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#海外小説

『ご冗談でしょう、ファインマンさん』R.P.ファインマン(著)大貫昌子(訳)

森博嗣のエッセイにユニークさを盛大にぶちこんだ感じの一冊。ファインマンの明るさがひたすら眩しい。 また、原著タイトルは『好奇心まんまん人間』というだけあって、好奇心が凄まじい。さらに行動力もともなってるので、とりあえずやってみる。性に合えば続けてレベルアップしてゆくので、エピソードに事欠かないのがすごい。前世は絶対ファーストペンギンだよ。 ノーベル賞受賞者だが、難しい学術的お話は皆無。だが、科学や教育のあり方については熱く語っている。応用力ゼロの暗記詰め込み教育を危惧してい

『恐怖を失った男』M・W・クレイヴン(著)山中朝晶(訳)

さすがクレイヴン、すさまじいページタナーっぷりで徹夜してしまった。絶妙な焦らし、引き伸ばし、蘊蓄、とどめの引き、これが短いサイクルで延々繰り返されるので、本当に本が置けなかった。お見事。 お話は、なぜか逃亡中の主人公が捕まるところから始まり(ジョーズの蘊蓄から始まる)、かつての上司から誘拐された娘を探してくれ、と頼まれ、この捜査と、主人公が今に至る経緯、それぞれの情報が小出しにされてゆく。 『ワシントン・ポー』シリーズとちがってティリーがいないが、大丈夫か? と思ってたが

『人類の知らない言葉』エディ・ロブソン(著)茂木健(訳)

主人公が粗野だしクスリもやるし暴力的だしで、かなりイマイチな出だしだが、異星人フィッツが殺されてからは、意外な展開ラッシュでかなり楽しめた。SFファンだとたどり着けない真相がお見事。 お話は、異星人とテレパシーで通訳する主人公が、自分の容疑を晴らすため、ボスの残留思念といっしょに捜査する、という超展開。 かすかな違和感を頼りに、聞き込みを続け、なんとか怪しい人間にたどり着くも、そこからも超展開で大満足。 正直、ミステリとしては、到底捜査と呼べるものでもないし、SFとして

『指名手配』ロバート・クレイス(著)高橋恭美子(訳)

シリーズモノと知らずに読んだが、全く問題なし。構成とキャラが素晴らしいサスペンス。ラストが安易だけど、それ以外は最高なので、全体としては満足。 お話は、最近息子が分不相応な時計を身に着けてるし、多額の現金も部屋で見つけてしまった。犯罪に関与しているのでは? 調べてくれ。というシングルマザーからの依頼を調査する探偵パートと、殺し屋二人組が誰かを探しながら、関係者を殺してゆくパートが交互に描かれる。 探偵パートは、つてを使って、富豪宅への空き巣ですね、と速攻で解決するも、息子

『DV8 台北プライベートアイ2』紀蔚然(著)舩山むつみ(訳)

台湾ミステリの第2弾。あいかわらず本筋より雑談が多いが面白い。冒頭からノラ・ジョーンズの歌詞が転載されてて自由で笑える。 主人公は引き続き呉誠。前回の事件のせいで引っ越しを余儀なくされるが、新天地で良い感じのバー”DV8”の常連になり、友人にも恵まれ、仕事も舞い込んでくる。そしてロマンスまで! お話は、とある女性に依頼された人探し。パニック障害の原因は子供の頃、幼馴染が事件に巻き込まれ、引っ越しして会えなくなったからかも。再開したいので探してくれ、というのがメイン。20年

『夜の人々』エドワード・アンダースン(著)矢口誠(訳)

最初期のノワールモノの傑作。すでに完成形だよ。 積み重なる悪事、愛の逃避行、仲間と恋人の板挟み等々、逃げ切れるのか、堅気になれるのか、最後までヒヤヒヤの連続。そしてせつなすぎるラスト。最後の最後に明かされる真相に脱帽。言う事無し。 お話は脱走シーンから始まり、主人公と仲間二人が、仲間の親戚をたよりに逃亡してゆく。しかしこいつら、大人しく潜伏などせず、金が無いからと銀行を襲うような悪人。殺人も辞さない。 その逃避行中、主人公は仲間の親戚である少女キーチーとであい、惹かれてゆく

『ポケミス読者よ信ずるなかれ』ダン・マクドーマン(著)田村義進 (訳)

監督の解説副音声つきで映画をみてるようなメタミステリ。本筋をぶったぎって解説や蘊蓄が始まるので、作品にまったく集中できないが、途中から、本筋はこちらだと気づく。ミステリというより、ミステリエッセイだった。 解説でも「振り切れたバカミス」と言われており笑う。 ミステリパートは、会員制リゾートクラブに関する依頼を受けた探偵が、同級生をたより、週末をそのリゾートクラブで過ごし調査に励むも、湖で死体が発見され…。というベタなもの。探偵の調査で情報がちょっとずつそろっていく、かなりベ

『ナッシング・マン』キャサリン・R・ハワード(著)髙山祥子(訳)

一家惨殺事件の唯一の生き残りが事件について本を書き、未だ捕まっていない犯人が読む、という設定が素晴らしい。そして、本の内容が微妙に真実と違い、犯人が疑問を持ち始めるというのがさらに良い。 が、本作はそれをまったく活かしきれてない。ラストは、え? そんだけ? という感じ。本と真実のギャップでなんかできたでしょ! とやきもき。ギミック不発のまま終わった感があり、かなりもったいない。 ナッシングマンのキャラがしょぼいのも辛い。この本のテーマの一つが、シリアルキラーは特別な人間じゃ

『両京十五日』馬伯庸(著)齊藤正高(訳)泊功(訳)

エンタメ超傑作!! 漢詩の世界で大冒険がめちゃくちゃ楽しい。さらに、バカがいないので展開が早く、ピンチに次ぐピンチで息もつかせない。それでいてギャグも多く、結構不意打ちで吹いた。なのにラストは渋い余韻が素晴らしい。万人におすすめ! お話は明初期、北京から南京への遷都のため、太子である朱瞻基が南京へ赴任するも、いきなり爆破テロ。呉定縁に救われるも下手人扱いされ…と出だしから最高。(ここまで試し読み可能) 味方はおらず、誰が敵かもわからぬ状況で、呉定縁、科挙に受かるも頭が硬すぎ

『悪なき殺人』コラン・ニエル(著)田中裕子(訳)

フランス小説らしいなかなかのページタナー。新展開につぐ新展開でなかなか読ませる。しかし、表紙からシリアスな話を想像してただけに、阿呆な展開とオチに唖然ですよ。これは大真面目なのか、恋愛体質フランス人を揶揄するギャグなのか判別できないよ。 お話は、冬のフランス山奥で、一人の女性が行方不明になり、捜索隊が何週間も探すが一向に見つからず…というもの。5人それぞれ個別のドラマから、1つの真実が浮き上がるという構成。 1人目はソーシャルワーカー。ほぼ不倫のお話で読むのをやめようかと

『象られた闇』ローラ・パーセル(著)国弘喜美代(訳)

雰囲気がべらぼうに良い! ”血管のなかの血栓さながら人の流れを妨げている”とか、”木々が溜めこんでいた金や銅を男たちの頭上に降りまき”等々、冒頭から延々と比喩が美しく、文章を読むだけで幸福だった。 ジャンル的には、ゴシックオカルトミステリ? 疑問系なのは、一切捜査しないから(笑)  捜査はしないが、降霊会で被害者を降ろし、犯人を聞き出そうとはする。この降霊会描写が圧巻。めちゃくちゃ引き込まれた。主観的描写だからアンフェア気味ではあるけど、彼女らがどう感じたのかが知れて面白い

『7月のダークライド』ルー・バーニー(著)加賀山卓朗(訳)

ルー・バーニーどうしちゃったの!? というほどつまらない。『11月に去りし者』が大好きなので全部読むと決めたけど、その決意がゆらいでるよ。これなら『ガットショット・ストレート』の続編を訳してほしかった。 大麻づけの青年が根性焼きされた子供を目撃、気まぐれな善意から福祉施設に通報するも、忙しくて全然とりあってもらえない。子供が頭から離れない主人公は自分で救うことを決意するが…。というお話。 軽薄なハードボイルドというか、ただの力なき正義のお話で、ストーリーは平凡だし、各キャ

『言葉人形』ジェフリー・フォード(著)谷垣暁美(訳)

『最後の三角形』が素晴らしかったので、こちらも読む。 こちらは幻想小説選りすぐりとの事だが、オチで現実に戻されたり、ホラーなのがちらほら混じってる。ファンタジーが読みたいんだよ! と、ちょっと残念。 ただ、後半はピュアな幻想小説が続く。『レパラータ宮殿にて』は寓話としても完成されてて大好き。 トータルだと、『最後の三角形』のほうが好きかな。 以下好きなのピックアップ。 〈熱帯〉の一夜老人宅に無防備にしまわれていた黄金のチェスセットを盗んだ、とバーテンダーが告白するお話。

『星、はるか遠く: 宇宙探査SF傑作選』中村融(編)

最初と最後の2編が断トツに良い。これだけでも読む価値あり。 他も、ギャグ、シリアス、スペオペ、等々、バラエティ豊かで読み応え抜群。切ない系多めかな。 宇宙探査SFとあるが、探査は冒頭1作だけでは? と、誰もが抱く疑問に訳者あとがきで釈明があって笑った。入植モノといったほうが適切な気がする。ほぼほぼ失敗だけど。 以下好きなやつ。 故郷への長い道 / フレッド・セイバーヘーゲン 著資源惑星を探してる夫婦の船乗りが、冥王星付近で巨大な針のような建造物を発見。重力アンカーで固定さ