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幻影⑥

第六章 運命

 おかしい。あの少年、空也に会ってから、人の色が見えなくなった。いや、見えてはいるんだが、いろんな色に目まぐるしく変わる感じだ。
 どういうことだ?こんなの初めてだ。
 
 それから2週間が経過した。が、相変わらず色が定まらない。変化と言えば灰色をもつ人が増えたような気がする。それでまた不安になる。あの日からわざわざ公園の道を通り空也がいないか確認してみるのだが、二度と空也を見かけることはなかった。
 
 
 目の前に眞白がいた。僕は眞白のことを後ろから眺めている。声が出ない。僕は眞白に触れようとする。その肩に触れようと全力で走る。
でも手が届かない。眞白が僕から離れていく…‼
「眞白、待って!逝かないでくれ!眞白!」
僕は心から必死に叫び続けた。何度も、何度も、何度も……
 

「はっ!」
 目を覚ました。眞白がいなくなってから、しばしばこの夢を見る。その度に自分が心底眞白に惚れていたことを自覚する。
 頭を数回掻きむしった後、僕は頬を叩いて気を取り直した。
 そうだ。色が定まらずともサングラスをかければ何とかなる訳だし、もとより他人には色が見えないらしいじゃないか。
 そう考えれば、色の喪失はそんなに気にすることじゃあない。
 おぼつかない気を感じながらも朝の支度をして、会社へ出勤しようとした。
 そして玄関を出ようとしたその時だった。
 突然、電話がかかってきた。
 
[不明]

なんだ?セールスか?音量を最大にしていたため驚いてしまった。何か気になるものがあったが、電車に乗り遅れるといけないと思い、その電話にはでなかった。
しかしその日の夜、また[不明]の電話がかかってきた。朝と同じ電話番号。
 仮にセールスの電話だとしても、一日に同じ電話番号にかけてくることはないだろう。
 いや、かけてくるとしても朝から昼の間にかけるだろう。
ということは僕のことを知っている人物がかけてきている可能性が高い。
誰だ?数秒の迷いはあったが、僕は出ることにした。抑えきれなかった好奇心のせいだ。
「もしもし?」
「もしもし?あの、玄弥さん?ですか?実は僕桐谷眞白という女性に関係していた人の調査…を現在している者でして…」
—————耳を疑った。まさか眞白の名前が出てくるとは。電話の声は男性だ。しかしあれからもう約十年経っている。なぜ今になって?
咄嗟のことで言葉を失ってしまった。
「もしもし?」
「あぁ、はい。知っていますよ。知っていますとも。しかしなぜ、眞白さんのことを?」
「えっと…話すと長くなってしまうので、日を改めて直接、お会いできないでしょうか。そこですべて話させてください」
「あぁ、そうですか。わかりました。でしたら18日の……」
その後その男とは会う約束をした。しかし、本当になんで今更…
 
 月曜日、僕は有休をとり、電話をかけてきた男に会いに行くことにした。なんでも休日は子供がいるから不都合だったようだ。場所はファミレス。
 先に着いたので席に座っていると、一人の男がこちらに歩いてきた。
「あの…玄弥さんですか?」
「ああ、はい。あなたは…えっと…そういえば名前を聞いていませんでしたね」
「あぁ、そうでした。申し訳ありません。私は山崎蒼真(そうま)と申します」
「山崎さん。いや、突然驚きましたよ」
「はい、まずは二度に渡っての突然のお電話、大変申し訳ございませんでした」
「いえいえ、謝罪は必要ありませんよ。それよりも…」
———なぜこの男は眞白を知っているのか。
「はい。まず私と眞白の関係についてですが…眞白とは、恋人以上の関係にありました」
眞白には彼氏がいたのか……!
「恋人以上?恋人ではなくてですか?」
「ええ。実は私と眞白の間に子供が産まれたのです。まだ結婚はしていなかったんですが…」
「……え?でも眞白はあの時…」
「はい。眞白は十六歳で出産をしました」
つまり、僕と会ったのは出産してから一年後ということか…あの時の眞白にそんな事情があったとは…
「その時の山崎さんの年齢は?」
「二十歳です…もちろん、子供は今でも大切に育てています。……眞白はもういませんが……」
「それで、なぜ僕の電話番号を?」
「あぁ、はい。眞白の携帯に「玄弥」と書かれた連絡先がありまして、他に男性の名前の連絡先は自分以外見当たらなく、眞白と親しい関係だったのかと思い、もしそうなら何か話が聞けたらと…」
「そうだったんですか。しかし、その…」
「構いません。話してください」
「はい…眞白がなくなってから、もう十年ほどが過ぎています。なぜ今になって僕に電話をしてくれたのでしょうか?」
「本当にお恥ずかしい話ですが、眞白がいなくなったあの日から、自分はやけくそになっていまして…生きる目的を見失ったまま、なんとなく生きてきて。立ち直ることもできないまま気づけば十年が過ぎていて……。けど、少し前に息子にあることを言われてハッと我に返りまして。涙が枯れるくらい泣いたあと、誠実に生きる決心をし、眞白のこととも向き合おうとようやく決心が着いたのです」
「息子さんが言ったあることとは?」
「わたしのやけくそ状態を見て、息子も不安になることが多く、時々一人で私の気づかないうちに夜、外に行ってしまうことがしばしばあって、そこである人に言われたそうなんです。「君が生きたいように生きていい」と。息子に行った言葉だとわかっていたものの、私が頭を打たれた思いでした」
ん?なにか聞き覚えがあるな…
「ちなみに、息子さんの名前は?」
「空也です。青空のそらになりと書いて…」

続く


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