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“やさしい社会”は生理を知ることから始まる。みんなの生理研修@法政大学

「女性特有の生理について、なぜ男女問わず知るべきか?」

ソフィの#NoBagForMeプロジェクトの一環として、提供してきた企業向けプログラム『みんなの生理研修』。
生理にまつわる知識向上や、職場での相互理解の促進を目指した本プログラムは、企業という枠組みを超えて全国に広まりつつあります。

自治体に続いてご紹介するのは、大学憲章で「自由を生き抜く実践知」を掲げる法政大学での「みんなの生理研修」です。
学生が中心となって企画した今回の課外講義には、こんなタイトルがつけられていました。

「生理から知る『やさしい社会』をつくる方法」

冒頭の問いに対して、法政大学のみなさんが出した一つの答え。当日の様子とともに、そこに込めた思いを聞きました。

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「生理の貧困」に関する議論も


5限の授業時間に開催された課外講義には、対面・オンライン合わせて31名の学生さんが参加してくれました。
このうち3分の1に当たる10人が、男性を含む「生理を経験したことがない人」です。

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ソフィの担当者による講義では、生理の仕組みや生理にまつわる不調、そして生理ケア用品の選択肢や使い方を解説しました。講義後の質疑応答タイムでは、さまざまな質問が出ました。
 
「生理の症状は、同じ人でも年齢によって重くなったり軽くなったりする?」
 「同棲中の彼女に料理を作っているけど、生理中は香辛料を控えたほうが良い?」
 「ソフィの月経カップには、海外のようにいろんなサイズ展開があるの?」

続いて、企画した学生スタッフから、男女それぞれの生理にまつわる経験談のほか、「生理の貧困」に関する学生間での調査結果が発表されました。

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まず紹介されたのは、1カ月で生理にかかる金額について。
ナプキンだけで済むAさんの場合は、1カ月にかかる費用は300円ほど。一方で、生理が重く治療が必要なBさんはピルや鎮痛剤も加わって5,000円前後、アルバイトを休んでしまった場合の損失も含めると、その負担はさらに大きくなります。
 
生理の症状だけでなく、費用にもかなりの個人差があることが垣間見えるデータです。

また、発表を担当した学生スタッフは「経済的な貧困は、知識の貧困によって引き起こされることもある」として、「父親が生理に理解がなく、コロナ禍でバイト代が減っても、生理用品を自分で用意しなければならない」といった周囲の無理解に苦しむ声を紹介しました。

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※こちらのスライドは学生制作、生理研修内で発表されたものです。

後半は、男女混合のグループに分かれてのディスカッションを実施。
生理の体験談や対処法、両親やパートナー、将来持つかもしれない自分の子どもなどの“自分の大切な人”へ生理の話をするにはどうすればよいかについて話し合いました。

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「生理のときって1日中、出血を気にしないといけないんですよね……?」
 
こんな素朴な疑問に対して「白いボトムスなんて絶対に着られません」「体育座りが楽だけど横モレが怖いからできない」と返す女子学生さんたち。
 
「いろんな婦人科にかかったけど、なかなか合う病院が見つからない」という悩みに、「自分もカウンセリングの先生を探すのに苦労しました。初診料がもっと安いといいのに」と自らの経験に置き換えて寄り添う男子学生さん。
 
服用中の低用量ピルのカードを見せて、副作用について説明する女子学生さんの姿もありました。 

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予定の100分を少しオーバーするほど盛り上がりました。事後アンケートの結果も、女性は「非常に満足した」「満足した」合わせて93%、男性は「非常に満足した」が100%となりました。
 
今回の課外講義について、それぞれの視点で学生さんたちに振り返ってもらいました。

「生理は他人事」がスタート地点


まずお話を伺ったのは、参加者のお二人です。

遠山開さん(デザイン工学部3年)※本イベントの企画・運営を一部サポート
本田昌恵さん(人間環境学部2年)


──生理について学ぶ機会は、いつ以来でしたか?

 
本田:私は割と最近ですね。ゼミでジェンダー研究をしているので、フェムテック(※)をテーマに、月経カップなどの新しい生理用品について扱うことがあります。生理の仕組みについては、学校の保健体育で習ったきりですね。

※女性(Female)とテクノロジー(Technology)を掛け合わせた造語。生理や妊娠・出産、更年期といった女性特有の健康課題の解決を目指すサービスや製品を指す。

遠山:僕は正直なところ、少し記憶が曖昧です。小中高で学んではいますが、男性だと学んだことが生活に直接結びつく機会が少ないので、昔覚えた数学の公式や歴史の年号みたいに、知識が薄れてしまうんですよね……。
 
──過去に生理で失敗やモヤモヤを経験したことはありますか?

 
本田:実は中学3年のときに、婦人科系の重大な疾患が見つかりました。生理痛がひどく、血の塊が出たりしたのですが、まだ生理になり始めて間もない頃。それが異常だと、すぐには気づけませんでした。「あのとき、もっと生理の知識があれば、もっと早い段階で病院に行けたら……」と、今でもモヤモヤと考えてしまいますね。
 
遠山:生理はなんとなく痛そうだし怖いし、そもそも男性からすると言葉にするのが難しいものです。これまで母が理由もわからずイライラする姿に戸惑ってきましたが、今回の講義でいろいろ学んだ今、「もしかして生理の症状なのかな?」と少し理解できたように思います。

──お二人とも、生理についてよく知らずに悩みを抱えたことがあったのですね。今回のイベントから活かしていけそうな点はありましたか?
 
遠山:一番は、“配慮の行動をとる勇気”ですね。生理の知識を持つこと自体、一般的に男性の中では浮いてしまう行為だから、知っておきたいと本当は思っていても、なかなか一歩が踏み出せないんです。
 
だから、勇気を出して参加したこのイベントで多くの男性に出会い、自分以外にも「身近な誰かの力になりたい」と思う人がこんなにいるのだと、目に見えたのがとても嬉しかったです。
 
今まで女性に対して手を差し伸べたくても「引かれるかもしれない」という恐怖や、男性の気遣いはかえって不快かもしれないという考えから、あえて“何もしない配慮”を選択してきましたが、グループディスカッションで、気遣いが嬉しいという女性がいるとわかった。
 
大切なのは、配慮を自分の中だけにとどめないことなんじゃないかなって思いました。今後は勇気を持って、配慮を行動に移せる気がします。
 
本田:私は、生理について気軽に話せる場の大切さを感じました。こんなふうに生理について男女で語り合うのは初めてでしたが、いざ話せる場になると、男性も女性も言いたいこと・聞きたいことがたくさんあるんだなって実感しました。今後も友だちとの間で、こういう場を作れたらと思っています。
 
それと、偶然このイベントに参加していた男友だちが「知らないことは知っておこうと思った」と言っていたのが印象的でした。私も生理に限らず、その姿勢を見習いたいな、と。
 
遠山:たしかに。僕は、“当事者じゃないからこその知る意味”があると思っています。男性は生理の当事者にはなれません。自分との違いを認めて「目の前の人のために何ができるのか」を考えるのが重要なんじゃないでしょうか。女性と意見交換できる場がすごく貴重なので、ディスカッションは特に男性に体験してほしいですね。

本田:そうですよね。もし次回またイベントがあれば「男性も意外とたくさん参加していたよ」と、周囲の背中を押したいです。

「勉強が手につかない」誰にも言えなかった受験期
 

最後に、今回の企画をリードした学生スタッフの方に、初めての試みを振り返ってもらいました。

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百瀬沙彩さん(人間環境学部3年、法政大学ボランティアセンター学生スタッフVSP)

──今回のイベントは、百瀬さんの体験がきっかけになっていると聞きました。
 
百瀬:はい。私は高校3年生になってから、生理の症状がすごく悪化したんです。おなかも痛くなるし気分も落ち込んで、最初はたまに保健室で休むぐらいだったのが、徐々に学校を休む日が増えて、家でも悲しくて勉強がまったく手につかない。そして、それを誰にも相談できませんでした……。
 
受験勉強に影響したのはもちろん、高校生活の最後に悔いが残りました。そういった私の経験が、この企画のきっかけになっています。
 
年度初めから準備に動いていて、はじめは医療従事者の方や学校の先生に講義をお願いしようとしたのですが、多忙でなかなか引き受けていただけませんでした。そこで、ソフィが企業向けに「みんなの生理研修」という活動をしていると知って、依頼させていただきました。
 
──イベント名の「生理から知る『やさしい社会』をつくる方法」という視点には、私たちソフィのメンバーも感銘を受けました。
 
百瀬:ありがとうございます。このタイトルは、メンバーから募った案を組み合わせたアイデアです。最も意識したのが、性別を問わず参加してもらえる場にすることです。テーマが生理だと、やはり女性が主体になりがちです。

たしかに生理で苦しむのは女性かもしれません。ただ男性でも、身の回りで生理に関するコミュニケーションで悩んだり戸惑ったりしたことがあるという声を耳にします。
 
とはいえ、「生理は男性が知っておかねばならない知識だ」と言いたいわけでもありません。自分が自分自身を労れるように。大切な人を大切にできるように。あるいはもっとつらい誰かへの理解が及ぶように。思いやりの心を持つきっかけになってほしいという願いを込めて、男女ともに通じる今回のタイトルをつけました。

──実際の反響はいかがでしたか?
 
百瀬:募集開始の当初から男性からも応募が多かったのが、期待以上の結果でした。
 
性別問わず参加してもらいたかったので、「どうしたら参加してもらえる?」と事前に男性の友人にもヒアリングしました。予想通り「正直、男性からするとかなりハードルが高いイベントだと思う。気まずいし、無関心な人もいるだろうし」と言われて悩みましたね。実は私自身、過去に生理について男性にうまく伝えられなかった経験があったので、あまり興味を持ってもらえないだろうと思っていたんです。
 
でも、「大切な人が苦しんでいるときの対処法を知りたい」「これからの社会で女性と働くには、生理のことは必要な知識だと思う」といった声が寄せられて、すごく励まされました。同時に、自分の中にある男性に対する偏見にも気づけました。最初から「男の人はこうだから」と決めつけないようにしたいです。
 
事後アンケートでは男性の「非常に満足した」が100%だったのは、講義もグループディスカッションも、きっとすべてが新鮮な体験だったのかな、と。
 
一方で、知識をすでに持っている女性からはもっと踏み込んだ、新しい知識を求める声もありました。今回そこはあえて排した内容に徹したので、この形のイベントは続けつつ、新たに女性向けのもっとステップアップしたアプローチにも取り組んでいきたいと、次の企画をメンバー集めから計画中です。

「みんなの生理研修2021」お申し込み受付中
 

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お申し込みは以下のフォームから。お申し込みをお待ちしています!

文:中道薫


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