見出し画像

幻影③

第三章 本当は

後日、約束の時間
 昨日と同じように僕は眞白を待っていた。なんとしてでも眞白が罪を犯すのを食い止めたい。
 でも、僕に何ができるんだろう?眞白に対して僕は何をしてあげられるのだろうか?
「玄弥くん。今日も来てくれたんだ」
背後から声が聞こえた。
「眞白!来てくれたんだ。ありがと。」
よかった。ひとまず安心する。
「まぁ、この時間帯は暇だからね。昨日はちょっと用事があったけど。」
この先彼女を非行に走らせないためには、この方法が最適解な気がする。
「あのさ、眞白。聴いてほしいことがあるんだ」
「どうしたの?」
「サングラスを付けてるって言ったじゃん?その理由なんだけど、『色』が見えるからなんだ」
「色?」
「うん。人からにじみ出るオーロラみたいなものなんだけど、その…眞白の色はさ」
「なに?何色なの?」
「黒、なんだよね…」
「……それって悪いことなの?」
「うーん。今まで黒い色の人を見たのは一回だけ。その人は…ひどい罪を犯した。」
その後、長い沈黙が流れた。
——かとおもうと、眞白が突然吹き出した。
「……アッハハハハハ‼私がそんなことすると思う?できるわけないでしょ。そんなことする予定も当然ないよ。てゆうか、玄弥君私のことそんな風に見てたの?」
眞白は笑い、涙ながらに訊く。眞白の様子から嘘をついているようには思えなかった。
「ちっ!違うよ!でも眞白には絶対そんなことしてほしくないから。いや、僕もそう思うよ。思うけど…」
「思うけど?」
「黒色が消えないから…」
「とにかく、大丈夫だよ。」
「そっか。それならいいんだけど…」
今は眞白を信じるしかない…
「ねぇ、この後時間ある?ご飯食べに行かない?今日は暇なんだ」
「いいけど…ほんとに僕でいいの?誘われたのもはじめてだよ」
「いいに決まってるじゃん!行こ!」
 そのあと僕たちはとても楽しい時間を過ごした。僕にとってその時間は後にも先にもかけがえのない時間だった。また会う約束をしようとした。けれども眞白はアルバイトで忙しいらしく、この前の「用事」もその関係だったらしい。けど、連絡先だけは交換した。
 その日のうちに「黒色」が消えることはなかった……
 
 今日も海辺に行った。眞白に会うためだ。けど眞白は来なかった。メールを送ったがしばらく返事がない。大丈夫かな…眞白…
 
 それから、何週間か経った。眞白は今、どうしているんだろう。そんなことを考えながら今日も海辺に行く。
 段々涼しくなってきた。波の音が本当に心地いい。かもめの鳴き声も遠くで聞こえる。
 眞白は今日も来ないのだろうか。不安と期待を抱きながら海を眺めていると唐突にスマホの着信音が鳴った。
—————眞白からだ……!
 そのメールを読むと僕は血の気が引いていくのを感じた。
 僕はいてもたっても居られなくなり、眞白に電話をかけた。何度も何度も。けれども出てくれなかった。

—————この数日後、眞白が自殺したことがわかった。

 
[メール]
玄弥君へ。しばらく会ってないけど、元気かな?君は私の最後の友達だから、悔いのないよう伝えたいことを伝えるね。
アルバイトって言ってたけど、ほんとは水商売やってたんだよね。SNSで四、五十歳の大人と知り合って、実際に会って、一回1万5千円とかもらってた。
なにやってんだろ……私って思って疲れたときに行く海辺に行ったら……玄弥君がいた。
どうせ死ぬならもう恥とか言ってらんないなって思って、思い切って話しかけた。玄弥君は優しくて、ありがとうなんて言われたことも久しぶりだったなぁ……。あとごめんなさい。玄弥君には嘘ついちゃったけど、お母さんの仕送りなんてないの。私の両親は幼い時にどっか行っちゃった。奨学金とか生活保護を受けてなんとかやってたけど、贅沢したいなぁ……って思って、水商売に軽い気持ちで水商売に手をだしたら、抜け出せなくなっちゃった。
ごめん。ごめんね。もっと自分を大切にすべきだった……。玄弥君。もっと違う環境で、世界で、君と出会いたかった。私はあなたに会うのが半分楽しみで半分つらかった……でもやっぱり……本当は。本当はさ……死にたくないなぁ。玄弥君ともっと話したいなぁ…
…でももうダメなんだ私。疲れちゃったよ。もう誰にも迷惑かけたくない。かけちゃいけない。
きっとこんなの間違ってる。そんなのわかってる。わかってるけど、もう先を見たくない。
けどね、玄弥君。君のおかげで思い残すことはないよ。
ありがとう。
さようなら。

 
 眞白の自殺はニュースで知った。死亡推定時刻は眞白が僕にメールを送った数分後。首を吊って……
……黒色は罪の色じゃなかった。死の色だった。僕はなんて勘違いをしていたんだろう。
———最悪だ。僕がそのことに気付けていたら、「黒色」が何を表すのかをもっとはやく知ることができていたら————
 涙が止まらなかった。少し後に自分が涙を流して嗚咽しているのに気が付いた。
眞白……あぁ、眞白……!なんで……!
だって本当は、本当は。
死にたくなかったんだろ?


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?