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2023年2月の記事一覧

『SFマンガ傑作選』福井健太(編)

傑作選というより、名作選。大御所が前提だし短編だしでカタルシス薄め。 巻末のSFマンガ史が圧巻だったので、余計に真の傑作選が読んでみたかった。挙げられたやつ、近代のはほぼ読んでたけど、昔のは全然読めてない。 以下好きなのピックアップ。 松本零士「ヤマビコ13号」 先日亡くなった松本零士の短編は、人生の全ログを残し裁判に使用する腕時計型装置のお話。被害を受けて裁判を起こすも、自分の些細な罪が暴かれ…。 技術は進んでるのに人間が貧困で苦しんでるのは他作と同様で面白

『ギャンブラーが多すぎる』ドナルド・E・ウェストレイク(著)木村二郎 (訳)

くすくす笑えるドタバタ・ミステリィ。主人口がひたすら勘違いされ、巻き込まれまくる(笑) 主人口がノミ屋に勝った金を受取りにゆくと、そのノミ屋が殺されていた。警察とギャングに事件に関係してると思われ追いかけられるはめに。 これぞ巻き込まれ系という感じで只々楽しい。勘違いを釈明しようにも、全然話を聞いてもらえないし、たまに釈明出来ても信じてもらえない。その事態に主人公がキレてゆく(笑) 序盤からの勘違いラッシュも笑えたが、終盤の謎解きパートが一番酷い。謎は解けてないまま乗り

『日本SFの臨界点[恋愛篇]&[怪奇篇]』伴名練(編)

表紙はキャッチーだが、内容はいぶし銀。 恋愛篇、怪奇篇と銘打たれてるが、あまり関係なし。埋もれた作品を世に出すのが第一目的らしいので、そこそこSF読んでる人向けに感じるが、恋愛篇がわりとベタで、怪奇篇が変化球かな。怪奇篇のほうが好き。 以下好きなのピックアップ。 恋愛篇生まれくる者、死にゆく者 / 和田毅 著 人が無から生まれ、無へと還ってゆく世界で、死にかけのおじいちゃんと、生まれかけの孫が出会える確率のお話。 世界観が素敵。死にかけるとだんだん見えなくなり、存在を

『ミン・スーが犯した幾千もの罪』トム・リン(著)鈴木美朋(訳)

西部劇でファンタジーでロードムービー。意外な組み合わせが不思議な読み心地。苦味と希望の混じったラストも素晴らしい。佳作。 お話はミン・スーが復讐してゆくだけなのだが、その道中、見世物一座の用心棒として一緒に旅する事で一服の癒やしとなっている。 ハードな旅、銃撃戦、一座との邂逅が平行して進み、ミンの出生や復讐の理由が明らかになってゆく。 面白いのが、この一座、手品やフリークスではなく、本当の奇跡を身に宿す者たちであること。観客同様、読んでて「え?」ってなる。普通の小説だと、