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2021年2月の記事一覧

鬼才としか言えない『竜が最後に帰る場所』恒川光太郎(著)

しんと静まった真夜中を旅する怪しい集団。降りしきる雪の中、その集団に加わったぼくは、過去と現在を取り換えることになった――(「夜行(やぎょう)の冬」)。古く湿った漁村から大都市の片隅、古代の南の島へと予想外の展開を繰り広げながら飛翔する五つの物語。日常と幻想の境界を往還し続ける鬼才による最重要短編集。 気持ち悪くも面白い、素敵な短編集。お話ごとに気持ち悪さのギアが上がってゆき、『夜行の冬』でピークを迎えた所に、鸚鵡で落とし、ラスト、爽やかなファンタジーで締めるという流れも完

『アメリカン・ブッダ』柴田勝家(著)

もしも荒廃した近未来アメリカに、 仏陀を信仰するインディアンが現れたら――未曾有の災害と暴動により大混乱に陥り、国民の多くが現実世界を見放したアメリカ大陸で、仏教を信じ続けたインディアンの青年が救済を語る書下ろし表題作のほか、VR世界で一生を過ごす少数民族を描く星雲賞受賞作「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」、『ヒト夜の永い夢』前日譚にして南方熊楠の英国留学物語の「一八九七年:龍動幕の内」など、民俗学とSFを鮮やかに交えた6篇を収録する、柴田勝家初の短篇集。解説:池澤春菜

超傑作!『リプレイ』ケン・グリムウッド(著) 杉山高之(訳)

ニューヨークの小さなラジオ局で、ニュース・ディレクターをしているジェフは、43歳の秋に死亡した。気がつくと学生寮にいて、どうやら18歳に逆戻りしたらしい。記憶と知識は元のまま、身体は25年前のもの。株も競馬も思いのまま、彼は大金持に。が、再び同日同時刻に死亡。気がつくと、また――。人生をもう一度やり直せたら、という窮極の夢を実現した男の、意外な、意外な人生。 1986年の作品だが、いまだに一線級の超傑作。ループ物でこれを超えるのは容易ではない、完成された一品。ラストが本当に

『裏世界ピクニック5 八尺様リバイバル』宮澤伊織(著)

裏世界での夜を越すという目標を達成して、さらに深部への探検が可能になった空魚と鳥子。日常と非日常を往復しながら、ふたりの怪異まみれの日々は続いていく。新年早々に開催され、空魚の記憶から消え去った混沌の新宿ラブホ女子会。明らかになる鳥子の大学生活と知られざる内面。裏世界の館で暮らす謎の老婦人。そして、行方不明の男・肋戸の痕跡を追うふたりの前に再び出現する八尺様――人気爆発のシリーズ第5巻! 今回も緩めでホラー成分少なめ。とはいえ、百合からレズへの移行、新キャラ続々登場など色々

『ストレンヂア 無皇刃譚』安藤真裕(監督)

ボンズ(BONES)が世の中に送り出す、史上最強・最高のオリジナル時代劇アニメーションが、再び動き出す! 長瀬智也、声優初挑戦! 斬って、斬って、斬りまくる、息をもつかせぬ日本刀アクション! ! 『鬼憑き十兵衛』を読んだあとチャンバラが見たくなり久々に鑑賞。隠れた超傑作。私的にボンズのアクションアニメといえば『DARKER THAN BLACK -黒の契約者-』なのだが、それと双璧をなす格好良さ。あちらはSF能力バトルだが、こちらはアクション満載チャンバラ。人が死にまくるし

『デルトラ・クエストI (3) ネズミの街』エミリー・ロッダ(著)岡田好恵(訳)

3つ目の宝石を求めて旅をつづけるリーフ、バルダ、ジャスミン。迷いこんだチュルナイという街で、3人は、赤い服の男たちにとらえられてしまった。その街には、ある秘密があったのだ…。 今回は変化球。ネズミの街を目指していると、旅行用品なんでもあります、という店を見かけ立ち寄り、そこで三本足の動物を手に入れ旅を続けるが、それが暴走しチュルナイという街にたどり着いてしまい…。と、トラブルで本筋とは関係ないサブクエストに突入する。そこで王城にふんだんに食料が届く理由が明らかになる。他にも

『デルトラ・クエストI (2) 嘆きの湖』エミリー・ロッダ(著)岡田好恵(訳)

リーフは、デルトラ城の元衛兵バルダと、森で出会った少女ジャスミンとともに旅をつづける。そのゆく手に立ちはだかるのは魔女テーガン。「嘆きの湖」で3人が出会うのは…。 今回も速攻で死にかける。あまりにテンポが良いのでダイジェストを読んでる気分。ピンチの連続は心臓にも悪い。もうちょいタメとかヒキとか演出が欲しい。 嘆きの湖を目指す一行だが、そこは魔女のテリトリー。呪いの門番や、魔女の子どもたちが立ちふさがる。さらに嘆きの湖にはソルディーンと呼ばれる巨大魚が宝石をまもる上、魔女ま

『鬼憑き十兵衛』大塚已愛(著)

選考会の席で、満場一致で選ばれた、新世代の開幕を告げるファンタジー伝奇。父の仇を討つために賭した命なのに――。燃え尽きようとする十兵衛の魂を黄泉から引き戻したのは、この世のものとは思えぬほどに美しい僧の姿をした「鬼」だった。鬼もまた、十兵衛により息を吹き返し、お礼にと十兵衛に取り憑き、復讐の手助けをしようと申し出る。仇討ちに燃える若武者と、美貌の鬼との奇妙な道行きやいかに。 「日本ファンタジーノベル大賞2018」「第4回角川文庫キャラクター小説大賞」W受賞でのデビュー。 わ