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無職と幽霊 4/16

4/16


 実家からアパートの部屋に戻る。
 鍵を差し込み、回して、ドアノブを引いてもまるで自分の部屋という感じがしない。他人の部屋に勝手に入るような気持ち。しかしドアが開いてすぐ、灯油の入っていたポリタンクの赤が目に入ってきて、ああ俺の部屋だと実感が湧いた。昨年も一昨年もずっと定位置の赤だった。帰ってきたというよりも戻ってきてしまったと思った。小さな玄関。またここで暮らしていくのだ。
 荷物を玄関に置いて、台所、洗面所、風呂場の蛇口を捻って水を出す。まず水を出しなさい、と言ったのは亡くなった祖母だった。大学に通うため、初めて一人暮らしをすることになった俺にそう言ったのだった。バダダダダとシンクを水が打つ。少しずつ空気が動き出したような気がする。荷物を持って、台所と洋間の間のドアを開けると誰もいない。元々そうだ。カーテンを開け、ガラス戸を開けた。すぐそこに並んでいたかのようにすぐに風が入ってくる。寝室へ移動して窓を開ける。両手を上げて風を受ける。戻ってきてしまったと思っていた心が戻ってきたに変わっていく。戻ってきた。だからまたここで暮らしていく。気配を感じて居間を見ると幽霊がぼんやりと立っていて、この世に出たり消えたりしていた。
「ただいま」
声をかけると幽霊の姿はくっきりとこの世に現れて、それからこちらを向くと、なんだそこにいたのか、という顔をした。

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