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どんな極悪人でも死ねばよいと思うか?

「おいN,とっとと殺しちまえよ」

Sは言った。目の前には手を縛られ地べたに座っている人間がいる。
Nは銃を持っていた。しかし撃たない。

「おい、N。なに躊躇してんだよ」
「なぁS、やっぱやめないか?」
「……!何言ってんだよ!こいつは十年前、お前の目の前でお前の両親を殺したんだろ⁉それだけじゃない。こいつはお前の一族を根絶やしにした。N、お前を除いてな。もうお前と血のつながった人間はこの世に一人もいない。
それにN、お前だってこれまでに何度も何度もこいつに殺されかけたじゃないか!ついさっきだってこいつはお前のことを殺そうとしてたじゃないか!
もういいだろ……もう終わりにしよう。こいつは裁かれなくてはならない。そうでなければお前の家族は安心できないだろう」
「もう、いないけどね」
「そんなことわかってるよ。けどお前の中にはいるだろ」

「けどさ、S。ここでこいつを殺してどうなるんだ?」
「まだそんなこと言ってんのか。そのことについては何度も話しただろ。こいつはお前の家族を皆殺しにした。そしてお前を殺そうとしている。今までお前が殺されなかったのは運が良かったからだ。次は本当に死ぬかもしれない。お前がここでこいつを殺さない限り、悪夢は終わらないんだぞ?一生お前はこいつに追われ続ける。だからこいつを殺す」

「Sは変わったね。最初は僕のかたき討ちのためにこいつを殺すって言ってたのに」
「?ああ……さっきお前の家族が安心できないのどうだとか言ったが、別に天から見守ってるだとかそんなおとぎ話みたいなたいことは今じゃ考えちゃいねぇよ。単にお前の記憶上の家族を言っただけだ。そうさ。俺も変わったんだよ。けど、ここまでお前を守り続けた。お前と一緒にこいつと闘い続けた。N、もういいだろ。はやく撃ってくれ」

長い沈黙が流れる。

「…………ごめん、やっぱ撃てない…………」
「貸せ。俺が撃つ」
SはNから銃を取り上げようとした。
「ちょっと待ってよ!やっぱ間違ってるよこんなの!」
Nは銃を手から離さない。
「間違ってるとか間違ってないとかの問題じゃねぇだろ!こいつを放っておいたらまたこいつはお前を殺しに来るんだぞ⁉何度でも何度でも!お前大丈夫か?イカれてんのか?俺はお前のこと放っとけねぇんだよ!だから殺す!今ここで!俺が殺せば問題ないだろ!はやく銃を渡せ!」

「それこそ誰が殺すかの問題じゃないんだよ!この人を殺しても僕たちは…………」

二人が銃をめぐって取っ組み合いをしていると二人の前にいた人間は何処かに隠しておいた小さなナイフで縄を解いており、Nの心臓めがけてナイフで突き刺そうとした。

Sは即座にそれを察知したが銃はまだNの手にあったため必然的にNを庇う形になった。
「…………S!」
Nは庇ってくれたS越しに殺戮者の顔を目にした。…………嗤っていた。
Nは咄嗟に殺戮者の顔めがけて銃を撃った。憎しみによるものではなかった。多大な恐怖の念によるものだった。
銃弾は殺戮者の脳を貫通し、血しぶきが上がった。

「ハア、ハア、ハア、ハア…………!」
Nは過呼吸に陥った。
刺されたSは地べたに倒れこみ、自身から滲み出る血をひどく落ち着きをもって見ていた。そしてNに言った。
「それでいい、N。やっとお前は自由になれたな…………」

数時間後。
Nは二人を埋葬していた。埋葬した地に深い意味はない。加えてNはここが何処なのかわかっていなかった。
その後、Nはしゃがみ込み独り呟いた。

「終わりにするよ、S」

銃声が響いた。


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