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幻影④

第4章 後悔

二十六歳、会社員
 あれから何年か経ったが、僕は無事大学に行き、就職もすることができた。
 職場環境は特別に僕が常にサングラスをかけていても許してくれるくらいにはそこそこいい環境だ。上司の人当たりも良く、事情をわかってくれて本当にありがたい。
 給料に関しては少し安い気がするが独り身で生きていくには十分な額だった。
そういえば、今日は久しぶりに日佐人と飲む予定だ。
会話が弾むといい。
 
定時がすぎて、僕は少しの残業を片付けると、約束の場所に向かった。
 
 約束の場所というのは居酒屋のことで日佐人と会うときはたいていここと決まっている。この居酒屋のおつまみはどれも美味しいものばかりで、酒がいつも進んでしまう。中に入るとすでに客で賑わっていて、日佐人はもう席に座っていた。
「よぉ、玄弥?久しぶりだな!」
日佐人はラーメン、餃子、チャーハンと頼めるだけのものを頼んでありったけ口に頬張っていた。
「日佐人こそ、相変わらず元気だね……」

「おやっさん!ビール2杯!あとおつまみ!」
やはり相変わらず、元気だ———
「結婚生活、うまくいってるの?」
僕は尋ねた。
「お?早速聞いちゃう?俺の順風満帆なライフを?」
「あぁ……やっぱやめとこっかな……」
そこから僕らは楽しく談笑した。結婚、世間話、職場の話。それから話は過去へと向かった。
 
「そういえば、今でも玄弥は行ってんのか?その…眞白ちゃんのとこに」
「あぁ……もちろん」
日佐人には眞白のことを伝えた。その時彼は確か、じっと静かに話を聞いてくれた。
「そっか……玄弥にもいつかいい人が見つかるといいな。もちろんそういう問題じゃないかもしれないけどさ」
その後少し沈黙が流れた。
「そういえば、なんで日佐人は僕のことを気にかけてくれるんだ?」
「え?」
「いや、確かに最初は気になって話しかけてくる人は多いけど、継続的にこう関わりを持ってくれる人はあんまりいないからさ。なぜだろうって思った」
「特に深い理由はないが…気が合って話しかけやすいから…かな?」
「そっか。そんなこと眞白も言ってたっけな…。やっぱ忘れられないんだよなぁ……。うん。あの日から一秒たりとも眞白のことを忘れたことはない。彼女のことをもっと理解していれば、助けられたかもって…」
「でも二回しか会ってないんだろ?」
「まあね。それでも、それでも、あの時また会いたいじゃなくて、何かもっと違う言葉をかけていたら、未来は変わったのかなって…」
「例えば?何を言ったらよかったと思うんだ?」
「……愛してるとか?」
「ハハッ!直球だな!
……すまん。つい笑ってしまった……でも、これは非常に主観的かもしれないけど、もし俺が眞白だとしたら、言ってほしいのはそれじゃないな」
「何?」
「いや、愛してるも結構嬉しいと思うんだが、やっぱり一番言ってほしいのは『一緒に生きよう』って言葉かな……」

その後も僕らは数時間に渡って談笑し、自然と酒も進み、夜が明けるまでその店にいることとなった…… 

そういえば、僕が「見える」ものは色だけではなくなった。何かしらの「姿」が見えるようにもなった。ちなみに日佐人の「姿」は太陽。まぁ、名前、性格から考えてもともに納得できる。
しかし、ずっとこの色に関して分からないことがあった。
———自分の色が見えない。もちろん「姿」も。
鏡を見てもなんの色も見えてこない。
僕は、何色なのだろう?

続く


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