けられるタイプと、大勢でいることにストレスを感じるタイプがいる。また、イヌとかニワトリでもそうだが、集団の中でやたら攻撃的になるタイプ、いじめられやすいタイプ、というのも必ずいる。
こればっかりはどうにもならない。攻撃性を教育などで抑制できるのなら戦争や紛争など起きないわけで。
これは家族の中でも同じで、構成人数が増えるほどに複雑化する。動物だったらいじめっ子といじめられっ子は物理的に隔離して解決するが、人も同じだ。

一方で、家というものは一度建ててしまうと増築減築の融通が利きにくい。5人用の家に一人で住むのは非効率的だし、10人で住んだら毎日が合宿状態、経済的にはスケールメリットがあってもプライバシーはゼロだ。そして、家族の人数は意外と短期間で変動する。結婚から子どもが2年おきに3人生まれ、子どもが18歳で家を離れるとすると5人家族なのは12年間だけだ(住まいは賃貸派の大きな根拠でもある)。仮に一人しか産まず、子どもは社会人になっても数年同居だとしても、家族の人数変動がない期間が25年程度に伸びるだけで、家族の人数が家の寿命(50〜70年)よりはるかに短い期間で変動していく本質には変わりがない。子の出生と巣立ちだけでなく、離婚、単身赴任、親を介護する目的で呼び寄せる、親戚や里子を預かる、死去など、同居家族人数の変動要因はいくらでもある。

耐震性や土地の広さの制約はあるが、増築減築を容易にするにはユニット構造が良いのだろう。キッチンとダイニング、風呂とトイレと洗面・洗濯、個室、のキューブ状ユニットを自在に組み換えていくことができれば、家族人数の変化や人間関係に応じて間取りを変更できる。家族ぐるみで付き合いのある複数家族で同居のスケールメリットを実現するのも容易。土地もユニットも国有で、居住者に区分レンタルだと権利関係もややこしくなくて良い。
完全に夢物語だな。しかし、生きるストレスのほぼ全てが対人関係と貧困に集約される以上、効率化された福祉施策として目指しても良さそうな気がする。