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幻影⑦

第七章 真実

———驚いた。まさかあの少年が眞白の息子だったなんて。しかし思い返せば、どこか懐かしいきがしないでもなかった。
「そのある人とは多分私のことです————」
 僕は山崎さんに告げた。
「え?そうだったんですか!驚きました。いや、本当に……。つまり、私は玄弥さんに救けられたということですね。本当に。本当にありがとうございました」
 山崎さんはたいへんに感銘を受けているようだった。そこで僕は空也のことに話題を向けた。
「最近、空也君はどうしていますか?元気ですか?」
「ええ。私が正気を取り戻してからというもの、はじめこそは戸惑いを見せていましたが、徐々に慣れてくれたみたいでいまでは完全にとはいきませんが、仲良く暮らすことができています。空也は本当に優しい子です」
「そうですか。それはよかった。それからお尋ねしたいのは眞白がなぜ一人暮らしをしていたのか。ということですが…もちろん、山崎さんに差し支えなければですが…」
「気をあまり使わないでください。……しかし、そういえば玄弥さんと眞白さんの関係をまだうかがっていませんでしたね。よろしければ教えていただけませんか」
「あぁ、そういえばそうでした。すみません。こちらの話もせずにずけずけと。自分の悪い癖です」
 僕は山崎さんに眞白との思い出を話した。メールのことも。
 それから僕の眞白に対する思いも告げた。
「こんなことを山崎さんの前で言うのは少しおかしいかもしれませんが、僕は眞白に心底惚れていました。ですから眞白が自殺したと知った時は本当に心が傷み、後悔の念に駆られ続けました。もちろん、今でも」
「そうでしたか……。眞白は最後まで思い悩み、迷っていたんですね……。玄弥さんの気持ちもわかります。眞白は本当にきれいだった……。」
 数秒間を置くと、再び山崎さんは話し始めた。
「先の玄弥さんの質問に答えなければなりませんね。まずは眞白が妊娠したとわかった時から。その日、私たちは何度も話し合いました。私は眞白の意見を最大限尊重したいと思い、その気持ちを伝えました。眞白はどうするべきか迷いに迷っていましたが、最終的には産むという決意をしました。私も全力で子育てのサポートをすることを誓いました。そして出産を迎えました。元気な男の子でした。
と、そこまでは順調だったのですが……半年ほど経ったあと、眞白が一人で泣いているのを見かけたのです。すぐに駆け寄って訳をきくと、妊娠したことがわかってから休学をすることになり、その理由を眞白が親しいと思っていた友人に聞かれ、彼女は本当のことを伝えたそうなんです。その数週間後、眞白のクラスグループでこんなメールが流れていたそうなんです」
 
「産まれた子可哀想ー」
「子供の気持ち考えろよ、クズ」
「ヤるだけヤってできちゃった的な?」
「将来のこと考えてるのかな?」
 
「眞白が妊娠したことは高校ではその子にしか伝えていないようなので、おそらくその情報をクラスに流したのはその子で間違いないだろうと。
眞白は親しいと思っていた友人がそうではなかったこと。子どもの将来の不安を突かれたことで不安になっていた様子でした。
そのメールが流れてから何カ月も経っていたため、『なんですぐに教えてくれなかったんだ!』と怒って聞いてしまったんですが、『一人で考えたかった』と……彼女はそう答えました。
それから、眞白は私に少しの間一人で考える時間が欲しいと言ったのです。
私は眞白の考えを尊重はしたかったのですが、母親がいないで、空也はどうするんだい?と空也の心配を口に出しました。
しかし、眞白は「すぐに戻るから」といって一人で暮らすことの決意を変えませんでした。
仕方なく、私は最低でも一年で必ず戻ってくることを条件に眞白が少しの間一人で暮らすことを許しました。
しかし眞白とは完全に連絡まで断っていたわけではなく、少なくとも2週間に1回は必ずビデオ通話をするようにしていました。
眞白が死ぬ直前まで———
玄弥さんと同じです。あの時なんで気づいてやれなかったのか。十年経った今でも、悔やんでも…悔やみきれません」
話すうちに山崎さんの目からは涙が溢れていた—————
「眞白が亡くなった後、私宛の遺書が届きました。玄弥さんと同じです。そこで眞白が空也の将来のお金のために売春にまで手を出していたことを知りました。それで心が壊れてしまったことも————眞白はずっと一人で抱え込んでいたんです。幼いころから両親もいなかったみたいで、悩みは自分だけで背負うものと考えていたんでしょう。それでもやっぱり……話してほしかった……」
ファミレスの穏やかな空気と今僕たちがしているこの話はどこか不釣り合いなものがあった。
僕もまた眞白に対してあきらめきれない気持ちがあったため、山崎さんにお願いをした。
「山崎さん、もう一度だけ空也君に会わせてくれませんか。眞白の子と知ったうえで空也君をもう一度見てみたいのですが—————」
「ええ、もちろん、一度と言わず何度でも。何度でも会ってやってください」
その後、休日に空也と会った公園で会う約束をして僕は山崎さんと別れた。
あぁ、そっか。僕は長い間感傷に浸っていた。

海を見つめていた眞白を思い出す。
山崎さんの話を聞いてやはり度々考えることがあった。
僕は眞白に何をしてやれたんだろう……

続く


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