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幻影⑤

第5章 悩み
 玄弥との会話でも話題には出たが、あの日から僕は一秒たりとも眞白のことを忘れたことなどない。
「一緒に生きよう。か……」
———そんな言葉をかけてたら、未来はもっと違っただろうか?
 わかっている。考えても仕方ないことだと。
 けど……けど。無理だ。考えてしまう。
 今日は少し残業が長引いてしまった。
 冷たい風が吹き空は満月の光で照らされていた。雲の形がぼんやりと見えた。
 前から人が歩いてくる。下を向いている。悲しそうに、疲れ切った様子で。
————色は……深緑色の草。頭の良い人なのだろうか?思い詰めすぎないでほしいが。
 帰る途中いろんな人を見た。黒色もあの日から何人か見た。彼らには死神が憑いていた。けどもうどうでもよかった。いちいち気にしていたら、きりがない。
……いや、違う。本当は眞白が死んだからだ。それでもうどうでもよくなってしまったんだ。
————もっと早く姿も見えるようになっていたら……そんなことをまた考えてしまう。
——その時だった。いつも通り公園を横切ると、少年がベンチにひとり座っていた。色は…紺色の深海。
 僕は驚いて話しかけた。
「どうしたの?こんな時間に?迷子?家出?」
「この先の道が、わからないの。」
「この先の道?帰り道のことかな?」
「ちがうよ。未来のことだよ。」
「あぁ、なるほど…不安なんだね。そっか…」
 唐突な話題で戸惑ったが、不思議と自分は落ち着いていた。今僕がこの子に伝えられることは……
 僕は一息ついてから話し始めた。
「僕も…不安だよ。この先、この気持ちをどうしていったらいいのかわからず、悩んで悩んで、悩み続けてる。でもね。この頃ようやく気づいたんだ。それでいいんだって。わからないけど、わからないなりに進んでいいんだよ。大丈夫。大切なのは君が生きたいように生きることさ。人は本来生きることを前提に生きるんじゃなくて、生きるために生きるんだよ。」
 話しながら自分の中でも心が整理されていくのを感じた。僕はその少年の目を真剣に見続けていた。
「どうゆうこと?」
「ははっ。子供にはまだ難しいかな。ま、わかる時が来るよ。君が今その不安な気持ちを抱えているだけでもすごいことなんだから。」
 少年は数十秒何か考えを巡らせていた。
 ん?というか…色が…
「ありがとう。何か…進めそうな気がする。」
「え?ああ、うん。そういえば君、名前は?」
「空也(くうや)。」
「空也か。いい名前だ。」
「お兄さんは?」
「ん?玄弥だよ。」
「玄弥さん、また会ってくれる?」
「もちろん。この辺に住んでるから、たぶんまたすぐに会えるさ。じゃ、暗いからもう帰りな。子供は寝る時間、だな。」
「またね!玄弥さん。」
「ああ。」
 空也という少年には何かとても興味をひかれる部分があった。
先の道か…さて、僕はどうなることやら…
 
 ベッドに横たわって考えていた。自分に見える色や姿について。この能力が役に立ったことはない。というかさっきなんで————
 まあいいか。また空也に会えるといい。そんなことを考えながら、気づけば眠りについていた。この先何が待っているかも知らずに…

続く


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