記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

鬼才としか言えない『竜が最後に帰る場所』恒川光太郎(著)

しんと静まった真夜中を旅する怪しい集団。降りしきる雪の中、その集団に加わったぼくは、過去と現在を取り換えることになった――(「夜行(やぎょう)の冬」)。古く湿った漁村から大都市の片隅、古代の南の島へと予想外の展開を繰り広げながら飛翔する五つの物語。日常と幻想の境界を往還し続ける鬼才による最重要短編集。

気持ち悪くも面白い、素敵な短編集。お話ごとに気持ち悪さのギアが上がってゆき、『夜行の冬』でピークを迎えた所に、鸚鵡で落とし、ラスト、爽やかなファンタジーで締めるという流れも完璧。怪作で傑作。

この人の本は『スタープレイヤー』シリーズしか読んだことがなく、ほのぼのした作風なんだな、と思っていたが、まったくの誤解で、心の深淵を書く人であった。カッコつけない自然体の人間(逃げたり殺したり)を描いていて、素直に感心する。

本書で一番好きなのは、『迷走のオルネラ』。DV被害者の話がなんでこんなことに! と凄まじい衝撃を受けたよ。『夜行の冬』と『鸚鵡幻想曲』も一位タイだけど。展開が読めないお話が大好きだな、と改めて感じた。

乙一やヤマシタトモコに似てるような気がする。大好きな作家が増えた。次はどれを読もうか。

風を放つ

バイト先の先輩の彼女から電話がかかってくる話。

人間関係の気持ち悪さを絶妙に描いてる。一番気持ちわるいのは、嫌な思い出として後々まで忘れられない所、たまに思い出して嫌な気分になる所、自分の似たような嫌な思い出が引きずられて思い出される所。

迷走のオルネラ

DV被害にあった少年の成長の物語。

DV加害者への復讐、というか、なんなのこれ、といった超展開に度肝を抜かれた。迷走とは良く言ったものだな(笑) 主人公みたいに病んでるけど可視化されてない人って実際に多そうでめっちゃ怖くなる。

夜行の冬

冬の夜、遠くから錫杖の音とゴソゴソつぶやく声が聞こえる。祖母は決して近づくなというが、興味が勝ってしまい…。

日本昔話的怪談かと思いきや全く違う展開でワクワクが止まらない。ムジナ食堂がほのぼのしつつ、値段が現実的なのも笑ってしまった。そうやって読者を油断させておいて、ラストは落としてくる。躊躇とか呵責がないところがリアルで恐怖。

鸚鵡幻想曲

人間社会の物質になりすます偽装集合体と、それを開放するアサノという人間のお話。

人間界の物質(ポストとか自販機とか色々)の中には、虫や植物、砂などの無機物があつまって偽装しているものがある、というアイデアがかわいい。たぬきが化ける程度の罪のない行為なのだが、アサノという人間は、それを解除する能力をもっており、気づいた以上、解除せずにはおれない、という業の持ち主。

ある日、電子ピアノを買った主人公がアサノに話しかけられ…と続くのだが、中盤で、えっ続くの! と声に出してしまった(笑) これまた超展開でニヤニヤが止まらない。

それにしても、理想、憧れ、願望といった偽装集合体の意思を踏みにじるアサノが無粋だわぁ。ホントニオバカサンデスネエ。

ゴロンド

竜の孵化、巣立ちのお話。

人外転生系のなろう小説を思い出すが、クオリティははるか上。弱肉強食の世界をドライでたくましく行きてゆく。

卵から生まれたばかりの稚魚達に対し、食べ放題だ! という感覚が笑える。そして自分のときは大変だったなぁという回想で噴いた。まぁ動物界では卵や子供はごちそうだよね。

この世界では人間はまだ原始的な生活を営んでいるが、野蛮さ、邪悪さはすでに備わっており、竜にして関わるなと言わしめるのが面白い。そして毛無猿のいない場所を求めて旅をしてゆく。なので、人間界には竜の記録は殆ど残らない。なんともしんみりしたラスト。このお話だけは、もうちょっと長々読みたかった。

#読書感想 #読了 #ネタバレ  

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?