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2020年7月の記事一覧

『ガットショット・ストレート』ルー・バーニー(著)細美遙子(訳)

愛すべき悪人たちの騙し合い・・・ 刑期を終え出所したばかりの運び屋<シェイク>。 コケティッシュな嘘つき女<ジーナ>を救ったばかりに 大金と幻の遺物をめぐる奔走劇にまきこまれる。 追って追われて、最後に笑うのは誰なのか?―― ヒロインが嘘と裏切りの連続で笑える。完全に峰不二子。テンポ、会話、オチ、全て軽妙で、読んでいて笑顔が絶えない。素晴らしいエンタメ・クライム・ノヴェル。 出所したての主人公は真人間になろうと決意するも、しがらみから、ギャングのボスからギャングのボスへ車

『ソラリス』スタニスワフ・レム(著)沼野充義(訳)

惑星ソラリス――この静謐なる星は意思を持った海に表面を覆われていた。惑星の謎の解明のため、ステーションに派遣された心理学者ケルヴィンは変わり果てた研究員たちを目にする。彼らにいったい何が? ケルヴィンもまたソラリスの海がもたらす現象に囚われていく……。人間以外の理性との接触は可能か?――知の巨人が世界に問いかけたSF史上に残る名作。レム研究の第一人者によるポーランド語原典からの完全翻訳版 未知との遭遇モノの傑作! 知的生命体とのファーストコンタクトを舐めるなよ、というレムの

『荒潮』陳楸帆(著)中原尚哉(訳)

彼女の名前は米米(ミーミー)。中国南東部のシリコン島で日々、電子ゴミから資源を探し出して暮らす最下層市民“ゴミ人”だ。彼女たちは昼夜なく厳しい労働を強いられ、稼ぎは何代にもわたって島を支配してきた羅、陳、林の有力御三家に吸い取られていた。しかし、テラグリーン・リサイクリング社の経営コンサルタント、ブランドルと陳開宗が島を訪れてからすべては変わり始める。テラグリーン社の環境再生計画に翻弄され、利権を奪い合う御三家たち。いっぽう、米米は開宗と恋に落ちるが、想像し得ない未来が彼女を

『午后のあくび 第2巻』コマツシンヤ(作)

この街の日常は、当たり前に奇跡。 泡のように生まれては消える、はじめてなのにどこか懐かしい景色。 高原で小さな雲を売るおじさんのお店、 リスが髪の毛をカットしてくれる美容室、 夏の日の夜、コップの中ではじける小さな花火…… ひび野あわこさんが暮らす街は、いつもちょっとだけ不思議だ。 コマツシンヤのおくる、地上から5cmだけ宙に浮いた、非日常な日常系ショートマンガ! 引き続きふんわりとしたファンタジー世界が素敵で幸福なのだが、1巻で出てきたゲストキャラやアイテムが再登場すると

『八月の暑さのなかで――ホラー短編集』金原瑞人(訳)

英米のホラー小説に精通した訳者自らが編んだアンソロジー。エドガー・アラン・ポー、サキ、ロード・ダンセイニ、フレドリック・ブラウン、そしてロアルド・ダールなど、短編の名手たちによる怖くてクールな13編。 ホラー短編オムニバス。いろんな作家のちょっと不気味なお話が楽しめる。アウターゾーンとか、世にも奇妙な物語で育った世代にとっては、もはや物足りないレベルだが、未だ輝く作品も多い。レノックス・ロビンスンの『顔』が美しさ、不気味さで抜きん出ていた。 以下、好きなやつだけピックアッ

『百万光年のちょっと先』古橋秀之(著)

貴方が眠りにつくまでに「彼女」が語り聞かせてくれるのは、5分間で味わえる「すこしふしぎ」な驚き、恐怖、感動のストーリー。古橋秀之が紡ぐ珠玉の物語を、矢吹健太朗の美麗イラストが彩る、奇蹟のショートショート集。 「百万光年のちょっと先、今よりほんの3秒むかし。」で始まるSFおとぎ話。ひねりが効いてて星新一より好き! ハッピーエンドでないものも多く、昔話同様ちょっと棘を残す余韻が素敵。 お話は子供向けおとぎ話だけど、舞台がSF。とはいえファンタジーSFなので、気軽に読める。ただ

『おれの眼を撃った男は死んだ』シャネル・ベンツ(著)高山真由美(訳)

南北戦争で親を亡くした少女は自分を虐待するおじ一家から兄の手によって助け出されたが、さらに残酷な外の世界を知る(「よくある西部の物語」)。難民キャンプに児童養護施設を建てようとしていた女性は、大虐殺の混乱のなか傭兵に誘拐されて消えた(「外交官の娘」)。裸足のまま列車に乗りこんだ少年は、服役中の父親と暴力をふるう継父の間でもがいている(「ジェイムズ三世」)。西部劇の舞台のような町、黒人奴隷が鞭打たれるプランテーション、現代アメリカの壊れた家庭、砂に埋もれたユートピア、16世紀イ

『2001年宇宙の旅』アーサー・C.クラーク(著)伊藤典夫(訳)

三百万年前の地球に出現した謎の石板は、原始的な道具も知らないヒトザルたちに何をしたのか。月面で発見された同種の石板は、人類に何を意味しているのか。宇宙船ディスカバリー号のコンピュータ、ハル9000はなぜ人類に反乱を起こしたのか。唯一の生存者ボーマンはどこに行き、何に出会い、何に変貌したのか…。発表以来25年、SF史上に燦然と輝く記念碑的傑作に、作者クラークの新版序文を付した完全決定版ついに登場。 正直、60年前のSFなので、あまり期待せずに読んだのだが、普通にめちゃくちゃ面

『銀色の国』逸木裕(著)

足の甲を切る自傷行為と「もうだめ。死にたい」というツイートを繰り返す浪人生のくるみ。ある日、突然フォロワーのひとりからDMが届き、ネット上の自助グループ“銀色の国”に導かれる。一方、自殺対策NPO法人の代表として日々奔走する晃佑のもとには、友人が自殺したという悲報が届いた。元相談者でもあったその友人が今になって死を選んだ原因を調べるうちに、晃佑はある恐ろしい計画の一端に辿り着く…!!横溝正史ミステリ大賞受賞作家が放つ、現代の闇「自殺」に迫る鮮烈なミステリ!! 自殺に迫るとあ