見出し画像

幻影①

第一章 出会い

 僕は幼いころから「何か」がみえた。
 幽霊じゃなくて形のあるものでもなくて。なんかこう、色のついたオーロラ?みたいな。それが人からにじみ出てくる。
 なんでかはわかんないけど、他の動物、たとえば虫とかからは見えない。けど、知能がある程度高い動物ほど、うっすらとだけど最近見えるようになってきた。でも人間が一番わかりやすい。色のパターンもだんだんわかってきた。なんとなくは。でもみんなもこのパターンは理解しやすいと思う。 なぜって。うーん、言葉ではうまく言えないけど。聞けばわかるさ。まず、寛大な人や優しい人はオレンジ色になることが多い。で、逆に冷酷な人は濃い青色、合理的な人は緑、自己中心的な人はピンクの要素を持っていて、イライラしてる人は赤。聞いててわかると思うけど、人間は色を何種類か持ってて特定の感情が出たとき特定の色が引き出されるって感じなんだ。
 さっ!「何か」の話はおわり!今日も学校行かなきゃな。
「行ってきまーす」
「玄弥(げんや)?サングラスは?」
「あっ忘れてた」
「もぉー気を付けてよ」
「ごめんごめん。じゃ、今度こそ行ってきまーす」
 サングラス。これは僕の必須アイテムだ。人の多いところに行くと、色ばっかりで気分悪くなるからね。サングラスをかけると、「色」が見えなくなる。先生には光過敏と嘘をついてる。
 「何か」が見えるなんて、信じてくれないだろうから。そしてこれは僕だけの秘密だ。そう、親も信じてくれなかった。真面目に話しても子供の言うことだと真剣に聞いてくれなかった。
 世の中の常識がわかってくると僕が異常なことに気づき始めた。信じてくれないってことはきっとほかの人には見えないんだな。そんなことは十二にもなれば気づいた。
 幸い、僕の学校ではいじめもなく、穏やかな暮らしができた。友達もたくさんいる。親友って言っていいのかな。遊んでくれる子も1人いる。彼の名は日佐人(ひさと)。彼はいつも人気者だ。オレンジ色が強くみえる。そんな彼はサングラスをかけた僕を初めて見た時でも他の子と同じように扱ってくれた。
「玄弥、今日遊ぼうぜ!」
「いいよ!いつもの場所ね!」
いつもの場所とは河川敷のことだ。僕たちはいつもそこで遊んでいる。

———放課後———
 いつものようにサッカーをして、夕方になり、帰ろうとしていた時のことだ。他愛もない話をして休憩していると、少し遠くに人影が見えた。
 僕はその時なんでかわかんないけど僕はすごく、その人が気にかかった。その人が近づいてきて姿がはっきりしてくると僕ははっとして条件反射的に叫んだ。
「逃げろ!」
「どうした玄弥?」
当然、みんなが驚いて僕に訊く。
「いいから、早く!あの男から逃げるんだ!」
 僕が大声で言ったから聞こえたのか、男は突然、走り出して近づいてきた。
 みんなもその男のただならぬ殺気を感じ取ったのか、一目散に逃げる。
———まずい。追いつかれる。僕は走りながら今まで出したことのない大きな声を出した。
「助けて!助けて!」
 周囲で遊んでいた人たちもこちらに気付き、穏やかな雰囲気とは場違いな男に異変を感じたのか、その男を見るなり、距離を取った。
 百メートルくらいを必死でみんなと走り、後ろを見たときには、もうその男はいなかった。
 あとで警察が来て、男の特徴を聞かれたけど、少し遠くて顔の特徴はなにもつかめなかった。
 それで、このことはあとで警察にも日佐人にも聞かれたんだけど。
「なんであの時危ないってわかったんだ?」
「いや、歩き方がちょっとおかしかったんだ。こう、フラフラってしててさ」
 僕はうそをついた。本当の理由はサングラスなしで見た男の色が今までに見たことのない真っ黒なものだったからだ。
 
 後日、テレビのあるニュースが目に飛び込んできた。———無差別殺人事件。
 犯人はアイツだった。僕たちを襲おうとしていたアイツ。犯人の写真をみてわかった。もちろん過去の写真だったけど、言葉では説明できないような確信が僕にはあった。
 電車の中で、三人刺殺または撲殺したあと、火を放ち、自分の腹を突き刺して死亡したそうだ。その時僕はふと直感的に感じた。
————ひょっとして、黒色は罪の色なのかな?

続く


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?