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【元駒大記者が語る】天皇杯1回戦 駒澤大学vsSC相模原を100倍楽しむ方法

いよいよ始まる第101回天皇杯。前回大会は新型ウイルスの影響もあり開催形式が変更となったものの、今年は従来の開催スタイルが復活。1回戦からJリーグ勢と社会人・学生チームのマッチアップが展開されることとなった。

中でも注目が集まるのは、東京都代表・駒澤大学vs J2・ SC相模原の1戦だ。コロナ禍における試合開催状況の影響があることも推察できるが、前売りチケットは販売直後に完売。毎年話題に挙がる「ジャイアントキリング」の可能性を秘めた対戦カードの注目度は高い。

みたいなことはどこのメディアでも書ける内容だし、少なくとも天皇杯をウォッチしている人であれば耳にタコだろう。
この記事では、この記事でしか読めない注目ポイントを駒澤大学目線を中心にプレビュー。相模原サポーターの皆様、ご安心を。駒澤大学とは縁の深いあの選手についても紹介していく。

○はじめに、なぜここでしか読めない記事を書くのか

初めて私の記事を読んでいただく方もいると思うので、簡単に自己紹介から。私は今でこそその辺のサラリーマンであるものの、学生時代は駒大で学生新聞「駒大スポーツ」でサッカー部担当をしていた。

今から遡ること3年前、駒大は天皇杯に東京代表として出場。当時の顔ぶれは、今回大会に出場する4年生の選手たちが当時1年生。 SC相模原に所属するMF安藤翼、MF中原輝(モンテディオ山形)らが4年生。3年生にはDF星キョーワァン(松本山雅FC)、FW高橋潤哉(アスルクラロ沼津)が並び立った世代だ。私も当時3年生でこのチームを取材していたので、その視点から“ここでしかかけない記事”を書いていく。

○”進化系駒澤スタイル”を支える最上級生たち

駒大のサッカーは一般的に「キック&ラッシュ」と形容されることが多い。基盤となる運動量、ロングボールと最前線の選手たちのパワーを重要視するサッカーをイメージされるだろう。しかし、ここ数年は「とにかく蹴る」のではなく必要に応じて長短のパスを使い分ける構造的なサッカーを展開。強く、速いチームスタイルを体現している。

天皇杯予選では明治大を撃破したのち、元Jリーガーを多数擁するクリアソン新宿に完勝。決勝ではそれまでシーズン無敗だった法政大に対し、粘り強く食らいついてPK戦を制した。関東大学リーグでもリーグ最多タイの得点数を誇る攻撃力を武器に現在4位。直近の試合ではこちらも無敗だった早大を下して準備は万端ともいえよう。

このスタイルが成立し、好調をキープしている要因を簡単に言えば

・今年の最上級生の豊富な経験値
・経験に裏付けられた個々の技術の高さ
・チームを信じてプレーすることで見える安定感


主に上記の3つだ。

3つの要件に全て当てはまるのが、今年の4年生たちの頼もしさである。
1年時からレギュラーに定着していたキャプテンのDF猪俣主真(4年・三浦学苑高)を中心に、センターラインにはチームの屋台骨を担う顔ぶれが揃う。特に、最前線のFW土信田悠生(4年・高川学園高)FW宮崎鴻(4年・前橋育英高)の破壊力は抜群。土信田は天皇杯予選で3戦連発、宮崎は関東大学リーグで5得点を挙げて得点ランクトップに立つ強力な2トップだ。

他にも、この世代を代表するプロ注目のMF荒木駿太(4年・長崎総科大附高)や、正確なクロスと運動量で攻守で抜群の存在感を誇るDF桧山悠也(4年・市立船橋高)と、注目選手を挙げればキリがない。もう全員注目なので瞬きは許しまへんで。というのが正直な答えだ。

駒大は長らく4バックのシステムを敷いてきたが、今シーズンからは3バックに挑戦。サイドの桧山、MF島崎翔輝(4年・国際学院高)の運動量を生かし、攻守にバランスの取れた布陣で相模原に挑むこととなるだろう。前線へ少ないタッチ数でボールを運んでいくことで、相手の守備陣形が整う前にお片づけを済ませてしまうのが今年の駒大の特徴だ。

○相模原戦予想スタメン

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当日のスタメン予想は上の通り。土壇場でのビッグセーブが光る長身GK松本瞬(4年・前橋育英高)、最終ラインはキャプテンの猪俣と経験豊富な相澤佑哉(3年・熊本ユース)が当確と言っていいだろう。3バックのラスト1枚は新進気鋭のルーキー・DF飯田晃明(1年・丸岡高)か、4年生のDF會澤海斗(4年・水戸商業高)のどちらか。秋田浩一監督らしい采配では4年生を起用する傾向にあるものの、勢いのある飯田に一蓮托生をするパターンもある。現に、3年前の天皇杯でもスタメンに当時ルーキーの荒木を抜擢した。

中盤はMF江﨑巧朗(4年・ルーテル学院高)MF宮嵜龍飛(4年・駒大高)の起用が濃厚。労を惜しまずチームのために体を張る堅実派の宮嵜の側、隙を見てゴール前まで進入してフィニッシュワークにも絡む江﨑のバランスは絶妙である。2ボランチがセカンドボールを拾って攻撃のスイッチを入れれば、両サイドの島崎、桧山の推進力がより活きるはず。ここから厚みのあるアタッキングサッカーを展開したい。

最前線はフリーマンとしてあらゆる場所に顔を出し、チャンスメーク力に長ける荒木がいかに自由なプレーを見せられるかがカギ。ここで「宮崎はスタメン予想では無いのか?」とここまでちゃんと読んでくれた方なら思うだろう。個人的な予想ではあるが宮崎はスーパーサブでの起用になるのではないかと考えられる。代わって先発起用を予想したFW米谷拓海(4年・駒大高)は、開幕当初こそ負傷離脱していたものの復帰後は好調をキープ。相手の体力がある程度削れた後半から宮崎を入れてより重厚感のある攻撃で畳み掛けを狙う可能性は十分ある。ここまでの理想像がうまくハマったときに、フィニッシャー・土信田が真打登場。4年間で研ぎ澄まされたゴールセンスは見るものをアッと言わせる貫禄がある。

控えメンバーにはおそらく、運動量とドリブルが武器のMF土井悠真(4年・広島皆実高)、中盤からの展開力に定評があるMF小島心都(2年・湘南工科大附高)らが名を連ねるとみられる。それぞれが一芸に秀でていて、誰が出てきてもゲームの中心になるポテンシャルを持っている。

贔屓目は無しに、プロのチームとも戦える戦力は十分にそろっている。

○最大の脅威は”東京王者を知る男”安藤翼

一方の相模原に目を向ければ、元日本代表の稲本潤一、藤本淳吾ら錚々たるメンバーが揃う。ただ、この1戦において最も警戒・注目すべきなのはMF安藤翼。長崎総科大附高から駒大に入学。4年次には今年と同じく東京都代表として天皇杯に出場、全国大会(インカレ)でも準優勝を誇った世代の一人だ。天皇杯1回戦では後半途中からピッチに入ると、難攻不落だったザスパクサツ群馬のDFラインをドリブルで切り裂き、わずかなチャンスを演出した。

軽快なドリブルとボディバランスを生かし、DFをいとも簡単に抜き去る華麗なプレーが持ち味の安藤。前所属のヴァンラーレ八戸ではJ3で8得点、前々所属のホンダロックSCでもJFLで16得点と爆発した得点感覚は大学4年次終盤に開花したものだ。安藤の駒大卒業直後の記事は下に貼っておく。

この年はシーズン終盤まで出場機会に恵まれなかったものの、セカンドトップで起用され始めた10月以降は好調を維持。相手DFを背負いながらボールを繋ぐチームプレーに徹する一方で、フィニッシャーとしても相手の脅威に。インカレでは中原輝とともにチームの得点を量産した。安藤は「走れない」「粘れない」と秋田監督から叱責されることもあったが、見事に克服して見せた。

今シーズンの相模原では出場機会に恵まれていないだけに、この1戦はただの”同窓会”という位置付けではないはずだ。サイドでのチャンスメークからゴール前の得点能力まで、幅広い攻撃パターンを見せるテクニシャンは3年の時を経て最大の脅威となるだろう。

○さいごに、試合展望

学生VSプロの試合では、学生が日々コンセプトを持って徹底し続けるプレースタイルに大人たちが”付き合ってあげる”試合運びが散見される。これが小気味良いパスサッカーや積極的なドリブルを猛然としかけてくるのであれば、経験値や個の実力でプロ側がいなすことが容易に想像できるだろう。

ただ、駒大のサッカーに付き合うのは正直やめておいた方がいい。狂おしいほど実直なので、真っ向からぶつかる覚悟と体力を示さなければ間違いなく喰われる。相手に合わせすぎてしまうメンヘラなようでは簡単に崩壊するだろう。現に、ここ数年駒大と対戦してきたJFLチームやJリーグのチームは後半に失速&駒大ペースに飲み込まれるのを何度も見てきた。

逆に、駒大は序盤戦こそ経験値のあるプロ相手に翻弄されるシチュエーションが想定されるが、「その時間帯を耐えれば自分たちのペースが掴める」という手応えも持っているはず。チャンス自体は多く無いだろうが、高い決定力を持つ前線のタレントがチャンスを逃さなければ十分勝機はある。運動量を落とさず、自分たちが追い求める強く・速いサッカーを徹底し続けたい。

話を戻すと3年前。チームは「日本サッカーに風穴を開ける」をスローガンに掲げ、平成最後の東京王者として天皇杯に挑戦。初戦でプロの壁にぶち当たり、当時メンバー入りしていた猪俣、荒木、宮崎ら現4年生はその現実を感じただろう。

時期で言えばロシアW杯の真っ只中で、当時の試合を観た人からは「時代遅れ」「ドカ蹴り」と揶揄される声も見てきた。もちろん世界トップの先進的な戦術に比べれば単調かもしれない。ただ、あのとき日本サッカーに風穴が開いたのは事実。今年はその風を吹かせる年なのではないかと感じている

重ね重ね言うようだが、あれから3年が経ってすっかり成長した4年生たちを中心に、令和の駒大伝説がここから生まれることを筆者は期待している。

愛を込めて叫ぶ、駒大が好きだから。
(会場ではマスクを着用した上で、観戦ルールを守って応援します)

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