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2021年8月15日(日)・塚本監督トークレポート@ユーロスペース

8月15日戦後76年終戦記念日。恒例の渋谷・ユーロスペースさんで7年目の『野火』。塚本監督の登壇によるティーチインがありました。質問用紙とオンラインフォームの双方でお客様からの質問を受け付けました。

2021年8月15日(日) 15:00の回上映後
会場:ユーロスペース
MC:配給T

毎年終戦記念日に『野火』を上映してくださるメイン館のユーロスペースさん。あいにくの雨模様でしたが多くのお客様にご来場いただきました。コロナ対策でマイクはまわさず、質問用紙とオンラインフォームから会場でリアルタイムに届く質問に塚本監督が答えました。
 
大きな拍手で迎えられた塚本監督。この日はじめてご鑑賞の方が7~8割ほどということでまずは製作のきっかけからお話いただきました。
 
高校生のときに出会われたという大岡昇平さんの原作。手にとったきっかけを伺うと塚本監督は「(そのころから)戦争に関心があったのではないのですが、高校生なので本を読むのが結構好きで、日本の文学を読むのがとても好きだったんです。その中に大岡昇平さんの『野火』があって。ほかにも素晴らしい小説はあったんですけど(『野火』は)非常に映像が頭の中にくっきり浮かんで一番自分が小説の中に実際いるかのような気持ちになるほどに衝撃を受けていろいろと想像を膨らますことができました。とくに戦争に関心があったわけじゃないんですけど、子供の時に『はだしのゲン』みたいな漫画を読んだりして戦争っていうのはいかに恐ろしいかというのを感じていたので全く考えてなかったということではなかったと思います。」と振り返りました。
 
原作や『はだしのゲン』で戦争の恐ろしさを知った当時、「将来また戦争がおきるんじゃないかみたいな心配をするようになることを想像されましたか?」という質問には「そのときはしてなかったですね。けっこうずいぶん最近まで日本はそういうふうにならないというふうにずーっと思っていました。自分の少年青年時代はほぼ昭和で暮らしているんですけども昭和の時代に自分が生きてるときは日本自体が戦争に向かっていく危機感というのは実を言うとなかったんです。『野火』という大岡昇平さんの素晴らしい小説を普遍的なテーマの映画として描くというふうに思っていたのできっといつかは予算も出て大きな映画としてできるだろうってずっと思ってたっていうのが正直なところです。ところがまあ昭和が終わってだんだんだんだんなんか日本が戦争絶対しないって感じでもないなぁっていう雰囲気にどんどんなっていくのを感じていくのが30代の終わりくらいからでしょうか。だんだん心配になっていきました。」と塚本監督。
 
そんな塚本監督は東京新聞のインタビュー (https://www.tokyo-np.co.jp/article/123450)や7年目の上映に際してのコメントなどで言葉を変えながら「戦争を決めるのは戦争に行かない人たちで私たちはみんな戦争に行く側だ」ということを繰り返し伝えています。「前から思ってはいつつもたしかに実感をこめて語ったのはこないだの東京新聞のインタビューですね。」という塚本監督は「自分もこういう映画をつくりながらも知識が豊富にあるわけじゃないんで本を読んだりするんですけど、自分の考えとだいぶちがうなーみたいな本も読むわけです。最近そういう本を読んでて思ったのは今世界の状況が非常に恐ろしいわけだからやっぱり少し準備できるでしょうって考えもこれからどんどん膨らんでいくとは思うんですけど、そういう方々のおっしゃる口調とか意見がみなさんどっちかっていうと自分たちが戦争に行く側じゃなくて、戦争を決めたり司ってる側の方々の口調でおっしゃってるんです。いやー申し訳ないんですけどそうやって結局(戦争に)行くのは僕らであって、ちょっとそこ勘違いしてしゃべってないかなと。多分NHKの大河ドラマとか見てもちろんおもしろいわけですけど、あれはあくまでもご存命の方がいらっしゃらない時代のことをある種昔のこととして描いています。血沸き肉躍る思いをしてよっしゃーって思ってるのはあくまでも戦争とかを司ってる方の気持ちで、どっちかというと自分たちっていうのはそっちの司ってる方としてなんか言ったりするんじゃなくてドラマの中では偉い人が行け―と言ったあとに十把一絡げっていう個性もない人たちとしてワーッと行ってみんなばんばん死んじゃうあっちが僕たちなんですけどねっていうのをどうしても言いたくなっちゃうというのが最近はあります。」と語りました。
 
『野火』に登場する田村や永松も本当に普通の市井の人たちです。とくに永松はまだ大人が庇護しないといけないような年齢で最初の方は泣き虫で甘えん坊なところもあります。塚本監督は「未来ある人が肉体と精神を本当にすごく美しくない異常なかたちで崩壊させて死んでいくことに単純にどう考えてもいいと思えないっていう。ある種(戦争を)執行する側の映画っていうのは自分はちょっとつくれないなという感じで、一般の人の目線で描けたからこそ大岡昇平さんの小説がすごく共感があったんだなというふうに思います。」と述べました。
 
お客様さまから「なぜ庶民の生活ではなく兵隊目線で戦争を描いたんですか?」というご質問には「そもそも大岡昇平さんの小説をとにかく映画化したいと思ったんです。戦争映画監督になろうと思ったわけではないのですが、でも心配事が今そこにあるどうしても大事なことで。指揮する側のある英雄とかそういうのは本当に一部の人で自分たちは十把一絡げの兵隊さんの方になってしまわなければならない。そのことで個人のせっかくの才能がそのことになっちゃうというのはちょっととんでもないなって思います。」と答えました。
 
「殺すつもりがなくてもはずみで殺してしまう方が恐ろしく感じた」というご感想には「映画でヒロイズムってかたちで描くことはやらないのですが、悲劇的な被害者としての目線というのはこれは映画としてはあるべきで素晴らしいと思います。ただ名作も今までずいぶんあるので、自分はやっぱり兵隊さんに行くと加害の方に行かざるを得ないという、加害をしないと自分も殺されちゃうんでやらざるを得ないんですけど、加害者になるっていう恐怖(を描きたいと思いました)。どんなに普通の生活でいい人でも戦争に行って一回箍がはずれちゃうとその場では恐ろしい兵隊さんにならざるを得なくなってしまってものすごい加害者になってしまうようです。その加害にならざるを得ない恐ろしさで、自分の国に帰ってからはPTSDっていう恐ろしいトラウマが始まって、帰ってしばらく働いてるうちはいいんですけど定年みたいにちょっと落ち着いてくると逆にそのトラウマが発生して亡くなるまで夜中大声だして叫んだりとか、そういうことがあるみたいですね。最近また恐ろしい発見で、そこまでトラウマにならない人もいるっていうのがわかってきて。人の恐ろしさがわかってきました。唯一言えるのはその場に近づかない、そういう感じにならないように気をつけるしかないってこと。ちょっとでもその気配を感じたら徹底的に早いうちからつぶしとかないと大変という気がしております。映画自体は大岡昇平さんの原作が素晴らしいと思って近づきたいと思ってつくってるんで政治的なメッセージは映画の中には入れないのですが、どうそれを感じていただけるかっていうふうにつくってます。」と応えました。加えて「私も今の日本は戦争に近づいてると思います。でも戦争に行かされる人間には今から止める行動は何かありますか?戦争に行かさせる人たちになぜ勝てないと思いますか?」というご質問には「最終的に権力を持ってる人たちを選ぶのは自分たちの手にゆだねられてて、選挙で落とせばいいっていうすごくシンプルなことができるかたちになってます。」と選挙に参加することの大切さを訴えました。
 
また二度目の鑑賞の方から「今でも世界中で戦争が起きていてなぜ戦争がなくならないのか私はずっと疑問に思っています。人が人でなくなる恐ろしくて悲しい歴史は決して忘れてはならないと思っています。そのためにも毎年この終戦記念日に上映を続けてほしいです。」というご感想には「そうなんですよね。本当によく考えたら昔からずーっと戦争って繰り返されてるのでおそらく動物としての人間の本能の中にそういうのが入ってるのかなってくらいある種の諦観をもって人ってそうなのかって感じもあるんですけど、ただ第二次世界大戦みたいな世界中が一斉に多くの人を亡くしてしまうものすごいことが20世紀にあったわけですので、自分の希望としてはせっかく知性を持っている人間なんであんな恐ろしいことがあったらふつうは学習するんじゃないかなって思うんですけど。やっぱり実際に戦争に行かれた痛みが体にある人がいらっしゃらなくなるとどうしても人ってそこにずるずるっと戻っていっちゃうのかな。そのずるずるっと戻っていってしまう不安がちょうど戦後70年のときだったんで、もうつくんなきゃって思って。その痛みみたいなものを実際に感じてらっしゃる方がいらっしゃらなくなるんですけど何か表現で伝えていくことができないかなと思っています。」と語りました。
 
また「大岡昇平さんに何か言われたことはありますか?」というご質問が届き「もしご存命だったら怖くてちょっと会えないですね!」 と塚本監督。原作権については「(大岡昇平さんの)娘さんに許可をいただきました。直接お会いしたわけじゃないんですけど文芸家協会を通して。娘さんご本人から留守番電話が入っていて、その留守番電話はいまだに消してないです。」とエピソードを明かしました。
 
最後に塚本監督の撮るミニシアター動画「街の小さな映画館」のご紹介。「最初の年に『野火』と一緒に自分も映画館に行ってごあいさつしました。最初は40館だったんですけど、40館がひとつとして同じところはなくてすごく個性的でおもしろくて。その気持ちがあってコロナのことで大変なミニシアターさんに何かエールを送りたいみたいな気持ちで映画館の魅力を伝えようと動画をつくって配信してます。最初はユーロスペースさんで始まってるのでもしよかったらご覧ください。」と述べました。
 
街の小さな映画館 
第1回 ユーロスペース
 
盛大な拍手に見送られティーチインは終了。時間内にご紹介できなかったたくさんのご質問・ご感想もすべて塚本監督にお届けしました。
 
ユーロスペースさん、ご来場のお客様、ありがとうございました!

ユーロスペース
http://www.eurospace.co.jp/

7年目の『野火』上映記録
8/15(日)終戦記念日特別上映
上映後、塚本監督トーク

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