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『ハロー・ワールド』藤井太洋(著)

未来が体験できる静かで熱い革命小説、誕生。「藤井太洋は諦めない、テクノロジーも、そして未来も」――宮内悠介。「何でも屋」エンジニアの文椎の武器は、ささやかなITテックと仲間と正義感。仲間と開発した、広告ブロッカーアプリ〈ブランケン〉が、突然インドネシア方面で爆発的に売れ出した。東南アジアの島国で何が起こっているのか――。とんでもない情報を掴んでしまった文椎は、第二のエドワード・スノーデンなるか?

アップル、グーグル、ドローン、ビットコイン等々、ハイテク企業や技術を実名で取り上げる、近代IT技術がテーマのSF小説。twitter はディスられてるのによく許可を出したな、と関心してしまう。
短編集だが、主人公は同じで、テーマが異なる。
以下ネタバレ個別感想。

ハロー・ワールド

素人が作った広告ブロックソフトがインドネシアで大ブレイクし、原因を調査すると、政府広告を消せるのがたまたまこのアプリだった、というところから話が始まり、iPhoneの脆弱性、政府による先住民の独立運動組織の盗撮(捜査)、武力行使が明らかになってゆく。

これらの描写がじつにリアルで、ただの広告ブロックアプリの話から、バイオレンスな展開なったときは、主人公同様、息を呑んでしまった。実名のリアリティは凄い。

この事態に対して、主人公のとった行動がスマートで素敵だった。情報を暴露しヒーローになろうとせず、影からの支援に徹する無欲な正義漢という在り方は好感度うなぎのぼり。もし自分なら通報して終わりだ。

しかし、郭瀬というチート級人脈(google勤務)をさらっと得ている主人公はずるいなぁ。

行き先は特異点

GPS の時刻補正機能の2000年問題みたいなバグのお話。これにより、目的地の座標が特異点に書き換わってしまい、自動運転車やドローンが1点に引き寄せられてしまう。

関係ないが、ドローンは操縦中に電波範囲外に出てしまい、操縦できなくなった場合、特定のポイントに帰還する安全機能がある。
そのポイントの初期値は製造工場(中国とか)なので、初めてドローンを飛ばし、電波範囲外に出てしまうと、中国目指して飛び去ってしまう! というアクシデントが頻発したのを思い出して笑った。

五色革命

バンコクで革命デモに巻き込まれる話。
主人公の務める会社が売っているドローンが、デモ組織の一つに徴発されてしまい、アジテーション演説の中継に使われてしまう。さらにその映像をもとに演説者が狙撃されてしまい、ドローンを持ち出した組織も加害者となってしまう。

主人公とヒロイン(?)の会話にもあったが、衣食足りて政治的不自由を知るといのも、貧困脱出の正しいルートではないかな。切ないけど。

そしてまたも、ちゃっかり大金持ち本田女子というチート級人脈も築いている主人公…。

巨象の肩に乗って

twitter が魂を中国に売り渡したので、主人公がマストドンをカスタムして独自に安全な代替機能を提供し、世界の有名人になる話。公安に目を付けられて、日本に住めなくなってしまうが、英語ペラペラだから全然楽しそう。

チート人脈フル活用で、郭瀬がいなければ実現すらできていないし、本田がいなければ、借金抱えただけで終わってた話なだけに、人脈が全て、みたいな印象もうけてしまうが、要となるのは主人公のアイデアなので格好良い。カッコよすぎてもう感情移入できない。本来、こういうのを意識高い人と呼ぶべきだよね、などと感じる。

丁度、TwitRSS.me が遮断されたタイミングだったので、余計面白く感じてしまった。でも twitter より google のほうが中国に近そう(中国用検閲システム開発中)なので、その話も読んでみたい。 CIA VS google みたいな。

本筋とあまり関係ないが、マストドンのインスタンスをまたいでユーザーのフォローや、ユーザーのインスタンス引っ越しなどの記載があるが、本物もできるんだろうか?

また、郭瀬が量子コンピューターで深層学習やっている描写があるが、どういうメリットがあるんだろう?

めぐみの雨が降る

主人公が中国に拉致られ、ビットコイン乗っ取りに加担される話。
主人公が独自電子マネー(自動納税やらベーシックインカムやらインフレ対策やら盛々)で報酬を求めて、それが世界に広がってゆく。

夢あふれるというか、さすがに都合良すぎる。署名破棄しちゃったから、バグがあっても直せないんじゃないの? 納税対応国が増やせないんじゃないの? など、野暮なツッコミをしてしまうが、ビットコインも最初は無価値だったしなぁ、などと感慨にふけってしまう。

また、たとえ換金の保証がなくても、物々交換市場でみなそれを使ってたら、なんの問題もないんだよなぁ、と貨幣の在り方を考えてしまう。楽天経済圏とか。ブロックチェーン関係ないけど。

そもそも作中でも言及されてるように、ブロックチェーンは電力食い過ぎで、普段遣いには向かない。小口決済が出来ない以上、投機商品にしか見えない。電子マネーなら上記のポイントでも良いわけだし。いつか変わる日が来るんだろうか。

その他

藤井太洋を note で検索すると本人ページが出てきてときめいたけど、1年以上更新されてなかった。note に未来はないと思われてるってことかな…。



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